ユカ⑩

ユカは風俗で働いてることを、俺には内緒にしていた。


もちろん、俺が知ってるということも向こうには内緒。


そして付き合っていて、同棲している。


テレビなどで若い女性タレントが恋愛などを語るバラエティを観ていて


「元彼で何の仕事してるかわからない人いました。」


「えー!なんで!?聞かないの!?」


というくだりを目にしたことがある。


くだらない。


「秘密」とは誰にも言いたくないから「秘密」なのである。


全員にではなくても、その人に秘密にしておいた方が良いことは山ほどある。


なぜ何でも知りたがるのか。


支配欲を満たすためなのか。


寂しさを埋めるためなのか。


程よい秘密があることは、人間関係において良いスパイスになる。


ユカと俺の関係はまさにそうだった。


俺に恋愛感情はなかったが。


同棲が始まってからも、俺のやることは特に変わらなかった。


ここまできたら、あとはユカが働くのを待つしかない。


そして俺は他の客も掴まないといけない。


ユカだけに頼るのは良くないし、そこまで売上が見込めるような客でもない。


それはよくヒカリに言われていた。


同棲していたものの、ユカから俺に何かを言ってくることはなかった。


カップルではあるが、半ば主従関係のような関係が出来ていた。


ユカは俺に逆らえなかった。


心理的に追い込んだり、暴力をふるったり、悪口を言ったりなどは一切しなかった。


しかし、勝手にそんな感じになっていた。


どちらが悪いとか、どちらを擁護するとかそういう話ではない。


「主従関係」というものは従える側、従う側、それぞれにそうなる理由がある。


従える理由、従う理由。


状況などによって様々である。


俺は人に指図されたりするのが嫌いだった。


誰にも従いたくはなかった。


カナデやヒカリの言うことは聞くが、従っている気はなかった。


従う側もきっとなんかの理由がある。


主従関係と書くと俺が奴隷のようにユカを扱っているように聞こえるが、実際にその関係を望んでいるのはユカだった。


ユカは自ら行動できず、一人では何も出来ない。


従う側にいて、俺からの指示を受けてる方が楽なのだ。


典型的なサラリーマン体質というか、指示待ち人間というか。


それが悪いことだとは思わない。


指示する人間は、指示を聞く人間がいてはじめて成立する。


お互いに良い関係だと思う。


風俗に関してはショウに任せているので、俺からは何もしなかった。


店に来いも言わなかった。


自然と来るようにそむけた。


風俗で働けばストレスが溜まり、捌け口が必要になる。


そして、店に来る。


仲良いホスト達。


ユカにとっては家族より、俺の店のホスト達の方が家族だ。


家族に会うため、店に来る。


店に来るためには金が要る。


そのために働く。


そしてストレスが溜まって家族に会いたくなる。


良いループが出来ていた。




































































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