第三章ー6:私だけの温石
「……幽玄の扱いが嫌か?」
「いや。わたしは光蘭帝さまのために、御饅頭を作るんです」
「では、私は後宮の規則を二つも失くさねばならぬという事か? 幽玄となった貴妃の撤回処置と、食物を生み出す許可についてだ」
「光蘭帝さま」
「そなたとは身長が合わない。私は小柄な貴妃を持ったことがないからその体位も知らぬ。まァ、それについては保留とするが、膝に抱くことは出来る。だが、そなたとくっついていると、いつしか思考が閉ざされる。そうして時間を無駄にし、そなたの顔を見そびれる」
あー…変な事を言っているな…と光蘭帝は少しだけ少年の表情を見せた。
「無駄なんかじゃないです。光蘭帝さま、くっついてもいいですか?」
「構わないが冷たいぞ」
「平気です。あっためてあげますから」
―――――飛翔、寒い? ごめんね。でも、母様は絶対に貴方を幸せにするから。寒いね、寒いね? だが、もうお前に辛い事はない。もうすぐおまえは選ばれた天上人となれるのだから―――。
雪の夜の母親の言葉を急に思い出し、指先が小さく震えた。紅鷹国に辿りつくまでの極寒の往路。悪夢を思い出した光蘭帝は目の前の小羊を抱きしめる。温かさを感じても、彼女を温めることなど出来やしない。それでも、心は温めてやれるだろうかと、真に願った。
「私だけの温石だ。温かいぞ、明琳、そなたはどうか」
「暖かいです。ぽかぽかです」
うふふ、と明琳がそのしゃがんだ首に腕を回すと、さっき出来なかった口づけが降って来た。やっぱり光蘭帝の唇は雪女のように冷たく、美しかった。
その後、隙を見つけては、明琳と光蘭帝は寄り添い合う事を、二人の仙人だけは見抜いていた。
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