第296話 英雄派と旧龍王派

俺の話しを聞いていた連中が唖然としているのが分かる。

別に俺には同情などは必要ないから下手に騒がれるよりはよっぽどいいな。


「これで俺のことが信じられるか?」


ここまで話をすれば、やつらも納得したようで、少し表情を歪ませながらもうなずいた。


「先を急ぎたい。もう行くと―――っ!?」


そこまで言いかけ、俺は気配探知に反応があった“空”に目を向けた。

他の連中はまだ気が付いていない様だが、気配探知には確かに無数の気配が引っかかっている。

それも、かなり強力な個体が多く、その中でも、一つの巨大な個体の上にいるやつは、ハッキリ言えば規格外だ。 

あの武王でさえ、そいつとは比べ物にならないかもしれない。


「あれは………」


俺を除き、一番最初にそれに気が付いたのは榊だった。そして、それに続くように近衛が反応を示した。そんな中であっても、聖女は依然として無関心の様子でその光景を見ているだけだったが、心なしか、額に汗が薄らと浮かんでいる。

そして、ついにそいつ等が視界に収まる距離まで近づいてきた。

近くに来たことでより一層明確になった気配から、俺は既に警戒を解いているが、この中で聖女と、デル、クライド等の異世界に住む連中が、その光景を焦りと恐怖の表情で見ている。


「この気配は英雄派の……で、ではやはり英雄派と旧龍王派に結びつきがあったという噂は………本当だったんですか………」


冥王を見た時より、さらに深い絶望を顔一面に張り付けた聖女が、空から落ちてきた青い着流しの男を見つめる。

この男が、あの気配の正体か。


「いきなりでわりぃな少年少女。俺はゼクトってもんだ。そっちの聖女様とかは知ってんだろうけど、一応英雄派の頭領をしてる」


俺よりも、さらに一回り程年齢が上に見える男が、真剣なまなざしで俺を射抜いてきた。

瞬間、俺とゼクトと名乗る男の間の緊張感が爆発的に跳ね上がり、周囲で聞こえていた音が、どんどん遠のいていくような感覚に陥る。

周囲から聞こえる音も、瞳に写る色も、周囲の景色も必要ない。ただ、目の前の男の一挙手一投足に細心の注意を払っていなければ、瞬く間に命を刈り取られる。


「てんめぇ、アタシのダーリンに何ガン飛ばしてんだよッ!!!」


俺の認識の、見えていた景色の外側から、突如俺の見える世界の中に飛び込んだ近衛が、そのゼクトという男に斬りかかった。

全身全霊の力を込めた大太刀の振り下ろし、それに加え、何かしらのスキルで攻撃を強化しているような気配を感じる。

それだけではない。近衛は俺と戦った時にまだ“使いこなせない”と言っていた覚醒。あれを完全に制御しているように見える。

今のあいつの姿は、シックなドレスに、所々フリルがあしらわれた物であり、ゴスロリと呼べる代物ではなくなっていた。


そんな彼女の超威力の一撃は、ゼクトに当たる寸前で勢いを失い、その振り下ろした刃さえも、ゼクトの手によって軽々と受け止められた。


「別に戦おうってんじゃねえんだけどなぁ」


呑気に片腕を懐に入れたまま、そう言ったゼクト。

しかし、その懐には既に榊が踏み込んでおり、あとは視認することもできないような居合の一撃を受けるだけだ―――そう思っていた。


「おっ、嬢ちゃんはしっかりと訓練してる見てえだな」


前蹴り。達人のごとき腕前の榊が、鞘から刃を抜き放つよりも早く、鞘と柄を前蹴りによって抑え込んだゼクト。


「だけど、まだ弱っちいわな」


柄を抑える足を、刀に引っ掛ける様にして振り下ろせば、巫女服の腰辺りにねじ込まれていた刀が、鞘ごと抜け、空中に舞った。

しかし、大太刀を手放し、今度は近衛の拳がゼクトの顔面を狙う。

空気を纏うような、轟音と共に打ち出された拳は、ゼクトの右頬に向け一直線に進んでいく。


「なんだ、こっちも喧嘩慣れしたいいパンチじゃねえか」


それを、榊から奪った刀をつかみ取り、鞘の先で拳を払うようにして逸らした。

その拳は、懐にまで潜り込んでいた榊に当たり、不意の攻撃に榊は防御することも出来ず、地面を転がった。


「まあ先に仕掛けてきたのはあんたらだからよ、すこしくれぇ痛い目を見たって恨むんじ―――っ!?」


がこんっと、恰好をつけてたゼクトの頭に金属をボーリングの玉の様に丸めた物が落下し、その衝撃でゼクトの発していた闘気が一瞬で霧散した。


「ゼクトさん、なにしてるんですか?」


上を見れば、ジト目にメイド服を着た懐かしい仲間の姿が見える。

その子の隣では、活発な印象を与える女の子が、こちらに手を振っている姿が見えた。


「やっぱりお前たちだったか。南、阿佐ヶ谷………それとドラニア」


彼女らの乗るのはもちろんドラゴンである。そして、俺には“錦卸”があるので、そのドラゴンたちが俺の周囲に悪意を持って近寄るはずがないのだ。

龍の原種たるリンドブルムの気配を放つこの刀を俺が持つ限りは。

しかし、今ドラゴンは俺の周囲に溢れかえるほど存在し、空中にも空を覆うような数のドラゴンがいる。

そんなことをできるとすれば、龍の王くらいのものだろう。


「察しがいいの。さすが我が愛弟子じゃ」


いつの間に俺の背中にもたれかかっていたドラニアが鼻を鳴らしながらそう言ってきた。

随分と久しぶりに思える再会だが、それよりもあの化け物の説明を頼みたいところだ。


「あやつはゼクトと言っての…………貴様の兄弟子じゃ」


ドラニアの弟子であり、俺の兄弟子か。通りで強いわけだ。

だがまあ、これで弱かったらそれこそ拍子抜けなんだがな。


「お前さんがババアの新しい弟子って奴だな?俺はゼクトってんだ。一応英雄派の頭領をしてる」


 頭を腫らしながら俺に差し出された手を、俺は握り、自己紹介を返すことにした。


「俺は橘だ。一応あんたの弟弟子にあたる。それと、申し訳ない。俺は英雄派のやつを6人ほど殺した」


惑王との戦いで、洗脳されていた6人の英雄派の人間。俺はそれを殺した。隠し通すこともできただろうが、それよりもここで話してしまった方が何かといいだろうという判断だ。

今ならドラニアもいるしな。


「…………どんな奴だった?それと、どうして殺した、内容次第じゃババアの弟子だろうが、今ここでテメエを殺す」


「剣士の男、盾を持った男、ハンマーをもった男、小さな双子の少女、それに斥候の様な男だ。そいつらは惑王に操られ、俺の仲間を傷つけた。そのせいで騎士王が利き手を失い、ミリアナたちは窮地に立たされた。だから殺した」




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