第9話順調なのか、身の危険なのか?
ホウキに乗ってカエルたちから離れると、セレネーは近くの街で宿を取り、部屋で水晶球を取り出して二人の様子をうかがった。
映し出されたのは、さっきまでいた森だ。
あのまま二人は木陰に座り、キラが次々とカエルに質問してメモを取っていた。
『食事はいつも何を? この森、色んな羽虫がいますから食べ放題ですよ』
『い、いえ、食事は昆虫ではなく、魔女のセレネーさんと同じものを頂いています』
『ええっ、人と同じものを?! お腹壊さないんですか? 肉も魚も野菜も果物も大丈夫なんですか?』
『そ、そうですね……さすがに肉や魚は生だとお腹を壊してしまうので、火を通す必要がありますが――』
『生食ダメなんですか?! す、凄い……こんなカエルさんが存在するなんて……』
キラはずっと瞳を輝かせ、カエルが何か言う度に驚いたり破顔したりと顔が忙しい。そんなキラを若干引き気味に見ながら、カエルはバカ正直に答えていく。
(……うん、天然対天然ね。案外といい組み合わせかも)
水晶球を眺めながらセレネーはひとり頷く。キラは変わっているが、中身は素直で純朴だ。それに根が明るくて憎めないところがある。人の良いカエルの隣に十分相応しいと思えた。
一番の心配は、カエルが納得できるかどうか――セレネーが成り行きを見守っていると、
『やっぱり魔女様のカエルは違いますね! こうやって言葉を交わせるだけでも凄いのに、意思もしっかりとあるし、物腰も丁寧だし……まるで王子様ですね』
『えっ! そ、そう、ですか……?』
『人でもカエルでも、それまでの生き様が滲み出るものなんですよ。きっとカエルさんは真っすぐに生きてきたんだろうなあ。あと優しい。人同士でも難しいのに、種族が違っても優しくなれるって素晴らしいです』
思ったことを素直に言ってしまうキラの、お世辞抜きの誉め言葉。カエルの目がウルウルと潤み出した。
『ああ……キラさんは見た目ではなく、私の中身を見てくれるんですね。世の中には貴女のような素晴らしい人が存在するんですね』
あ、ドン引き気配が一気に消えた。恋に落ちたわね。よし、いける!
セレネーは胸元で両手を握り、小刻みに頷きながら強力な手応えを実感する。
今までになく初日から順調でセレネーが嬉しくなっていると、キラが満面の笑みを浮かべてカエルの両肩に指を乗せた。
『カエルの王子様に相応しい泥パックしますから、楽しみにしていて下さいね! 花の蜜と香油も加えて、体を洗った後も良い匂いがするようにして、肌もツヤッとピカッとさせて……あ、爪の間とか体のシワもお手入れしなくちゃ。お洋服も用意しなくちゃ――』
泥パックだけでは済まない気配に、カエルがギョッとなって身を強張らせる。
『いえ! お気遣いは嬉しいですが……その、カエルですから、外に出ればすぐに汚れますし……』
『大丈夫ですよ、その都度やりますから。遠慮しないで下さいね。嫌じゃないどころか、むしろやりたいですし! ……あ、もしかしてカエルさんが嫌、ですか?』
『えっと、嫌というか……あの、その……び、敏感肌、なので……』
……逃げたわね、王子。男なら喜びなさいよ。
生温かい眼差しを水晶球へ向けながら、セレネーはニヨニヨと笑う。
困り切った様子のカエルに、キラが『そうですか、残念』と眉根を寄せる。
しかし小声で『どうにか試せないかな……』と諦めていない呟きを、セレネーはしっかりと聞いていた。
(王子、自分の身は自分で守りなさいよね。正直なところ、王子の泥パック見たいところだけど)
キラの呟きを教えることもできたが、もし結ばれるならなんの問題もないことだし……と思い、セレネーは見守ることにした。
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