サラリーマンは振り出しに戻る

第253話 奢れ

クライドは思ったよりもずっと使える。

そう思ったのはあいつが聖剣の力を開放した時だ。


解放された聖剣は強力な攻撃力に加え、様々な恩恵をもたらすらしい。

まず、身体能力の強化、次に回復力の強化、最後に魔法攻撃の強化だった。

しばらく続いた緑色のアルマジロに背中から棘の生えた様な化け物のエリアを抜ける頃には既にリネアも戦闘に参加することくらいはできるようになっていた。


アルマジロは局所型の魔物でそれなりに強力だったが、それでもクライドのバックアップがあればしっかりと戦えていた。


まぁ、そのレベルの力を求めているわけじゃないんだがな。


「見えた!アレが王都だ!」


そう言って微かに見える白い外壁を指さしたクライド。

今まで見たどの外壁よりも美しく、そして高い。


王都に近づくにつれてその外壁の細部がよりはっきりと見えてくる。

壁の上部には開閉式の窓のような物があり、今は閉まっているが、そこから攻撃などもできるのだろう。

外壁の上にはバリスタや見たこともない装置が所狭しと並んでいる。

恐らくあれも何か攻撃ようにあつらえたものなのだろう。


「タチバナは身分証はどれを使うんだ?」


唐突にそう聞いてきたクライドの声に少し目を見開いてしまった。


「どういうことだ?」


質問の意図が分からない訳ではないが、逆を言えばそれ以外のことが何もわからない、だからこそそう返したんだが、クライドは少し俺に都合のいい勘違いをしたみたいで、「あぁ、王都には初めてなんだ」と言って、自分の荷物の中から二つの身分証を俺に見せてきた。

片方は、俺も持っている冒険者登録証、だが、もう片方が分からない。


「冒険者証は分かると思うけど、こっちは・・・・見た感じ持って無さそうだね・・・こっちのプレートは簡単に言えば“貴族証”って言うんだ、貴族は生まれたその時から身元を家が保証してくれるからね、それと最後に行商や商人なんかが使う商会証明書なんかもあるけど、それは僕も持ってないから説明はまた今度にするね」


