スキュラとの対峙


 大口、牙が迫る―広間に踏み込んだ直後、間を置かず訪れたその攻撃を、宵虎は跳ねて交わした。


「…手荒な歓迎だな」

「わあああああ!?怖い、怖い!跳ねないで!思ったより怖いこれ!」


 宵虎の背中で、アイシャは喚く。結局、どんな状況だろうと―


(うるさい……)


 そんな事を思いながら着地した宵虎は、広間の中心―そこに座す怪物に視線を向けた。


 スキュラは、燃える瞳で宵虎を―アイシャを睨んでいた。


「酷いわ。なんでこんな事をするの?グラウを傷つけて……」


 何やら、自分の男が殺され掛けた為に、怒っているらしい。


「攫っといて良く言うよね」

「先に害を為したのはそちらだろう」


 口々にそんな事を呟いた矢先、蛇―スキュラの下半身から生えたナーガは、宵虎達へと襲い掛かってくる。

 しかしその一撃から、宵虎は軽々身を交わす。

 ナーガは連続して襲い掛かってくるが、その悉くを宵虎は交わしていく―。


「わあああああああ!怖い!怖いって!…あ、でもちょっと楽しくなってきたかも…」

「…うるさい。うるさいし、邪魔だ」


 アイシャを背中に負ぶっているせいで、宵虎は一切反撃できないのだ。

 そしてそれは、振り落とされないように宵虎にしがみついているアイシャも同じ。


 まるで思惑通りにならない緩急に振り回され、恐怖し、同時にちょっと楽しみ出したアイシャは、やがて飽きてきたのか、真面目にやることにした。


 ぐるりと辺りを見回して、それからアイシャはポンポンと宵虎の頭を叩く。


「お兄さん、お兄さん。もういいや。あそこ。下ろして?」

「…なんだ?何を怒っている…」


 器用にナーガから身を交わしつつ、宵虎は文句を言って―それからアイシャが広間の一角を指さしていることに気付いた。


 それは、柱だ。地面から立ち上り、だが中途で途切れ、滝のように水の落ちる柱。


「…そこに、置けというという事か」


 そう察した宵虎は、駆け出していく。ナーガを振り切り、壁を蹴り、柱を蹴り。


 人を背負っているとは到底思えない軽業師の様な身軽さで、宵虎は柱の上に到達した。

 そうして、宵虎はアイシャを柱の上に置く。


「…こう言う事か?」

「うん。ありがとう、お兄さん。…あと、」


 柱の上に膝を立ててしゃがみ込んだアイシャは、瞬間、弓を引く。

 そして、その射線を宵虎へと向ける。


「ごめんねっ!」


 その一声と共に、アイシャは宵虎を蹴り落とした。


「……む、」


 と声を上げた宵虎がアイシャの目の前からどき、そして、その影に隠れていた光景がアイシャの眼前に広がる。


 蛇の大口―アイシャを下ろすその隙を狙って、スキュラが攻撃を仕掛けてきたのだ。

 けれど、アイシャの射線は、既にナーガへと向いている。


「ラピット・バースト!」


 放たれた矢は、貫通でも拡散でもなく吹き飛ばし。


 どうせ傷を負わせても死なないのだ。なら、吹き飛ばしてガードだけすればそれで十分。

 炸裂した空気によって、ナーガは吹き飛ばされる―。


 そんなナーガの下。着地した宵虎は憮然として呟いた。


「蹴られた。……やはり、怒っているのか…」


 言いながら、宵虎は剣を引き抜く。

 先程吹き飛ばされた物とは別のナーガが、宵虎へと迫る。


「……燃えろバーン


 言霊が宵虎の剣に炎を灯し―その一閃は旗のように閃く。

 両断されたナーガ―その傷口が燃え上がる。


 轟く絶叫はスキュラのモノだ。


「あああああああああああ!熱い……熱い……!」


 先日、いくら切っても顔色一つ変えなかったスキュラが、痛みに呻いている。


「……効いたな」


 呟いた宵虎は剣を正眼に構え、


「倒せそうじゃん…。私有効打ないからさ、頑張ってね、お兄さん!行け行け~!」


 アイシャは自身に迫るナーガを吹き飛ばしながらなにやら喚いていた。


「……置いてもうるさい」


 仏教面で宵虎は呟き、剣を手にナーガと向かいあった。


 

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