終幕ノ附

黒猫から見た人々

 ちゃんと注意書きをしないとな。


 これから書かれることも物語であって、ここには重大なネタバレが控えている。


 すべて読んだという特禁〇三八ーイ諸君だけがここから下に進んでくれたまえ。



 ――申し遅れた。


 小生の名はナビ助。涼子の物語のナビゲーターである。



























★キャラクター紹介


▼主人公

名前:墨田涼子

性別:女

年齢:17歳(高校生事件当時)→19歳(大学)

血液型:A形

身長:170cm

スリーサイズ:85/62/80 Dカップ

体重:55kg

体型:細身でうっすらと筋肉質(鍛えているため)

髪:金のショートボブ(染めている)

目:大きい猫目形

瞳:茶色

所属(表):鶯村第一高等学校二年生 → 国立幅木大学一年生 谷島民俗学研究室

所属(裏):文化庁特別禁出文化財保護課 特別乙種調査員


特装:

一:特別禁出文化財〇三八変種『涼子の物語』

  除染済B種

  特付:特禁文化財等による精神汚染を一切無効化する


二:特別禁出文化財〇三八変種-イ『黒猫』

  除染済B種

  特付:言語を解する黒い猫。『涼子の物語』の別の姿


三:特別禁出文化財〇三八変種-ロ『九四式拳銃』

  除染済A種(携帯許可済み、使用許可別途必要)

  特付:8ミリ南部実包弾を無限に放つ。涼子しか触れることができない。


付記:

 殺人未遂で基礎勾留、そして実刑判決を受けた受刑者。

 幼少の頃に厳格な父と母に育てられて可能性を全て捨てられていた過去を持つ。小学生高学年の時に両親が離婚して母親に引き取られる。母親も父親も不倫が原因で離婚をしており、特に母方からは勘当に近い処分を受けて孤立無援状態になっていた。

 母親は離婚のショックと、厳しい世間の目に晒されてヒステリックとなり、事あるごとに涼子に当たり散らしていた。ただ涼子としては幼少期に自分を捨てていたために、母親のことを哀れな人と見て自分の世界の脇に置いていた。

 過酷な家庭環境に生きてきたからか、心の中に芯を――もっとも、小生によってそれは偽物の芯だということを看破されてしまったのだが――持ち、普通なら堕ちてゆくところを踏みとどまり、他者に優しくしようと務める。その結果、小さい頃から逃げ場所だった商店街の人々から可愛がられ、学校では頼りになる先輩として特に後輩の女子生徒から人気が高かった。それは、過酷ながらも美しく生きる涼子に羨望を向ける人間が多かったからかもしれない。

 高校一年生の十月、涼子は一人の教師を追い込んでいる。しかしその教師は有名な変態教師で、事あるごとに問題の有りそうな女子生徒を生徒指導室へと誘い込み、評価や他のことを盾に脅して準強姦まがいの事をしていたようだ。涼子もその歯牙にかかるかと思いきや、持ち前のくそ度胸と啖呵でこれを正面から椅子でぶん殴り、わざと騒ぎを大きくして天誅を仕掛けることになる。一見するとものすごい暴れ方に見えるだろうが、涼子の行動は冷たい思考の中で行われたものであり、一つ一つの行動を見てゆくと全てがクリティカルに追い込む布石を打っている。これにより涼子の存在は生徒たちからは英雄視され、商店街や涼子を知る人間たちからはますます可愛がられ、そして教師たちからはアンタッチャブルな存在へと昇華してゆく。

 教育実習生としてやってきた颯馬については最初はなんとも思わなかったが、カウンセリング実習と称して――この時、周囲の教師たちは止めていたらしいが、この男の必至の説得によってカウンセリングを許されているようだ。それはこの男の親が市議会議員という背景もある――熱心なスクールカウンセリングを受けたことでいつしか恋愛感情を持ってしまう。

 涼子にとって、それまで男というものはどこか汚らわしいものであるという認識があった。だが知的で、涼子のちょっとした誘惑もサラリと流す颯馬はとても魅力的に見えたようだ。父親も居ないので自分より大人びた人間を好んでしまうこともあり、最終的に涼子の頭には颯馬で埋め尽くされることになる。

 だが現実は無情だった。颯馬にとって涼子は「可哀想な子供を自分好みに更生させるためのキャラクター」としてしか見られなかったようだ。さもありなん、涼子はモデル体型だが、颯馬の好む女性は皆、少し子供っぽい女性。あきらかにされた罪によると中学生まで手を出していたことから――ようは、ロリコンの類だったようだ。

