第47話 夕闇(鎧狩)

『心配すんなって。師匠にはうまく言うさ、ここには居ないって』


 我ながら上出来な笑みだったと思う。

 不安げな彼女の手を握り、元気づけるように笑って送り出してから、太陽は刻一刻と落ちていく。


 師匠に連れられ、「灰目の鎧人」を狩りに来た。

 成功すれば飯を貰え、失敗すれば拳がくだる。

 毎日の飯のタネ以外の何者でもない。しかし、どういうわけか、狩る相手のために師を裏切ろうとしている。


 弓を持つ指が震えた。

 背中の傷がしくしくと痛み、涙がにじむ。脂汗が頬をつたい、腹痛や吐き気が襲う。

 彼女を逃がし、師匠に嘘をついて、その後は―――?


 考えてもシガミには思い付かなかった。

 彼女とその養父には、狩人の一味だと知られている。師匠を騙せば、激怒の末、打ち殺されるかもしれない。

 運が向いて助かっても、鎧人を……ただ病にかかった人々を、何人も手にかけた自分は、彼女と一緒に行けないだろう。


 けれど、彼女の鎧腕を切るよりいい、と思った。

 腰に下げた刀の柄を撫でる。使い込んだ革の感触がすべらかで気持ちよく、高ぶっていた心が落ち着いてきた。


 時を稼いでも大したものにはならない。

 師匠は自分の目で確かめねば我慢ならず、血眼で集落を探るだろう。

 その間に遠くへ逃げ、雪を待てば、いくら師といえど追い付けない。


 山の稜線に、夕闇が迫っている。

さよならウルヤ、と、シガミはひとり小声で呟いた。


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