第297話 弱い俺は必要ない

「……そう…………か……まあ、お前さんに言いてぇことがねえってわけじゃねえし、殺したことを何にも思わねえわけでもねえが…………あいつらを止めてくれて…………ありがとよ」


恐らく、この男は俺の言った特徴でその操られた者達が誰なのかを既にはじき出しているのだろう。苦しそうな表情で、とても人にお礼を言うような態度ではないが、それでも彼の口から出た言葉が本心なのだとひしひしと伝わってくる。

英雄派という大派閥の頭領ともなれば、全員の顔と名前、特徴を一致させることが如何に大変なことかは想像に易い。しかし、それでもこの男はそれを覚えているのだろう。

だからこそ、大派閥の頭領が務まるとも考えられる。


「ほれ。話はそこまでじゃ。我等に与えられた時間は限られておる。さっさと移動を開始するぞ」


そう言って、俺の襟首を掴み上げ、他のドラゴンより明らかに小さなドラゴンの上に飛び乗ったドラニア。その突拍子もない行動に、置いて行かれた者達が唖然とした表情を浮かべている。


「貴様らも早う乗らぬか。時間は有限じゃ」


そう言ってドラゴンの背中をひと撫ですれば、それだけでドラゴンがドラニアの意思を読み取ったかのように浮上し、そして風を切る。


「説明しろ」


2人きりになった理由や、何故お前がここにいるのか。その全てについてを、俺はこの一言に込めた。

ドラニアも、何を説明していいのか困惑することはなく、少し嬉しそうな顔を浮かべると、俺に話を始めた。


「我の師匠が来たのじゃよ。そして、告げたのじゃ。戦力をかき集めろとの。来るべき戦いが起こる。そのための最後のピースは、既に用意してある。そう言ったのじゃ」


「お前の…………師匠だと?」


まさかこの女にも師匠がいたのか?

最強の一角と呼ばれるこの存在の師匠…………どれ程の者なんだ。


「かか。まあそうじゃろうな。我の師匠など、想像もできぬだろうよ。しかし、察しのいい貴様であれば、こういえば理解するじゃろう…………なぜ我らが最強の“一角”と呼ばれておったのか…………との」


一角………様々な意味があるが、この場で最も適した表現としては、欠片、あるいはピースの一つ。最強の一角という事は、こいつを始めとした冥王や、その他の最強の一角が合わさり、ようやく“最強”に至ることができる…………そう言うことか。


「お前の師匠が………その最強なのか」


こいつらの力をかき集めた最強ではなく、“個”としての最強が、もしこの世に存在し、それに肩を並べるために最強の一角、つまりドラニアを始めとした者たちが力を合わせ、その最強にようやく並べる様な、そんな存在がいる………。

ふいに頭を過るあの黒い仮面の男の姿。自身を小田と名乗り、俺の知っている小田とは全く異なる力を有した………俺の知っているオダ。


「まあ、本来は違うのじゃがの。我らと、頂と呼ばれる4柱の世界側の人間。それらが一度だけ共闘したことがあるのじゃ。たった一人の最強を倒すためにの」


風を切り、流れる髪をかき上げたドラニアは、昔を懐かしむ様な、それでいてどこか悲しそうな顔でそう言った。


「その最強の名は………絶対者ゴールド。理を書き換え、この世界の頂点に君臨しておった化け物じゃ。その戦いで、二柱の頂は落とされ、最強の一角のうち、覇王、雷帝、霊王は死に絶えた。その時からなのじゃよ…………冥王が最強の名に固着し始めたのは」


たった一人の最強がいなくなったからこそ、空いたその最強の座に収まろうとしたという事か。

ありがちな話だな。


「師匠は言いおった。これを超えれば、未来は大きく開けると」


その師匠というやつは、どうして戦いに介入しない。そこまでの事情通であれば、戦いに参加し、冥王を打倒することも可能なのだろう。

それをしない理由はなんだ?その師匠というやつは一体何を知っている……。


「そう言えばお主………妙に気配が揺らいでお―――っ!?」


ドラニアが振り返り、その瞳に蒼い光を灯すと同時に、俺の顔を驚きと共に睨みつけた。


「どういう…………ことじゃ…………どうしてお主が…………“師匠とおなじ”…………いや、じゃが師匠よりはまだ…………」


「同じだと?」


何が同じなんだ?それが分かれば、もしかするとそいつの秘密に何か近付けるのかもしれない。


「貴様、心を………魂をどうした………」


「不必要なものを殺した。弱い俺は、誰からも必要とされないのでな。そんな弱い俺は必要ない」


戦いが弱い、力が弱い、能力が弱い。そう言った弱さではなく、心が弱く、意思が弱い。そんな奴は必要ない。これから先の戦いにとって、足枷にしかならないだろう。

無くなってしまえば、すり減ることも、押しつぶされることも、ましてや操られることもなくなるしな。


「我は…………間違っていなかった…………あぁっ!!我の選択は間違いなく正しかったのじゃ!!!」


一人手放しで喜び始めたドラニア。だが俺はそれがなぜそんなにいい事なのか分からない。


「全てが繋がった!これで、これでようやく我は師匠との約束を果たせる!」


「おい、落ち着け。まずなぜそんなに喜んでいるのか俺にも教えろ」






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます