第263話 あんたを迎えに来たの

何よりやべえのが・・・・あのミリアナから主導権を奪えるやつがいるってことだ。

魔法の腕は世界でも指折りのミリアナが、それをされた。

考えたくはねえが、もし敵にそんな化け物がいやがったらと思うとぞっとするぜ・・・。


「クソッたれ!やってやらぁ!!!!」


一瞬スキルを使うか悩んだが、やめた。

俺の体は特別性で、半分はミリアナに作られたものだ。

スキルを使うと回復までの時間が大きく伸びるし、そもそもミリアナの付加した不死が弱まる可能性もある。

最後の最後までスキルは温存しておきたい。


「邪魔だァァァ!!!!」


まずは勇者辺りを回復させねえと。

そう思い、迫りくる傭兵崩れのような奴らの剣を躱し、代わりに俺の槍をくれてやる。

雑多な連中が多いが、中にはそれなりにできる様なやつが混ざってる。

それをうまく見極め、できるだけ最短最速で殺すッ!


「わりいが手加減は苦手でなッ!押し通らせてもらうぜ!!!」


俺の体が、まるで槍と一体化するような、そんな錯覚を体が引き起こす。

それに伴って、俺の体からあふれ出す闘気が槍に伝わっていくのが分かる。


「ミリアナには頭があがらねえな」


スキルを封じ込めた魔法具、それも珍しい空間収納系の物を俺に持たせてくれてるお陰で俺はこうして戦える。

俺を作った理由がクソッたれな理由だったとしても、俺はそれに感謝してる。


「ついに出てきやがったか」


だから、負ける訳にはいかない。

例え相手が“王”であろうと。


「お前が主犯だな?」


妖艶な姿、まず頭に駆け抜けたのはそう言った印象だ。

次に、吸い込まれるような瞳。

全てが黒塗りされたかの如く真っ黒なその女は俺を見てにっこりとほほ笑んだ。


「傅きなさイ、私の美しさニ」


そう言われ、一瞬体が何故かそれに従おうと動き始めたが、それを邪魔するように先ほどミリアナが施した魔法が俺に鎮静の効果を齎した。


「ほウ、私の蠱惑に掛らないト。それはそれは・・・・生意気なこト」


口元を手で隠した女が俺を見て少しだけ驚いた顔を作りやがった。

だけど、驚きてえのは俺も同じだ。

ふざけんなって言ってやりてえ気分だぜ・・・・・。


「まあいいでス、あなたの相手はこの者たちがやってくれますかラ、私はまだこの遊びを眺めていることにしましょウ」


そう言って俺から視線を外した女の横から、勇者と、そして英雄派に属してたはずの連中がぞろぞろと出てきやがった。


マズいな・・・・・・。


「では・・・楽しい遊戯ヲ」


女がゆっくりした挙動で離れていく。

少し離れたところで俺達の戦いを観戦する気なんだろうな。

畜生、ウザってえ女だ。


それに、体の動きがかなり鈍い・・・・。

あの女の力を完全には無力化できてねえってことだなこれ。


「惑王様の御心のままにッ!」


まず手始めに勇者が俺に突っ込んでくるが、こいつはそれなりだが、俺たち第一線級ほどには強くねえことは知ってる。

馬鹿正直に振り下ろされる金色の剣を槍で流し、その反動で石突部分で側頭部に殴打を打ち込むが。


「させないッ!」


英雄派の連中がその間に入って槍を防がれた。

あの女、俺が勇者を殺せないことを分かってこいつを差し向けてきやがったな。


「ちっ」


一旦バックステップで距離を開けると、背後に回った英雄派の男に背中を斬り付けられた。

激痛が全身を走り抜けるが、そんなことに構ってる暇なんざねえ。

両脇から現れた小柄な女二人が短刀を俺に突き出して来てやがった。


「旋風槍ッ!」


スキルではなく、純粋な技を使って、槍を振り回す。

大気を絡めとる様に振るわれる俺の槍によって攻撃は防がれ、女二人がその場から飛びのくのが見えた。


「グランドスマッシュ」


しかし、女二人もどうやら囮だったようで、俺の頭上から降ってきた巨大なハンマーを振り下ろす男の一撃によって俺は簡単に殺された。


「まあこの程度ですかネ、できることなら騎士王を相手取る前にさらに戦力を集めたかったところですガ、この際諦めますカ」


ゆっくりと引き上げていく女たち。

俺を叩き潰した男も俺に興味がなくなったのかすぐに視線を切り、女の背後に駆け寄っていった。


