新しい店

飛ぶ鳥跡を濁さず。


まったく逆のことをしたような感じがした。


ただカナデに「嫌い」ということ伝えたかった。


なぜそんなことした、と聞かれたら、自分でもわからない。


伝えるにしても、わざわざステージに立って客の前で言うことではない。


特に意図はなかった。


もうどうでもよかった。


もう、いい。


切り替えよう。


新しい店になってもやることは変わらなかった。


ヒカリには何でも聞いた。


そもそも客がいなかった俺はたいして聞く質問はなかった。


しかし、何か答えが欲しくて無理やり質問を絞り出した。


「人と同じことをやっててもダメ。人と違うことをしろ。」


ヒカリはこれをよく言っていた。


それはわかっていた。


けど、なにをすればいいかわからなかった。


相変わらず出会い系アプリは続けていた。


大阪の情勢が変わり、キャッチは出来なくなった。


店からも禁止されていた。


営業が終わり、家に帰る。


めんつゆパスタを作って食べ、スマホをいじる。


それがルーティーンとなっていた。


何人に送ったかもう覚えていない。


そのうち返信が来たのは何件だろう。


返信が来たと思ったら業者からだったり、暴言が来たり。


成果が出ず、やる気がなくなってきた。


しかし異動したての俺は「ヒカリさんのために頑張ろう」そう思えた。


これが前との違いだった。


いつも通りの出会い系アプリ。


見返してると1件の返信がきてた。


顔の詳細は分からなかったが、プロフィールから見るに女子大学生だった。


「ありがと!よろしく!」


そこから何通かそこでやり取りをしてLINEを聞いた。


兵庫にある田舎の女子大に通ってる、19歳の女の子だった。


それがユカだった。


彼氏はおらず、もちろんホストに行ったことも無いと言っていた。


顔文字とか絵文字を多用する、普通の女子大生だった。


他愛無い話をすること1週間。


直接会おうと、俺から誘ってみた。


もちろん、ホストをまったく知らない普通の女子大生だ。


恐怖心もあるだろうし、いきなりホストクラブに誘ってもまず来ない。


俺の家とユカの家のちょうど中間くらいで、お互いアクセスが良い場所で会うことにした。


俺の家からはやや遠かったが、遠出したかった気持ちもあったのでそうした。


電車を1度乗り換え、目的地に着いた。


俺は遠出となると時間より早く着くか、遅刻かのどちらかになってしまう。


今回は結構早く着いてしまった。


女との待ち合わせだし、遅れるよりは良かった。


辺りを少しうろついたが特にすることもなかった。


先にカフェに入って、ユカを待つことにした。


若い女客が多く、こじゃれた感じの店。


「○○っていうカフェわかる?そこいる!」


待つこと20分。


ほぼ待ち合わせの時間通りに、1人の女の子が来店してきた。


きょろきょろしていた。


「ユカちゃん?」


「うん。お待たせ。」


それがユカとの初対面だった。


















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