第59話 光の勇者と死知らず人
後方、莉依ちゃん、結城さん、朱夏、剣崎さん、ディッツ、ニース。
ほぼ全員が満身創痍で動けそうにない。
まともな戦力は俺だけのようだ。
唯一、剣崎さんだけが無事だったが、彼女の様子から戦えるとは思えない。
俺達を取り囲むように、女性が三人。
彼女達は長府の仲間でまず間違いない。
だが、今のところ手を出す気配はなかった。
つまり、莉依ちゃんと結城さん、朱夏、ディッツ、ニースは長府一人を相手にやられたということ。
長府は軽鎧を身にまとっている。
金髪でヤンキーっぽい。
眼光は鋭く、俺を威圧するべく睨んでいる。
背中には大きめの剣。手には手ごろな大きさの長剣が握られている。
俺は即座に長府を分析する。
・名前:長府和也
・LV:31,254
・HP:4,554,332/4,874,332
・MP:3,128,897/4,064,888
・ST:2,575,311/2,994,337
・STR:342,221
・VIT:252,927
・DEX:301,701
・AGI:287,224
・MND:180,987
・INT:241,889
・LUC:325,321
●アクティブスキル
New・光の剣
…光を収束させた剣。超高温のため、どんなものでも斬れる。
また、剣の衝撃波を飛ばせる。
ただし、効果時間は短く、快晴の昼時にしか使えない。
New・光の糸
…光を収束させた糸。
剣に比べて威力はやや劣るが、有効範囲は五メートルほどになる。
効果時間は光の剣よりも長め。光が少なくとも使用可能。
New・光の弾
…光を収束させた弾。銃弾を思わせる速度と、着弾時に爆発する特性を持つ。
また、使用者の意思で爆発させることもできる。
連射は可能だが、必要MPは多め。光が少なくとも使用可能。
New・光の盾
…光を収束させた盾。使用者の思い通りに大きさを変えられる。
ただし規模に比例してMP消費量も変化する。
快晴の日の出ている時間しか使えない。
●パッシブスキル
New・光に選ばれし者
…日が昇っている時間はステータスが上昇する。
ただし、夜や曇り、日が隠れている環境では身体能力が下降する。
New・ソーラーパワー
…日中、スキルを使わない事で力を蓄える事が出来る。
夜や暗がりの中でも、身体能力の下降を防げ、スキルが使用可能。
New・一騎当千
…敵が複数で、味方は自分だけの場合、身体能力が上がる。
●バッドステータス
・記憶の憧憬
…ランダムで記憶が失われる。どの記憶が失われるかはわからない。
ただし、スキルの使用を抑えればその頻度は減らせることができる。
強い。
ドラゴンに比べると見劣りするが、人間の身でここまで鍛え上げているのは驚嘆に値する。
奴は俺と同じ約八ヶ月前にこの地を訪れたはずだ。
つまりその期間でここまで強くなったということ。
俺とは二万程度のレベル差がある。
一対一でも、劣勢を強いられるだろう。
だが、そんなことはどうでもいい。
莉依ちゃん達を傷つけたこいつを許すわけにはいかない。
どんな理由があっても、どんな正当性を主張されても。
「日下部……。あー!! いたな、クラスに一人。
浮いてる空気君がよぉ? おまえだったのか。
ってか、なんだ? 生き残りは他にいなかったはずなんだけどよ。
……まあ、いいか。殺せばいいだけだしな」
長府は独り言を漏らし、剣を構える。
付け焼刃とは思えない。
中々に堂に入っている。
少しだけ長府の言葉が気にかかる。
同じクラスだったか?
思い出そうとしてもクラスメイトの顔が浮かばない。
……興味を持つことはなかったし、関わりもなかったからな。
ただ、少しだけ情景が浮かんだ。
確か、長府はリア充グループだった。
俺とは住む世界が別だったはずだ。
それが今は、対立しているとは。
人生何があるかわからないものだ。
「どうして、莉依ちゃん達を襲った」
「……なんだ、おまえも事情を知らないのか?
神子からじゃなく、異世界人は全員神託を受けているはずだぜ。
いや……その様子じゃ、本当に聞いていないみたいだな」
長府の口調から、やはり沼田同様に何かを知っている。
俺は沼田の言葉を思い出す。
神託、所属した国、勇者、俺達を殺そうとしているという事、戦争。
そのどれもに俺達異世界人が関わっている。
どういうことか。
神託の内容、それが根本にある気がする。
俺は自身の考えを形にするように、言葉にした。
「例えば……『所属国以外の異世界人を殺す』ことで何かの目的を達成できる、とか」
「……へぇ? それだけか?」
だが、それならばわざわざ戦争を起こす必要はない。
では条件が二つある、という可能性はないだろうか。
所属している国に利益をもたらす、戦争を切っ掛けとしたもの。
つまり、
「もう一つの条件は『所属国を戦勝国にするということ』か?」
そしてそのために異世界人はどこかの国に属して勇者として働く。
あながち的外れではない気がする。
だが仮にその二つが条件だったとして、そんな条件を飲むだろうか。
殺しと戦争に深く関わるということ。
この二つを飲み込むくらいの利益とはなんだ。
すべて俺の妄想の産物だった。
しかし、長府は笑みを深くする。
「知らないながらそこまでわかってるってことは、俺以外に誰かと接触したか。
沼田辺りか? まあ、おまえの言っていることは大体正解だ」
「……だが、俺達は神託を受けていない」
「その理由はわからねぇな。『何かに邪魔された』か『元々されなかった』か。
朱夏は受けていたはずだ。なんせ、その時、俺達と一緒にいたからな」
ということは、エシュト皇国で捕縛される前、つまり転移してから二ヶ月程度の間、実は長府達と行動を共にしていたということになる。
ネコネ族との出会いも考えると、一ヶ月と十数日程度か。
その間に神託を受けた、ということか。
転移して八ヶ月程度だから、あり得なくもない、か。
実際、長府の言葉に信憑性はない。
だが、そんな嘘を吐く理由も浮かばなかった。
では、集落で朱夏から聞いた内容は嘘だったのか。
いや、今はそんなことはどうでもいい。
「あんまり驚いていないみたいだな。予想してたか?