「—————おいおい、どこ行くつもりだよ、お前の言う遊戯ってのはまだ始まったばっかじゃねえか」


驚いた表情で振り返る女。

俺をしっかりと視界に収め、女は少し不機嫌そうな顔でもう一度俺を殺す様に指示を出した。


「どんなスキルかわかりませんガ、しつこい男は嫌われるものですヨ」


「女に嫌われるより、護らなきゃならねぇもん護れねぇ方が、俺は嫌なんだよ」


全力の踏切で飛び上がり、そのまま女にめがけて槍を突き出す。

この女を倒せば、こいつらは解放されるはずだ。

わざわざ仲間から倒してやる必要なんざねえしな。


「くたばれや」


スキルの使えない俺に、スキルと同等の力を与えてくれる闘気。

それが槍の穂先に集中し、バチバチと音を立てる。


「——————一つ言い忘れてましタ。別に仲間はここにいるだけじゃないんですヨ」


あと数センチで当たる。

そう思った時、俺の陰の中から小柄な黒髪のガキが現れて、手にした大ぶりのナイフで俺の首を簡単に落とした。


「イイ子ネ、アラシ。よくできましタ」


◇◇◇


「リリス、あなたは旦那様を逃がしてきなさい。例え何があろうとあの方だけは守らないとだめ、いい?」


隊長がわたしにそう言ってきた。

わたしがあの男を?どうしてそこまでし無きゃいけないの?

あの男は武王に負けてから、なんだか抜け殻みたいになって、いっつも部屋の中でうじうじしてた。

復興で忙しいのにそれを手伝おうともしない。

あんな奴お金さえ払って無ければ宿から追い出したいって宿の店主さんもいってた。

それなのに騎士王様も勇者も、副隊長もそして隊長も皆口を開けばあの男のことばかり。

いい加減うんざりしてきた所にあの敵の群れ。


恐らくあの男は気づいてる。

だけどそれでも動こうとしないなんて本当に腰が抜けて動けなくなってるみたいね。


「最悪・・・」


そうつぶやきながらわたしは街を駆け抜け、目的だった宿に到着した。

あの男が泊まっているのは確か・・・


「ココね」


分かる。

悪魔の私には姿が見えなくても魂が何となくわかるから。

この部屋からは・・・・・そうね、酷く弱弱しい魂が見える。

一息吹けば今にも消えてしまいそうな、そんな魂。

これほど魂が衰弱することはなかなか無い。

武王に負けたことがそれだけショックだったってこと?

でもこいつ王でもないし、いくら何でも自意識過剰もいいところね。


「出て来て、あんたを迎えに来たの」


ドア越しにそう声を掛けても部屋の中の魂に動きは見られない。

どうやら居留守をしようって魂胆みたい。


「分かってるから。出てこないなら入るよ」


むかつく。

何時までうじうじしてれば気が済むの?


一向に部屋から出てくる気配がなかったからドアを勝手に開けて中に入る。

案の定鍵はかかっていなかった。


部屋の中に入ると床に水差しが落ちて割れてたり、備品の机までひしゃげた状態だった。

当の本人はベットに腰かけ、頭を抱えているだけ。

一体何がしたいのやら。


「ねえ」


これはきっと、好奇心じゃない。

苛立ちだ。

仲間が、隊長が戦っているのに、この男はここで一人で頭を抱えるだけ。

それで悔しくないのか、そう言ってやるつもりで、わたしは声を掛けた。


「無視?」


その態度に既に苛立ちを覚えているのに、無視までされてさらに苛立ったわたしはついカッとなって彼の胸を少し強めに小突いてしまった。


「—————ひっ」


その顔を見て、わたしの口から小さな悲鳴が漏れ出した。

泣いている、それはわかる・・・だけど、この顔はなんだ?

一生分の苦しみを、悲しみを、全て濃縮した物を味わっているような、苦虫を噛み潰した程度では到底できないような、そんな表情で、彼は泣いていた。


頭を抱えているように見えた手は耳を覆い隠していて、全身は、触れれば小刻みに震えていることが分かる。

わたしを半レイプした時の強い面影は一ミリもそこには存在しておらず、今の彼から受ける印象は・・・・。


———————弱者だ。



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