第252話 マジぱねえっす

少し顔の赤いままの男が立ち上がり、服の裾で手をぬぐってから俺に握手を求めてきた。


「さ、さっきは助かった、ありがとう」


「あぁ、貸しにしておく」


そう言って手を取ってやれば、少しだけ強く握られる。

嫌がらせで強くしてきた訳じゃないことは分かるが、何がしたいんだ?


「それよりもだ。足手纏いは必要ない。ついてくるなら、死んでも後悔するなよ」


そう言って少し離れた場所で、男の持っていた剣だった女と話をすることにした。

俺達から離れたところでは、男が他の女どもを必死に説得しているように見える。


「お前は何者だ」


そう言ってやれば女は最初の女神のような姿勢を一瞬で崩し、不良漫画の下っ端のような感じで話し始めた。


「私っすか?私はエクスカリバーっす。マジで。だけど、所詮聖剣なんでちょっと兄さんの持ってるそのお方にはかなわないっすけど・・・あぁ、ちょっとかなわないって、少しだけ劣ってるとかそう言う意味じゃないっすからマジで。むしろ逆の腰に挿されてる刀とか絶対私よりやべえやつですよね?」


「こっちが錆姫で、こっちが・・・リンドブルムを倒した時に手に入れた錦卸だ」


「ぴえぇぇぇぇぇぇぇえ!?りりりっりり・・・・リンドブルム!??!?!?!?あの龍の堕神っすか!?まじっすか!????え?ちょっと触ってもいいっすか?」


三下感を如実に表したエクスカリバー・・・スカが錦卸に手を伸ばしてくる。


「おすすめはしないがな」


スカが錦卸に指先を触れた瞬間、案の定彼女は吹き飛ばされて、地面を滑っていた。


「ま、マジぱねえっす・・・・・・」


「どうしてお前はそんなに三下感のある話し方なんだ。最初はもっと精霊や神仏に近い様なオーラや話し方だっただろうが」


「いやあれは仕事用っすから」


職場で使う敬語のような物か、と勝手に納得し、今度は錆姫に触ろうとするスカ。


「スカ、さすがに錆姫はやめておけ。朽ち果てたくなければだが」


“彼女”は非常に変わり者で偏屈で頑固だ。

そもそも刀に“投擲不可”なんて能力を付けるのだから俺以外に握られる気はさらさらないのだろう。


「ひぃ!?そんなにやばいんすか!?」


「触れた武器を錆させ、朽ちさせる。それを吸収して強くなる刀だ」


「あ、はい、マジすんません・・・・・・ってか今更ながら“スカ”ってひどくないっすか?一応一番有名な聖剣っすよ!?」


「すかすか自分で言ってるくせに何がひどいだ。それにしっかりとエク“スカ”リバーからもじってやったんだぞ」


「普通そこ略します?意図的な悪意を感じるっすけど!?」


「やかましい奴だ・・・・斬るか」


「・・・・・・・・」


大人しくなったスカをその場に残し、どうやら話がまとまった男の方に向かった。

騎士風の女と、忍者女は目に涙を浮かべているものの、魔法使いの女はなぜか呆けている。


「話がまとまったようだな」


「うん、二人には・・・・・戻ってもらうことにした」


辛そうな顔でそう言ってきた男に相槌を一度打ってから、追い返される二人に眼を向ける。


「文句があるならかかってこい。俺に触れることが出来れば考え直してやる」


そう言った瞬間に、二人は目に生気を取り戻し、そして同士討ちを始めた。

勿論俺の幻術でお互いがお互いを俺だと認識している。


「やっぱり使えないな。おいお前、この二人にこれを渡しておけ。戻ったらイングリッドに読ませれば・・・・まあ何かしらの便宜を図ってくれるだろう」


イングリッドに一筆したためた手紙を魔法使い風の女に押し付け、俺は男と向き直る。


「俺は橘だ。好きに呼べ」


「タチバナ・・・・タチバナか・・・・わかった、僕はクライド・レイヴェルト。それとこっちが・・・・リネア、なんだけど・・・・どうしてリネアだけは連れていくことを許可してくれたの?」


不思議そうにそう聞いてきたクライド。

まぁ本来は連れて行く気はなかったんだがな。

仲間の為に立ち上がって、身を犠牲にする姿に、少し思うところがっただけだ。


「気まぐれだ。それに、そいつはお前が吹っ飛ばされた時、一人だけ助けに行こうとしていた。ついさっきぼこぼこにされた相手に向かってだ。それを評価しただけのことだが、本来は連れていきたくはない。だからお前が守れ。守れるくらい強くなれ」


大きくうなずくクライドと、ようやくそこで納得した顔になったリネア。

最後の理由としては・・・・ジョブが“操炎者”と言うもので、修行中にドラニアが話していた珍しいジョブだったのも関係している。


なんでも、魔力を使わずに炎を操れるそうだ。

あのスカイドラゴンは遊びではなく、最初からブレスを出していたら・・・・ひょっとすると返り討ちにあっていたかもしれない・・・・・・こいつの今の力でブレスの主導権が奪えるかはわからないが。


「準備ができたのならさっさと移動を始めるぞ。お前らのせいで時間を相当とられた」


先に歩き始め、そこで振り返ると、仲間との別れを悲しんでいる様だった。

面倒だし置いて行こう。


そう思い、そのまま足を進めていけば、後ろからクライドの声が聞こえる。


「タチバナー!待ってくれよ!・・・・・・はぁはぁ・・・な、なんでいきなり置いてくんだよ」


息を切らしたクライドと、話すのもきつそうにしているリネアが俺に追いついてきた。


「着いてくるのは勝手だが、待ってやるなど一言も言っていない」


それだけ言って再び歩き始めれば、辛そうにしながらもしっかりと着いてくる二人。

特にリネアは未だに息をぜぇぜぇと荒げているが、それでも泣き言も言わず着いて来ている。


根性だけはまあまあだ。


「そう言えばお前たちの旅の目的を聞いていなかったな」


歩きながら話しかければ、呼吸を落ち着けたクライドが答えてくれた。

その話は、俺が思っていたよりも複雑な事情を含んでいて、それでいて俺の目的に少しだけ近いものがあった。


「僕のジョブが勇者なのは知ってるだろ?それを前提に聞いてほしいんだけど・・・最近冥王派の動きが活発になったせいで、触発された色々な大規模派閥が動き出してるんだ、その中でも最も如実にそれが現れてるのが“英雄派”と“堕神信仰派”、“聖教派”だ、派閥が動くとそれだけ様々な物を徴収し、そして軍備に当てることになる。それだけじゃない。戦闘用に村の人が徴兵されることも珍しくないんだ。だからこそ僕はかつての“龍王派”の様にそれらを抑え込む抑止力となる派閥を作るために旅をしているんだ。少しでも困っている人達の助けになりたい・・・・・・・シノンはもともと作戦に失敗して雇い主に殺されそうなところを助けたんだ。マイアは騎士団長に憧れて、功績を焦ったみたいで実力に見合わない依頼で死にかけてたところを、リネアは——————————」


「別にそこまで聞いてない」


少しうつむいたクライドは寂し気に笑いながら「あはは、そうだったね」なんて言って話を締めくくった。


幾つかこいつの話しで気になる言葉が出てきたな。

幾つかの大規模派閥か・・・面倒ごとの予感がする。

可能であれば関わり合いになりたくはないな。


「ところでタチバナの目的って?」


おっと、俺にお鉢が回ってきたみたいだ。








「俺の目的は——————————復讐だ」












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