4章
朝日の中、一人、静かに…
天井の大穴から、朝日が差し込んでいる。
その光の差中にうずくまって眠り込んでいたグリフォンは、ゆっくりとその大きな体を起こし、翼を広げ、天井の大穴へと雄々しく飛び立った。
そんな中……グリフォンの羽に潜り込んで眠って居たヒルデは、コロコロと転がり落ちながら目を覚ました。
「……ん。あ?」
転がった末に座り込み、寝ぼけ眼にヒルデは首を傾げ、それから目をこする。
その手には、まだ太刀をしっかりと握って居た。
寝ぼけ眼のまま、ぼんやりと、ヒルデは天井の大穴を見上げた。そこから、朝日の中へとグリフォンの親は飛び去って行く。
「……ごはん?」
を取りに行ったのだろうか。
まだぼんやりとしたまま、それでも段々と目が覚めだしたヒルデは、そんな風に思った。
良く考えたら、このグリフォンの住処に泊ったのは初めてだ。ばれない様に夜に遊びに来て、夜の内に帰って行くのがほとんど。
グリフォンの子供は、ヒルデと遊んでくれる。けれど、どうしてもすぐに疲れて、夜遅くになると眠り出すのだ。親の元に歩み寄って、親に守られて。
そうなると、ヒルデは結局寂しくなるから、それ以上ここに居るのが嫌で、大人しく家に帰るのだ。
勿論、子供のヒルデはそんな自分の心の動きを正確に把握している訳ではない。
客観視は出来ず、ただここで起きたのは初めて、という所でヒルデの思考は止まる。
そして、昨日の夜は楽しかった気がする、と、ぼんやりヒルデは考えた。
寂しくなかった。話し相手がいたからだ。
話す内容は宵虎の事だ。お互いに知っている事を、どんな風にしていたかを話した。
話している内に眠くなって、話している間に眠ってしまった。
ヒルデも、………今も壁にもたれ掛って静かに眠りこんでいるアイシャも。
金色の髪が朝日に輝いている。じっと動かず、静かに寝息を立てるアイシャの姿は、どこか美術品の様。
綺麗なお姉ちゃんだ。……黙ってれば。
そんな風に思いながら、ヒルデはなんとなく、アイシャの方へと歩み寄って、その寝顔を覗き込んでいた。
宵虎と旅をしているらしい。その内にはぐれて、探していたとか。
眠るアイシャを眺めながら、ヒルデはぼんやりそんな事を考えた。
昨夜、宵虎の話をするアイシャはずっと楽しそうで、けれどたまに黙り込んで、何だか寂しそうにしていた。
結局、はぐれたきり会えていないからだろう。ヒルデは自分の感情には鈍感で、他人のそれは自分よりもわかる気がする。
寂しいのは可哀そうだ。会えたら良いのにとヒルデは思った。
そして同時に、会ったら宵虎はどこかに行ってしまうのだろうとも思う。
無自覚に父を重ねた遊び相手は、ここに長居しない。また、ヒルデは置いて行かれて寂しくなる。
『ヒルデも、来る?』
昨日、アイシャはそんな事を言っていた。ヒルデの両親がいない事は話したし、宵虎があそんでくれたという事も話した。
あるいは、ヒルデから見るとアイシャが寂しそうだったように、アイシャもまた、ヒルデを寂しそうだと思ったのか。
旅と言うのは、面白いのかもしれない。少なくとも、アイシャは楽しそうに話していた。
危ない目には遭うかもしれないらしいけれど、だいたいどうにかなると、、アイシャは気楽そうに言っていた。
ついて行ってみようかな……ヒルデも、少しはそう思う。
けれど………。
ピィと言う鳴き声が響く。
グリフォンの子供が目を覚ましたらしい。
玉座の上で寝転んでいた子供は、目覚めると方々を見回して……親の姿がないとまたピィと鳴く。寂しそうに。
ヒルデがもし、この場所を離れたら……グリフォンの子供は寂しがるだろうか。夜、遊びに来なくなったら、きっと、寂しいだろう。
長老……おじいちゃんも、心配するだろうし、寂しがるだろう。
思い切り遊んでくれる人は居なくても、ヒルデは別に、一人ぼっちという訳でもない。
ここが嫌いな訳ではないのだ。
ヒルデは、まだ子供だ。だから、全ての基準が、自分自身の感情に起因する。
ヒルデは、ずっと寂しい思いをして来た。親に置いて行かれて、友達らしい友達はグリフォンの子供くらいで。
だからこそ、ヒルデは何よりその感情に敏感だ。
鳴き声を上げるグリフォンの子供へと、ヒルデは歩み寄り、ずっと手放さなかった太刀を、漸く地面に置いて、グリフォンの子供を抱き上げた。
すると、グリフォンの子供は、安心したように、甘えるように、ヒルデへとじゃれつき出した。
……どうあっても、誰かは寂しくなる。だから、せめて、寂しい人は少ない方が良い。
ヒルデはそう思って、……そう決めた。
「……あ、もう……くすぐったいよ…やめて……」
その少し甘い様な声に、アイシャは目覚めた。
途端、目に入るのは、身を捩り悶える女の子と、その服の中に潜り込もうとするグリフォンの子供。
暫し、呆気にとられたように、寝起きの目つきの悪さでその光景を眺めてから、アイシャは軽く頭を抱えた。
「朝っぱらから、何してんの……」
呆れ切ったアイシャは、朝っぱらから大きく、溜息をついた。
……ヒルデが、太刀を置いている。その事にアイシャが気付いたのは、それから暫く経ってからの事だった。
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