第178話 簡単に死んでくれるなよ

宝物庫を抜けた橘は、その後も城内を物色し、目についたものを片っ端から略奪していった。

橘の中では戦争を仕掛けたのだから奪われても文句は言わせない、というのが彼の理論だった。


しかし、窃盗を行っている最中に、城が大きく揺れたのが分かり、即座に気配探知を発動した橘。

そして知ってしまった。

巨大な“何か”がこの城の近くで暴れていることを。


「これが堕神・・・なるほど、本当にやばそうな相手だ」


窓から見えたバケモノに、呆れた様な声を漏らした橘は、城からすぐに飛び出し、堕神の元に駆けた。

近くに行けば行くほどバカげたサイズで、それでいて圧倒的な力を感じる。

あれに比べたら自分が蟻程度にしか見えない、そう思いながらも、橘はその脇を抜けた。


堕神の姿は15メートルほどの高さで、全身は青白く、巨大な龍を強引に人間と同じ骨格に当てはめたような姿をしていた。

頭部は龍に近いフォルムをしているが、手はどちらかと言えば人間に近い物を感じる。

足に関しては龍の要素を多く含んでいる気がするが、大元の骨格はやはり人間のそれと近しいものだった。

その剛腕も肌と同色の鱗に覆われており、かろうじて指が5本なことくらいしかわからなった橘は、早々に戦うことを諦め、元の世界に通じる接合部を目指した。


しかし・・・。


「これは予想外だ」


到底堕神の大きさでは潜ることができないサイズの接合部に腕を突っ込み、強引にその大きさを広げた堕神が、一歩元の世界に歩み出してしまった。


「戦う以外の選択はなくなったようだな」


そう言い堕神の足元に駆け寄った橘は、ドラニアにもらった叛刀:眞金千切りを抜き、堕神の足を切りつけた。


『ゴアァァァァァァッ!』


激しい咆哮に地面が揺れるのが分かるが、それでも橘は地面を蹴った。

堕神の体を駆け上がり、うなじに向かって刀を———眞金千切りを振り下ろした。


血が噴き出し、橘を真っ赤に染め上げるが、堕神の体格からすればそれは大したダメージではないことは一目瞭然であり、直ぐに世界を超えるのを辞めた堕神は、そのまま体を大きく揺さぶり、飛び乗っていた橘を振り落とした。


『誰だ、我の邪魔をするのは』


低く、地鳴りのような声でそう言った堕神に対し、橘はそれに答えることはせず、簒奪者の外套の効果も合わせ、姿を隠していた。


「忍術:聖獣結界玄武、紫焔繚閣―――死紫焔塵」


いきなり最高火力の技を繰り出し、堕神の問いかけに答えるように巻き上がった滅紫色の炎。

その炎は堕神を包み込み、中からは時折紫色の爆発が起こるが、数秒後、振るわれたその腕によって簡単に炎は打ち消された。


『どうやら人間の様だな・・・面白い、久しぶりに相手をしてやろう・・・簡単に死んでくれるなよ人間』


堕神は姿を隠しているはずの橘をしっかりと捉えそう言った。

このレベルの相手には、すでにどんなに隠れようが、さほど意味はないことを悟っていた橘は、即座にその場所から離脱、直後堕神の右腕が橘のいた場所を大きく穿っていた。


「爆針」


回避の最中に投擲された針が堕神の顔の目の前ではじけ、煙を上げた。

視界を潰された堕神は、気配を頼りに拳を振り下ろし、橘を捉えた。


「変わり身、アサシンエッジ」


背後に移動させていた分身とすんでのところで入れ替わり、距離を潰した橘は再びドラニアにもらった眞金千切りを背中に一閃した。

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