 そして首を痣ができるまで締められ、視界に入った瞬間。全てを諦めてしまい、颯馬を刺す。この時涼子に、復讐の気持ちがあったか定かではないが、刺した瞬間にまっとうな人生を全て諦めていたようだ。

 そうして変な部屋に通されて、柿崎の言うままに本を開いたのは――一種の自殺だった。自分らしく死ぬため、古風な筋を通すために必至になって様々な困難から逃げ回っていたが、所詮は自殺だった。

 小生には、そこまで読み解くことはできなかった。小生――旧名を『冒険の書』というが、これは涼子の魂を一旦文字にして、本の中で再構築する。その時、魂すら欺く自分の嘘を書かれてしまうと小生にも把握ができない穴が開いてしまう。

 既のところで小生が気づいたが、あの時は流石に肝を冷やした。そして言葉が足りなかった。涼子が言葉に出せなかった、取り戻したい言葉を『己の影法師』に言えるかどうかは賭けだったが――どうやら杞憂だったようだ。

 結果、涼子は幸せのために生きると近い、小生の目的である人生の完成に迫るに至る。そうして本は読み終わり『冒険の書』は消滅したというわけだ。

 今は歴戦の特別乙種調査員として、小生と共に日本中を駆け回っている。

 小生は今、幸せだ。涼子もそうであると願いたいが、あの笑顔があるならそうなのだろう。そうであろうとも。小生が側にいるのだから。

 特別乙種調査員というのは、特禁文化財の所持権限を持つ特別な調査員のことを言う。本来ならば国家公務員試験を受けなければ調査員にはなることはできないが、涼子のような特状を持ち、かつその力で「特禁文化財調査及び除染作業に多大なる貢献を見込まれる者」で「甲種調査員以上の者に指定された者」を指すという。わかりにくいが、要するに柿崎に指定されたから涼子は特乙調査員というわけだ。

 さらに柿崎の権限で、それを五年以上続けた者は無条件に甲種調査員――つまり、国家公務員の資格を持ち、さらに柿崎達のスタッフと同等の権限をもたせるという法案改正も視野に入れているらしい。まったくあの柿崎という男は、涼子に対して溺愛と崇拝に似た何かを感じているようだ。



▼ナビゲート役

名前:ナビ助/冒険の書 → 特別禁出文化財〇三八変種-イ『黒猫』

性別:不明

年齢:100歳以上

その他一切が不明

付記

 小生は小生であるが、話さなければなるまいよ。

 小生はこの『冒険の書』を書いた作者の魂の残骸、あるいは魂の慙愧というのが一番正しいかもしれない。生きていたときの小生は、周囲が文豪としてもてはやされる中、ただひたすらに物語というものを突き詰めた。

 今まで普通に生きられなかった後悔を、読者には味あわせたくはない。小生の本を読むことで、人生の讃歌を讃えるようになれればと思い書いたのが、千差万別にその物語を書き換える文字の迷宮――『冒険の書』だった。

 全ての力を出し切って書き上げたものを読み返して、小生は酷い後悔に苛まれた。過去にも今にも、そして涼子のいる世界でも小生の極まりきった文章能力を超えるものは無いだろう。だがあまりに極めすぎたのか、それはもう魔法――いや、魔導書の類に変容していた。

 小生が読み返すと、そこには小生自身の物語が歪曲され、脚色され、そして無残なものだったとありありと突きつけられた。現実をずーっと突きつけられ、永遠と後悔に苛まれ続けた。

 人生を見つめ直して人生を彩るというテーマで書いたものだったのだが――まさか、一番忌避するべきものをありありと見せつけられるとは。

 鏡を見続けると、人は狂うという。そもそも自分を見るという行為自体が、とてつもないストレスを引き起こすのは古今東西、当たり前のように言われていることだ。小生はそんな簡単なことすらも気づかずに、文豪たちに心配され、時には金を無心しながらもただひたすらに書き続け――そして、失敗した。

 失敗作だった。とてつもない失敗作だった。

 だが友人の、後に文豪として歴史に名を連ねる人々は小生に尊敬の眼差しを向け、何とかして本にしようと苦心してくれた。あまりの凄まじさに試供品であったただ一冊だけが形になったのは、ある意味僥倖というべきだったかもしれない。

 それから小生は様々な好事家の手に渡り、そして彼らを取り込み続けていった。

 最初の主人公はもう誰だったか覚えていない。小生はその主人公とともに産み落とされた、本の穴だ。故に、そうあれかしとして主人公たちを誘い、そして絶望の淵に叩き落としてきた。

