死者の月、十一月

あれは、そう、十一月サウィンの事よ。

あまり、その頃出歩くのは褒められた事ではないのだけれど。

――ええ、アイルランドの十一月死者の月だもの。

そういえば、十一月サウィンの真夜中に生まれた子どもは、善き人々ディーネ・マハや幽霊を見る力を持っている、なんて言ったっけ。

場所は、道の傍にはぽつぽつと、山査子サンザシ――妖精の茂みスキャッハがあるような、なだらかな坂だったの。

ええ、森も近くにあったわ。そんなに都会ではなかったのよ。

当然、人通りも少ないわ。善き人々ディーネ・マハが出るにはうってつけの場所よね。


そんな時のそんな場所を夕方に出歩いていたのだから、善き人々ディーネ・マハに目を付けられても仕方がなかったんだわ。

だって、夕方から夜が明けるまでは、善き人々ディーネ・マハの時間だものね。


ルーシン、って後ろから声をかけられたのよ。最初は。

当然、びっくりしたわ。

しかも、ふりかえったら、とってもハンサムな金髪の男が立っていたの。

そう、くだんの彼だったのよ。

もちろん、私が引っ越して、だいぶ経っていたから、すぐにはわからなかったけれど。

ええ、ええ、本当にかっこよくて、何重にもびっくりしたわ。

私もきっと、もう少し、注意深ければよかったんだけど、浮かれてしまったのね。


突然、かっこいい人に声をかけられて、しかもそれが実は昔の友達なんて、まるでよくできたお話ロマンスのようでしょう?


でも、そう、だって道を歩いている後ろから声をかけられたのよ、私。

それでびっくりしたんだから、当然、後ろに人の気配を感じていなかったのよ。

でも、誰ともすれ違ってもいなかったのよ。

おかしいと思うべきだったのよ。


――ええ、それが過ぎ去った今となっては何の役にも立たない考えだけどね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る