そう言って親切に説明してくれたわけだが、こいつ貴族だったのか。

どうも現代日本では貴族に好意的な考え方は少なく、どちらかというと嫌な奴、という印象がある。


「そうか、わざわざ済まなかったな、俺は冒険者証を使う、それ以外ないしな」


そう言ってやれば、クライドは「じゃあ僕らも冒険者証で入ろうか」とリネアに確認を取っていた。

随分と丸くなったな。

最初は問答無用で襲い掛かって来やがったのに。


王都の門の前にはそれなりに長い行列ができており、それは俺と同じような冒険者や、商会証での入場をしようとしている者の列だそうだ。

こんなに色々教えてくれるのはチュートリアル敷島以来だな。

差し詰めQ&Aクライドといったところか。


「ん?どうしたんだいタチバナ」


「何でもない、気にするな」


ついついそんなことを考えてたら本人に気づかれてしまった。


「ちょっと、何なのこれ・・・貴族証ならさっさと入れるんだからアタシたちだけで先に入って待ってた方が良いんじゃない?」


並び始めて数分でリネアとかいうのが音を上げた。

こっちの女も元は貴族か。

普段は並ぶこともなく入って行けるのは素直に羨ましいと思う。

俺だって可能であればこんなに並びたくはない。


「駄目だよ、だって僕はタチバナのことをしっかりと見極めないといけないんだ、それにこうやってゆっくりするのも悪くないんじゃないかな?」


そうだよね?と言って俺に視線を送ってくるクライド。

知らん。としか言えないが、ここでそう言うとリネアがやかましいだろうから形だけ頷くことでその場を収めることができた。


「そう言えばお前らは最初サクヤを見て俺を追ってきたんだったな」


「そう言えばそうだったね、あの町から追いかけてきた時はもうそのことを少し忘れかけてた気がするけど」


「それはどうでもいいんだが、それでサクヤはどうなったんだ?」


「どうでもいいんだ・・・・・なんだか古い友人に面倒を見てもらうそうだね、たまたまその場にいたみたいで」


偶然にしては、少し妙なタイミングだし、あんな状況のサクヤをなぜ最初放置したのかわからない。


「大丈夫なのかそれ」


「それなりに強そうではあったからね、暴漢に襲われたりはないと思うけど」


強そうか・・・不安は増すばかりだが、まあ機会があればついでにどうにかすればいい。

それまでにどうなろうがそれは俺の知ったことではない。


そんな感じの雑談をしていれば、思ったよりもすぐに俺達の順番が回ってきた。

武骨な鎧に身を包む騎士がクライドの顔を見た直後、腰を抜かすような勢いで後ろに数歩たじろいだ。


そこからはへこへことした態度に変わった騎士がほぼ顔パスで同行者と紹介された俺まで中に入れてくれた。

多少はマシになったと思った異世界のセキュリティーはやはり脆弱なものだった。


顔で判断だと、“そう言ったジョブ”を持っているやつが簡単にどこでも行けてしまうと思ってしまうのは考え過ぎか?

俺の想像するようなジョブが存在しないからこその配慮だったりするのかもしれない。

まあ今はすんなり街に入ることができてよかったと思うことにしよう。


「そう言えばタチバナはその・・・復讐の為に人探しをしてるんだよね?」


俺を見極めるとのたまったくせに、復讐と聞いてもなんだかんだ着いてくるこいつは一体どうしたいんだ?

ぎりぎりになって「復讐は何も生まない!誰かがその連鎖に終止符を打たないと争いはいつまでも終わらないんだ!」とか言い出すんじゃないだろうな。

もしそうなら・・・・・斬るか。


「・・・・・・な、なんか今背筋がゾクッとしたんだけど?」


「気のせいだろう。それかリネアがお前の尻でも見てたんだろう」


「ちょッ!?」


どうやら・・・・あながち間違いでもなかったようだ。

顔を赤くして俺を睨みつけてくるリネア。

苦笑いで頬を掻くクライドを伴って、まず目指すは例のごとく宿だ。


「その前にご飯にしない?私お腹減っちゃったんだけど」


「そうだね、僕も少し話したいことがあったからちょうどいいかな」


「そうか、では俺は先に宿に行っているから二人とも食事が終わり次第合流してくれ」


そう言って二人に背を向けて歩き出したが、何故かクライドが俺の服の裾を掴んで止めてきた。


「ちょッ!?ちょっと待って!なんで君だけ別行動なんだ!?せっかくだから皆で食事にしようよ!」


焦ったようにそう言ってくるクライドの背後では、リネアが面白くなさそうな顔をしている。

アイツはクライドにベタ惚れだからな。


「気にすることはない、2人でゆっくりしておけ、なんなら俺とはここで解散でも構わない、というよりもそうしたい」


実を言えば、こいつらがいては少し邪道な情報収集を行えないという危惧がある。

前回のサクヤのようなケースは異例だが、女の情報網は侮れない。

それこそ夜に生きる女であればなおさらだ。

南がいたら間違いなく取れなかった手段だな、それに、イングリッドのこともそうだ。

どうしても子供に見えてしまうあの二人を伴っての旅は、本来俺の持っているカードを自ら切れなくしていたことに改めて気が付かされた。


「ぼっ僕は!・・・君が欲しい情報に心当たりがある・・・・」


こう言えば俺が足を止めると思ったのか、必死にそんなことを言ってくるクライド。


しかし、振り返り、こいつの瞳を覗き込んでみれば、何故だかそれが嘘ではないと思えてくる。

勇者のジョブ効果である可能性も否定はできないが、せっかくの情報をあえて聞かない選択はないか。


「奢れ」


それだけ言って、俺は足を止めた。

クライドは満足そうに乱れた服を整えると、リネアの方に駆けて行った。



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