 時にはそれも愉悦だと思い込んだこともある。だが、小生の性根の一番深いところにはやはり、主人公たちの人生を讃えたいという気持ちが。幸せを掴むその普遍的な人生の完成という灯火がどうしても消えず、結果狂うことすらも許されなかった。

 諦めても小生は文字の塊であるから、新たな主人公が来る度に強制的に胸を踊らされてしまう。涼子の時代の言葉で言うならばそういうプログラムであり、小生はそうしかできない傀儡であった。

 だから、涼子を取り込んだ時には歓喜したものだ。ようやく、主人公足り得る強靭な精神の持ち主が現れたと。それが仮初であったとしても、行けるところまでは行けるであろうと。ならば彼女にもらったナビ助――ナビゲート役という役割を全うすれば、きっとこの本は読破できると。小生は恋い焦がれた娘のようにして、涼子の前に立った。

 とても楽しい冒険であった。最後の別れ際は、本を書き終えた時以上に悲しみが浮かんできたが――不思議と後悔は無かった。

 その時に、願わくばと願ったのが良かったのか悪かったのか。小生は涼子の物語として顕現するに至る。

 人の身であったならば、と夢想する事はあるが。小生はこの猫の姿で良いと思う。

 涼子を導くのが小生の役目。それで良いのだ。そうして、彼女の幸せを見届けたいと思ったのだから。



▼支援者

名前:柿崎晋也

性別:男

年齢:35歳

血液型:B形

身長:180cm

体重:72kg

体格;中肉中背

所属:文化庁特別禁出文化財保護課 主任 → 副課長

特装:

特別禁出文化財〇一二『キューピット』

除染済B種

特付:求める人材の名前を書く


付記:

 涼子を見出した文化庁特別禁出文化財保護課のエリート。善悪を包括している、独自の観点で動く信念の男。女当主制である柿崎家の中でも特に優秀で、もしかすると次期当主は女当主性が撤廃されて彼であるかもしれないと言われるほど。

 曾祖母から溺愛され、彼もまた曾祖母への憧れの心を持つ。いつしか彼女の心残りを払拭したいと考えており、特禁文化財の存在を知るとそれはオカルトに近い信念に変わる。

 曽祖父の足取りを追う上で彼の代に失われたという万年筆、特禁文化財『キューピット』を手に入れると信念は鋼に代わり、それを用いて己に真に必要な人材を探しながらここまでのし上がってきた。実はこの能力は未提出のものであり、虚偽報告でごまかして所持権限を独占している。そういう強かな部分もあり、若いながらもメキメキと頭角を現した。

 しかし流石の彼にも特S種である『冒険の書』には難儀したようだ。開いた時点でアウトという死の書を自分で開くわけにはいかない。すでに除染作業を試みた甲種調査員を一人失っていた。八方塞がりになりかけたところで、数年ぶりに『キューピット』が書き記した名前は涼子のものだった。

 すぐに柿崎は涼子を調査。するとその強い生き方に何かのシンパシーを感じ、特別な調査員として体制を改革する中で――事件は起きてしまった。

 だが転んでもタダでは起きないのが柿崎という男だった。米国で行われている、死刑囚を使った除染作業を真似た『特別文化財第三者調査員招集に関する手続法案』をタイミングよく通すと、直ちに涼子を招集。除染作業へと誘った。

 涼子の成功を確信してたものの、万が一失敗したら彼は死ぬ気でいたらしい。時代錯誤のサムライなのか、柿崎のデスクの中には常に自害用の懐刀を仕込んでいるという。まったくもって度し難い。度し難いが、小生はそういう人間は嫌いではない。人に危ない橋を渡らせて安全圏から嘲笑う輩なら、小生が首元に噛み付いて命を貰おうかと思っていのだが、それは未遂に終わってよかったと思う。

 涼子の成功には多大な評価をしているようで、半ば溺愛に似た援助を墨田家にしているようだ。それは彼のけじめなので、見返りを全く考えていないのが少し心配になるところではある。

 涼子は柿崎のことを、イカれた上司と見ているようだが一定の尊敬を持っている。流石に恋愛感情を持つことは無いだろうが、足長おじさん程度には好意を向けているようだ。涼子がそうならば、小生もそう振る舞おう。



▼敵

名前:竹下颯馬

性別:男

年齢:22歳

血液型:AB形

身長:182cm

体重:68kg

体格;痩せ型

所属:(大学名は伏せる)大学教育学部2年 教育実習生

付記:

