第251話 お前あれだろ、白目の

「アレをお前たちだけで殺してみろ、そうしたら、同行を認める、できなければ、田舎にでも帰るんだな」


親指で背後からこちらに迫ってくるドラゴンを指さし、彼女らに視線を向けると、そこに男が割り込んでくる。


「だめだッ!ドラゴン相手にこの人数なんて不可能だ!僕だってスカイドラゴンは戦ったことがあるけど、その時は150人の王国兵を引き連れてやっとだったんだぞ!それをマイア達だけでなんて・・・」


次第に尻すぼみになる男の肩に、マイアと確か呼ばれていた騎士風の女が手を置いた。


「安心しろ、私達だって、ただ君についてきたわけじゃない、倒せるかは別としても、一矢報いることくらいはできるさ」


「そうよっ!見てなさいよそこの男!クライドに鍛えてもらった私達だったらきっとあのドラゴンだって倒せるんだから!」


忍者の女は既に気配を消してドラゴンに迫って行ってるようで、この場にいた二人もそれに続く形で勇ましい雄たけびを上げながらドラゴンに突っ込んでいった。


「マイア、リネア、シノン・・・・・・」


駆け出した彼女たちの背中に手を伸ばす男が、その手を握り締めると同時に俺を強く睨みつけた。

どうやら言いたいことがあるようだな。


「あのドラゴンのレベルは255だ、これから俺が戦う敵よりもずっと弱い、それを倒せないようでは、遅かれ早かれ死ぬ・・・・・それにだ、いざとなればお前が助けるんだろ?」


言外に、やばくなったら行け、といったことに気が付いた男は、いくらか表情を軟化させはしたが、それでも未だに心配そうな顔に変わりはない。


「この辺りはドラゴンのエリアなのか?」


気になったことを聞いてみた。

そもそも、ここには街道があり、人の通りも多い。

そこにこのような強力なモンスターが出たら誰もこの道は使わないだろう。

しかし、昨日見た限りでは、それなりに人も通るようで、だからこそわからなかった。


「いや・・・・・ドラゴンっていうのは特定のエリアを持たない魔物だから、たまにこうやって人里の近くに来るんだけど、まさか今日に限って・・・」


「お前はアレを倒せるか?」


「・・・・・・・無理だね・・・・・それに彼女たちは普通の人に比べれば強いけど、ギルドに登録している人たちに比べたら、まだ駆け出しとあんまり変わらない、だから止めたかったのに・・・さっき声が出せないようにしたのも、君の仕業だよね?」