それとも最初から信頼してなかったか?」
「どっちでもない。内心では驚いてるさ」
俺は鉄面皮を維持したまま答える。
長府は面白くなさそうに舌打ちした。
「ふん、反応が悪い奴だな。まあいい。
とにかく、おまえの予想はかなりいい線をいってる。
俺達異世界人はどこかの国に属して勇者として、所属国を勝利に導く。
そして世界を統一させること。
加えて所属国以外に属している、または無所属の異世界人をすべて殺すこと。
この二つを達成した場合、聖神の手によって俺達の願いが叶う」
「願いが叶う……?」
「ありがちだろ? 俺達が聖神によって転移させられたのは知っているな?
それはつまり『この世界の統一者を決める戦い』に俺達を巻き込んだということなんだぜ。
それぞれの国毎に奉る聖神は違う。奴らはそれぞれの国を従え、統一国を決めたいのさ」
「なぜそんなことを」
「さあな。神様ってのは試練を与えたりするもんだし、そういう理由なんじゃねぇの?
だけどよ、このゲームは聖神が定めた規範に則って参加しなければ報酬を得られない。
つまり、勝たなきゃ日本に帰ることさえできないってことだ。
エグイよな。帰りたければ殺し合えって言ってんだぜ。
ま、俺は帰る気はねぇけどよ」
「それなら全員が同じ国に所属すればいいじゃないか」
「はっ、それならわざわざ殺し合いなんてするわけねぇだろ。
一国に五人しか所属できねぇんだ。そして離脱は各国の神子にしかできない。
そうなったらどうなる? 所属している人間は離脱しようとする人間を殺すだろ?
離脱するってことは敵対するってことと同義だからな。
結局、移籍は困難だ。そして俺達が所属しているオーガスはすでに五人が登録済みだ。
俺、沙理、リン、朱夏、円花。内二人はどうやら裏切ろうとしているらしいけどな。
だったら殺すしかねぇ。単純な話だろ?」
だから沼田も俺達を殺そうとしたのか。
長府の話の真贋は今は置いておこう。
嘘を言っているようには見えないし、何より整合性はとれている。
俺と莉依ちゃん、結城さんが神託を受けていない理由もこの際置いておくことにする。
長府の言う通りならば、聖神は俺達に何をさせたいのだろうか。
本当に試練のような意味合いでこんな仕打ちをしているとでも?
それに他にも気になる点はあった。
長府は饒舌になっている。
今ならば質問をしても答えるかもしれない。
「神子というのは、神託を受ける人達とは違うのか?」
「そこらで神託を受けている奴はノイズを聞いているだけだ。
正式に神託を受けているのは神子だけ。そして内容は国の上層部しか知らない。
もちろん、奴らは俺達のことは知っているさ。
ただ、各国に俺達を迎え入れるメリットはあまりねぇ。
単純に勇者って戦力を得られるって程度らしいからな」
つまりオーガスのように長府達を勇者と迎え入れる国もあれば、エシュト皇国のように除外しようとする国もあるということか。
疑問が徐々に氷解していく。
そしてその後に思った。
「おまえは願いを叶えるために、他人を犠牲にしてもいいって考えてるわけか。
腐ってるな」
「はっ、おまえも『そっち派』か。綺麗事を抜かして、吐きそうになるぜ。
おまえは善人なんじゃねぇ。何を犠牲にしても手に入れたいものがないだけだ。
無欲な人間は高尚なわけじゃねぇんだ。ただ中身がないだけだ」
「詭弁だな。そうやって言い訳して、虐げる理由を探しているだけだろ。
誰かを傷つける正当な理由なんてない」
「違うな。言い訳をしているのはそっちだ。俺は俺のため俺の望みを叶える。
詭弁を言ってるのはおまえだぜ」
こいつとは相容れない。
その考えが色濃くなり確信する。
考え方が根本的に違うのだ。
俺は綺麗事を並べているわけじゃない。
単純に、抗っているだけだ。
理不尽から逃れるために戦うだけだ。
仲間を傷つけるような相手を許せないだけだ。
力を望んだのは、エゴを押し通すためだ。
偽善じゃない。
善人でもない。
無欲じゃない。
高尚でもない。
ただ、見過ごせないだけだ。
イヤなものはイヤだ。
嫌いなものを好きとは言えない。
受け入れがたいのに、甘んじて受け入れたくはない。
望みはある。
強くなり、大事なものを守りたいという望みが。
そのために俺はここにいる。
「気に入らねぇな、おまえ」
「それはこっちの台詞だ」
「来いよ。他の奴には手出しさせねぇよ。おまえごとき、俺だけで十分だからな」
「余裕な態度も今の内だ」
俺達は構え、即座に戦闘態勢に入った。
互いに明確に敵と認識した。
数瞬の空白。
後に。
俺達は地を蹴った。
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