 このクズは――あ、いや。説明なのだからしっかりと書こうと思う。でもハッキリ言わせてもらう。こいつは唾棄すべきクズ野郎だと。

 この男は市議会議員の息子であり、昔から何不自由なく暮らしてきた。なまじ議員の息子ということから、それなりの教育を受け、それなりの情緒教育を受け、それなりに身体能力も学習能力も高く、真の意味で何一つ不自由無い幸運な人間だった。

 だが、彼には一つだけ不自由なものがあった。それは渇望だった。

 例えば、小さい時になにか欲しいものがあったとする。昨今の経済状況だ、子供の欲しいものはとても高価で、子供を作るときの両親はそこまで経済的な余裕はない。これからの事も考えて簡単に与えること無く「我慢しなさい」といい、駄々をこねる我が子と格闘することが常だとは思う。

 だが、颯馬はそうではなかった。欲しいと思ったら次の瞬間には手元にあった。駄々をこねたことは無かった。それほどに熱意を持つことが無かったのだ。

 故に、彼には熱意というものが奪われていた。友人もアホほどできた。なにせ彼は議員の息子だ。すり寄るだけでお釣りが来るほどのメリットが存在する。時には親ぐるみで仲良くせよと言われた友人もいたほどだ。

 なので、彼は成長するにつれて面白いものを渇望する事になる。

 それが、女性関係だった。

 彼は確かに顔貌が整っている。頭もいいので、女性を転がすような甘い言葉をかけることだってできる。そうして傀儡のように動き、時には股を開く女というものを操作することが喜びとなっていった。

 不幸な話だ。颯馬の傀儡にした人間は、一つの共通点を持っていた。

 何かを失っていた女性。自分自身を喪失感でまみれて時が止まった女性。あろうことか、颯馬はそれを埋めることが生きがいと勘違いして――彼の肉欲のままに。時にはヒロイズムのままに。女性へと甘い言葉をかけ続けた。

 その上、彼の性的指向はやや穿ったもので、平たく言えばロリコンだった。だが、未熟な女性や、時には中学生に至るまで。彼の甘いマスクと知的な物言いには無力だったようだ。

 その被害数は最終的に十数人に及ぶという。淫行にいたっては二件も立件されてしまった。そんな息子を議員は助けることもなく、あっさりと勘当を申し付けるに至る。哀れ、この颯馬という男は涼子の行動で一切合財を失ってしまったのだった。

 哀れだが、残当だとは思っている。もし彼が涼子まで手篭めにしたままならば、きっと涼子を玩具のように扱っていたに違いない。

 それでも颯馬は、勾留所にいる中でも未だに自分の罪が理解できていないというから驚きだ。それは正に、後天的に植え付けられた犯罪因子。ソシオパス(反社会性パーソナリティ障害)であると言っても過言ではないだろう。

 こういった類の人間は、キャパオーバーになると暴走するという癖がある。癖というより、もう習性といったほうが近い。発狂し、嘘も嘘とも言わずに尽き続け、あまつさえ殺人衝動さえ抑えきれなくなってしまう。ほとんど病気のようなものだ。

 涼子がいなければ、もっと被害は増えていただろう。小生がいなければ、このクズ野郎はのうのうと娑婆を歩いていたはずだ。

 そう言えば、涼子と共に見たニュースで同じような強姦野郎が何も罰せられずにのうのうと暮らしているらしい。もしそんな奴が涼子に近づいたのならば、☓☓☓に噛み付いて噛みちぎってやろうと思っている。

 悪人とは、笑顔で近づき、人を傀儡にしようとする。

 特禁〇三八ーイの諸君――あ、いや。もう読者というべきか。諸君らもゆめゆめ気をつけることだ。そういう人間は、案外そこら中にいるのだから。



▼サブキャラクター1

課長

所属:文化庁特別禁出文化財保護課 課長

付記:

 柿崎の上司。皮肉屋でどこか憎めない性格だが、その飄々とした言葉にもどこか隠した刃が見え隠れするやり手だ。

 もともと出世欲に塗れた人間だったようだが、特禁文化財に触れる事でそういう事は失せたというのだが定かではない。自分の立場の地盤を固めつつも、博打に出るところはしっかり出る。どちらかと言えば、組織の中でのし上がると言うよりも経営者としての素質はあるらしい。

 柿崎と同じく善悪問わず手段を選ぶことの出来る人間だが、柿崎よりは人間らしい考えを持っている。なので、遠回しではあるが涼子に対して万全のバックアップをするようにと指示をしていたりする。