あの魔法使い風の女が話した時、この男はそれを遮って大声を上げようとした。

だから消音で音を消させてもらったってわけだ。

ちなみに、魔法使い風の女は俺の幻術であほな顔をしながら応援してくれる男の幻覚を見てた。





「さて、そろそろ助けに行け、倒せないようならここまで逃げてこい」


俺の言葉の直後、忍者が尻尾にかすり、地面に落下を始めていた。

空中での戦いで、何故糸や結界を足場にしないのか意味が分からない。

神滅者のような空を歩けるスキルがあるわけでもないのに。


風のような速さで俺の横から走り出した男。

しっかりと鍛えられていることが分かるその走り。

軸がぶれず、いつでも武器を抜ける様な、それでいてドラゴンを警戒しながら落下する忍者女を見ている。


思ったよりもこいつは強いのかもしれない。


スライディングするようにして彼女を受け止めた男はすぐに視線を上げ、残りの二人に声を張り上げ、撤退の指示を出した。

幸いにも、そのドラゴンはまだ“遊び”の様で、撤退していく女どもを見やっても動こうともしない。

攻撃も、攻撃と言えるようなものはしていない。

忍者を攻撃した尾も、攻撃しようと動かした訳ではなく、ただ当たってしまっただけで、あの有様だ。

これで多少は力の差が分かってくれればいいが。


ボロボロの様子で帰ってきた三人組。

俺のことをキッとにらみつけ、皮肉まで言い始めた。


「アンタ、ビビッてそこから動けないわけ?あんな偉そうなこと言っといて一番弱のはアンタよ!力は強いかもしんないけどね、でも、クライドとは心の強さが違うわ!!!」


魔法使い風の女が騎士風の女に肩を貸しながらそう言ってきた。


「俺の心に強さなんてあるはずないだろ、何バカなこと言ってるんだ」


強くも、弱くもない、そもそも強さなんて概念は俺の心にはない。

あるのは怒りと、そして殺意だけだ。


未だにわーきゃーと騒がしい女どもを無視し、俺は男の方に視線を向けた。

黄金に輝く剣を抜き、ドラゴンと相対する姿は勇者然とした物であり、ドラゴンもその刃は先ほどまでの児戯にも等しいものとは一線を画すものであると認識しているようだ。


「だが・・・・足りないな」


勇気だけでは、覆らないものがある。

レベル然り、経験然りだ。

数合の立ち合いの後、ここまで聞こえる風を突き破る音を轟かせたドラゴンの尻尾が、男を空中に跳ね上げた。


「まずいわっ!」


助けに行こうとして、先程の遊びでやられた傷が開いたのか、その場に蹲る魔法使い風の女。

騎士風の女は既にあきらめムードであり、忍者は・・・・・呆然とそれを見ていた。


「—————ダメなら逃げろと言ったはずだがな」


その場で手印を結び、軟性のある結界で男を受け止める。

そのすぐ下には、ドラゴンの顎が勢い良く閉じられ、何もしなければあの顎に粉々に噛み砕かれていたことが分かる。


「変わり身」


その結界と変わり身で入れ替わり、不本意ながら男を抱きかかえるようにして地面に着地した。

突然現れた俺に最初こそ驚いたが、何故か男はすぐにそっぽを向いてしまった。


「・・・・すっすまない」


着地と同時に男を投げ捨て、腰に収まる錦卸を抜き放ち、ドラゴンの前に立つ。

鞘から抜き放たれた錦卸の力を感じ取ったのか、男から、ごくりと生唾を飲み込む様な音が聞こえた。


「丁度試したいことがあったんだ」


振り上げた刃に、幻葬廻廊を使い、疑似【巨大化ジガンテ】を行う。

50メートルを超える刃が、重量の変化なく俺の手に収まっている。

それを勢いよく振り下ろそうとした時、何故かドラゴンが動きを止め、自らの首を差し出す様にして傅いた。


「何のつもりだ」


ぎりぎりのところで刃を止め、話しが通じるかはわからないがそのドラゴンに声を掛ける。

ドラゴンも俺に声はわかるが、何を話しているのかまではわからないらしく、首を一度もたげるとすぐに同じ姿勢に戻ってしまった。


「私がご説明しましょう」


突如聞こえた聞いたことのない声と共に、男の持つ剣がまばゆい輝きと共に、人の姿になる。

その姿は、白目をむいて痙攣をしていた、チカチカとウザかった女だった。


「誰だお前は」


「・・・・・え?忘れます普通!?あんな豪快に人をKOしたくせに忘れるんですか!?」


「ああ、お前あれだろ、白目の女」


俺に詰め寄る様にして声を荒げた女に、そう言ってやれば、さらに凄い剣幕で俺に顔を近付けてきた。


「いや合ってますけどっ!その覚えられ方は不本意すぎますからね!?」


「さっさと要件を話せ、殴るぞ」


またもやかましい女が現れたことにため息をこぼしそうになったが、何とか堪え、そう言ってやると、女は急に顔を青くして俺の近くから飛びのいた。


「それですそれ!その手に持ってる刀!それが龍の系譜で、それも相当な上位の者であるからこそ、スカイドラゴンはあんなになってるんです!」


錦卸のことか。

確かにこいつは・・・・龍の原種だったな。


「そう言うことか」


「かくいう私もそのお刀様の力を一目見た時に、ご挨拶に、と思って出て来てみたらぶん殴られて意識なくなるし、そのせいで免許の更新遅れるしで大変だったんですから」


まぁ、どうでもいいか。


「このドラゴンはどうなる」


「さぁ?私にはわかりません、私にわかるのは原因だけですから」


「使えないな、もういい帰れ、やかましい」


錦卸を納刀すると、スカイドラゴンもようやく体を起こし、俺の前で大人しく座り込んでいる。

どうやら何かしら言わないと動かない様だ。


こんなデカいのが付いてきたら邪魔だ。


「お前も今すぐ帰れ、邪魔だ」


そう言ってやれば、慌てた様子でドラゴンは逃げるように飛び去り、振り返った俺が見たのは、あきれ顔で俺を見る白目女と、男、その背後の魔法使いは目玉が飛び出るほど驚いて大口を開けている。


「・・・・・やっぱり忍者」


指さされてそう言われた。

確か前回も変わり身は使ったと思うんだがな。



「わかったか、お前らは邪魔だ、特に忍者女、それとそこの騎士崩れ、お前らは特に使い物にならない」


え、アタシは?という少し呆けた声がその場にこだました。













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