第338話 なんだか納得できる僕がいる

 剣戟の応酬が繰り返される。

 遺跡の開けたスペースの真ん中で、二人の振るう三刀が、一人の男の二刀と激しい火花を散らしながら、お互いの集中力や、気力を削り合っていく。


 そんな渦中にあって、たった一人笑みを絶やさないその男は、一合ごとに高鳴りを強くする鼓動を抑えきれないと言った様子で、既に表情は狂気さえ感じる程の笑みに塗り替えられている。


 対峙する二人は必至の形相ながら、まだ何か隠し玉を残しているかのような、不気味な余裕を感じさせるが、それでもその隠し玉を使わないのは、今使えば決定打にはできず、ここぞという場面で決めきれなくなるのを恐れてなのか、それとも単純に使うための状況が整っていないだけか、東条には分からなかった。


「だけど―――その緊張感がまた堪らないッ!」


 既に東条の中ではこの戦いが不本意に始められたことも、世界の行く末もどうでもよくなってしまっている。

 一刀の威力であれば足元にも及ばないような少女が、剣速であれば比較にもならない女性が、それでもこの自分に食らいつき、そしてまだ立っているという事が何よりも東条を興奮させていた。


「覇剣:覇突き」


 繰り出された高速の突きが東条の頬を掠め、微かな出血を起こさせる。しかし、それさえも今の東条の高揚を抑えることはできないどころか、むしろその一撃が自身に届きうる領域にあることを知った東条はさらに笑みを深くしながら顔の横にある戻され始めた刃を強く握りしめた。


「突きの速度は及第点だよ。この僕でさえ回避が少し遅れてしまう程だからね。だけど引きが甘い。それじゃ僕のような頂にはまだ及ばない」


 まるで万力にでも固定されたかのように動かすことができない刀を榊は即座に手放し、逆の腰に差されたもう一刀を抜き放った。

 

「滅剣:刺離滅裂」


 再び繰り出された突きだが、先程の素早く異常なまでの破壊力を秘めていることが分かる突きとは大きく異なり、その刃は酷く緩慢に、しかし、何故か油断ならない動きを持って東条の顔面に迫っていった。


「―――ッ!?」


 間一髪。今のは本気で危なかったと、東条が驚きを隠しきれず表情を大きく崩した。理由はただ一つ、見えている突きと、実際の突きに大きな差があったのだ。

 緩慢などではなかった。油断などしていいはずもなかった。先ほどの強力な突きほどではないにしろ、突きを放った者の腕も超一流であり、その突きでさえ頂に坐する自身を脅かすには十分な物だった。


「雷煌剣……我流:鈴蘭」


 肩をぶつけてしまうような距離感でありながら、二人は突きを中心に攻撃を組み立てることで、普通ではありえない空間内で剣を振るうことが可能となっている。

 そして東条が最も舌を巻いたのも、その阿吽の呼吸だった。感覚としては、同じ脳みそから指示が出ている存在が二つ目の前に存在しているような、それでいて各々が独自に判断し、動き回るという最悪の性質を持っているような感覚さえ与えられるほどに二人の息は合っていた。


 石島の放った鈴蘭、雷の如く迫る連突きのこと如くを左腕一本でいなしていると、別の方向から膨大な殺気を感じ取った。


「剣が無くては防ぎきれませんね……壊剣:銀丞」


 解放された刃は鈍色の輝きを放ちながら東条に迫っていく。しかしそれに対しても東条は驚くことはあれど、焦るようなことはなく、伸ばした腕にその言葉を投げかけた。


「―――手刀」 


 榊の一撃がかちあげられ、刀が宙に舞ったのと同時に、東条の手から激しい出血が起こる。

 それを見た石島はすかさず次の攻撃を仕掛けようとするも、御伽の力によって二人ともはるか後方に移動させられてしまった。


「―――面白いね。本当に。戦ってる最中に尋常じゃない速度で強くなっていくのを感じる。普通であればありえない事なんだけど、それでも君達であればなんだか納得できる僕がいるよ」


 東条は本気ではあれど全力という訳では決してない。それは目の前の女たちの成長を見たいという反面、自身に及ぶ可能性をもっと育ててから打ち倒したいという欲望からくる行動だった。

 そしてその欲望が来る理由が先ほど本人が口にした戦いの中で強くなっていくということろだった。

 レベルという概念がある限り、戦闘中のパワーアップは殆ど望めない。しかし、目の前にいる二人はそうではなかった。

 戦いの中で確実に早くなっていく。確実に強くなっていく。ついてこられない攻撃に反応するように、支えられない攻撃をしのぐように。

 それが面白くて仕方がないのだ。こんな経験は今まで一度たりともしたことがなかったのだ。

 だからこそ、彼女たちがどこまで強くなるのか東条は楽しみで仕方がなかった。その結果として自身がやられてしまう事も厭わないという感情さえ溢れてきている。

 だが、それを邪魔してくるのが頂という存在、その背負う運命。神に忠実に従う存在であるがゆえに、東条は自身の中から自身の意識に働きかける運命にひたすらに抗い続けていた。

 自意識の強さだけでその働きかけ全てを否定している状況で、さらに目の前の二人との戦いも楽しんでいるのだ。

 

 だからこそ、全力ではあれど、偽物のを一掃した時のような攻撃は使えない。技にそこまで意識を集中させれば、即座に運命に飲み込まれ、あとは殺戮を繰り返すだけの存在になることなど目に見えていたからだ。

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