 涼子に関しては「部下にピッチピチの女子高生ができたぜヒャッホウ!」と下心を全く隠さないでいる。が、涼子にとってはそのぐらいオープンのほうが逆に信用できるので、「スケベな課長」となじられても逆に嬉しかったりするようだ。

 小生としては最も警戒するべき人間であるようだが、どうも底が見えない。涼子に対する感情は本物なのか。それともマクロ的な視点から見て、とても良い駒として見ているのか。読めないことばかりだが、今のところは信用して良いのかもしれない。



▼サブキャラクター2

涼子の母

付記:

 涼子の母親は不幸な女性だ。厳格な家に育って、それを子供に押し付けてしまった。そうしてはならないと思いながら、そう在るべきと責務に押し潰されてしまった女。それが彼女である。

 不倫については絶対するまいと思っていたが、涼子も引き継いだいわゆる「インテリジェンスを感じる男」にはこころを赦してしまうくせがあったようだ。だが夫も不倫しているとわかると自分のことを棚に上げて激高し、言い争いの中で自分の不倫もバレてしまうと一家離散に近い状態で家を追放されてしまう。

 それからは地獄の日々だったと言える。なまじお嬢様だったからか、最初はパートすらままならずストレスを抱える日々。いつしか払われなくなった養育費を補填するのに必至で、いつしか護るべき涼子に当たり散らすようになっていた。

 次第に成長した涼子の向ける冷たい、哀れむような視線が最も耐えられなくなってしまい、家具を壊すほどに暴れるのが当たり前になってしまった。心の中では、涼子の笑顔があれば何でも乗り越えられると思うのに。涼子に対して申し訳なく、これが贖罪のための罪滅ぼしだと理解しているのに。何故自分はとすり減り、どんどんと壊れていった。

 涼子が逮捕されたという時、自殺を図った。だがうまく死ねずに幽霊のように彷徨う中で――なんと温かい手を差し伸べてくれたのは商店街の人間たちだった。

 それは涼子が作り出した絆だった。涼子はアルバイトの中で商店街の店を無償で手伝ったり、イベントに参加したり裏方を務めたりと、知らないところで絆を深めていたようだ。

 その時初めて、彼女は真にするべき事を悟ったという。全てを精算するように大泣をすると――彼女の顔は変わった。今度こそ、彼女の母親として彼女を助けると。何が何でも彼女のために尽くしてやると。その時彼女は、真に女性として美しく輝いた。

 涼子が釈放された時、初めて心から娘を抱き寄せたという。その時の写真は日本中の魂を震わせて、涙を誘った伝説の一枚になったと伝わっている。

 愛とは、遠回りしても残るものだ。泰然と在るものだ。彼女を見ていると、案外人間は捨てたものではないと思えてくる。小生も半分くらいは人間だ、彼女のように愛を泰然と持っていたいと思う。

 最も、小生は猫なのだから愛だの何だの言うのはお門違いでは在るのだがね。ふふふ。

 ちなみに涼子が実家に帰ると、小生は彼女に思いっきり甘えるようにと涼子に言われている。涼子の母も猫が好きのようで、小生に触発されて猫を飼い始めたようだ。その猫はとても良い猫だった。捨てられたのを彼女に拾われたのだという。何もできないが、在るだけで心が安らぐならとその役目を果たしている。

 やはり、捨てたものではないのだな、人生とは。




 さて、こんなものだろうか。


 小生たちの物語はこれで終わる。涼子と共に、これからの人生は特別禁出文化財の浄化へ奮闘するものになるのだろう。


 もし小生たちの物語を見たいならば願うといい。燦然と煌めく星と共に願いが我々に届いたのならば、もしかすると、あるいは。


 ふふ。


 それではまた会おう諸君。


 再び相まみえる時、諸君らの物語が幸多いものであることを祈っている。













【ことのはの迷宮 ~而して彼女は黒猫と共に文字の淵を渡る~ 完】




NEXT STORY

改題:涼子さんには常に黒猫が語りかけている ―特乙調査員隅田涼子の事件簿―

   特別禁出文化財〇八九『さかまきのブリキ缶』


(★100でアンロック)



※※※※※※※※※※※※※※※※



最後までお読みいただき、まことにありがとうございました。

彼女の苦難の冒険と、黒猫の思いが――心の何かに触れることができれば幸いです。

もしお気に召されましたら、「★」を頂けると嬉しいです。







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ことのはの迷宮 ~而して彼女は黒猫と共に文字の淵を渡る~ 三ツ葉亮佑 @MatsubaRyousuke

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