サキ⑤

サキと近くの24時間営業している居酒屋で会った。


お互いめちゃくちゃ喋るわけではない。


しかし、楽しい。


サキはあまりお酒を飲まない。


俺はビールを何杯か飲んでいた。


「今日なんでまたお店に来たの?」


「驚かせようと思って」


その後、サキとラブホテルに泊まり、一夜を共にした。


楽しかった。


自分がホストであるということを忘れ、21歳の普通の男に戻っていた。


次の日、また出勤。


サキは名古屋へと帰った。


「おはようございます!」


売上ないくせに、客が来る予定もないくせに、ウキウキしながら出勤した。


いつも通りにヘルプをして今日も終わった。


帰ろうとしたらカナデに呼び止められた。


「ゲンキー!飯いこ!」


カナデと営業終わり初めてのご飯だった。


「なんか食べたいのある?」


「居酒屋好きなんで居酒屋がいいです!」


「オッケー」


近くで昔からやってる居酒屋だった。


「乾杯」


俺は生ビール、カナデさんはコーラだった。


もちろん、客がたくさんいるカナデと、まったく客がいない俺とでは営業中の飲酒量も違ってくる。


「ゲンキ、あの女の子好きでしょ。サキちゃんだっけ?」


すこし驚いた。


さすがカナデ。


よく見てる。


3ヶ月程ホストをやっていて気づいたことがある。


カナデは観察眼がすごい。


他にも沢山あるが、特にこれがすごかった。


思っていることをなんでも見透かされてるような気がする。


「はい…」


何故か申し訳ない気持ちで答えた。


「あの女の子どう思う?ホストの客になると思う?」


「いや、思いません」


「なんでそう思う?」


「普通の女の子だし、あんまホストとか…」


「そこが間違ってる。ホストにめっちゃ通う女の子でも、めっちゃ金を使ってる女の子でも、最初は普通の女の子。その普通の女の子をいかに通ってもらえるようにするかがホストだろ」


その通りだった。


ぐうの音もでない。


生まれながらにして、ホストに行くように育てられた女の子などいない。


むしろ、俺のことを好きな女の子であれば、なおさらその感情を利用しなければならない。


追い詰めるようにカナデさんは口を開いた。


「ホストあるあるなんやけど、女の子に情が移って辞めちゃうみたいな?女の子にボケてるって言うんやけど、今ゲンキそれになりかけてるよ?」


ホストは機械みたいにお金のことしか考えてないように思われがちだが、最初は客だったが、情が沸いてその女の子と結婚するというパターンも珍しくない。


「彼女作るのはなんも言わないけど、ゲンキはいない方がいいと思うし。ホストとしてやってくなら。」


そういうところも見透かされていた。


俺は不器用で、頭もよくない。


計画経ててやってけるような人間じゃない。


「そんな感じなら、あの女の子を切った方がいい」


殴られてないのにみぞおちを殴られた気がした。

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