そうして黒猫はことのはに踊る

涼子の物語

「涼子さん! 涼子さん!」


 気がつくと覗き込む顔があった。真面目そうなメガネをかけたその顔は、涼子に本を読ませた柿崎だった。


「ここは……?」


「文化庁の地下保管所です。驚きました。いきなり病室から消えてここに現れたと聞いたときは」


「病……室……?」


 体を見ると驚いた。今まで来ていた服ではなく、病院服になっていたのだから。


 するとこの男に脱がされたのだろうか――と思ったが。背後に女性の職員がいて、その後ろにもナースのような人がいた。


 ホッとしたのもつかぬ間、興奮気味の柿崎が涼子の手をとりぶんぶんと縦に振っている。


「うわわ」


「よくぞ生還されました。よくぞあの本を浄化していただけました。素晴らしい! やりましたよ涼子さん! 貴方はあの魔導書を読破したんだ!」


 柿崎は興奮さめやらぬ声でそういった。


 涼子はぼんやりとしていたが、すぐに正気を取り戻すと柿崎の腕を払う。立ち上がってよろよろと歩きだし、本へと向かった。


 手にとった本は冒険の書ではなかった。


 代わりにそれは、題名が書き換えられていて――『涼子の冒険』となっていた。


 題名の下には、あの憎たらしい黒猫が書かれている。思わず泣きそうになった。


「ナビ助は!? この本は!?」


「……本は役目を終えました。もう開いても大丈夫ですよ。さっき私もめくりましたから大丈夫です」


 涼子がそう言われて本をめくる。


 少しだけ緊張したが、確かにあのときのように気絶することもなく、現にこうやってページをめくることができている。


 そこにはやはり意味不明の文字列が羅列されていた。


 到底読むことはできなくて、しかしところどころ文字が繋がるような、そんな不思議な文が書かれていた。


 自分がこの中にいたとは到底思えなかった。あるのは文字と、白い余白。それだけなのに、あのような幻想的で醜悪な世界が広がっているなどとは。


「涼子さん、その手に持っているのは?」


「え? あ、嘘!?」


 涼子が驚いたように左手で持っていたものを手放した。


「お、おじさんからもらった銃!?」


 それは紛れもなく涼子の使っていた九十四式拳銃だった。


 だが、使っていたときよりも明らかに古く朽ちていた。サビも目立ち、スライドが引けるかどうかもあやしい。


 涼子はここで、この部屋が最初の頃より物が増えていることに気がついた。


 というよりも、もうそれはゴミ屋敷に近い。ありとあらゆる、年代のメチャクチャなものがそこに無造作に積まれていた。


「コレは何?」


「恐らく、本の犠牲者の形見――と言ったところでしょう」


「形見――とすると、あの軍人の煤けたおじさんの形見がこの銃なのかな」


「おじさん? 涼子さん、その軍人というのは」


 柿崎が慌てたようにポケットから手帳を取り出す。そして挟んでいた古ぼけた写真を涼子に手渡した。


「あ、煤けたおじさん!」


「やはり! 貴方は曽祖父に! では、この銃は曽祖父の!」


 柿崎は震える手で銃を拾い上げた。


「その銃が守ってくれたの。私の力だって」


 しかしその時、奇妙なことが起こる。柿崎が触れた瞬間、その銃を手が透過したのだ。まるでそこにだけ立体映像があるように。


「な、何故!?」


「え、どうして!?」


 涼子が試しに拾い上げてみると、なんと実体化。コンコンと叩いてみると、確かに鉄の感触がする。


「ちょ、まだ本の世界続いてるの!?」


「落ち着いて涼子さん。大丈夫ですから――その、終わって申し訳ないんですけれども」


 柿崎は背後の女性オペレーターに指示を飛ばすと、彼女は頷いて外に出ていった。しばらくして彼女が持ってきたのは、何の変哲もないマイナスドライバーだった。


「涼子さん。すいません、その銃のグリップ――持ち手を外すことはできますか?」


「どうなんだろ」


 涼子はドライバーを受け取ると、ゆっくりとねじ山へとそれをあてがう。そして金属的な感触を感じると、ゆっくりと時計とは逆方向へと回した。


 ぽろり、と。


 取れたグリップは裏面をさらけ出すようにして落ちた。


 そこには名前が書かれている。




 昭和十年十二月 柿崎鹿助




「あった。ついに軌跡を。ついに曽祖父の足取りを掴むことができた!」


「これが目的で――アンタは私をここに?」


「ええ。そうです」


 きっぱりと。悪びれもなくそう答えた。


 それはなんとなく、颯馬に似ていて。その笑顔がナビ助に似ていた。


 だから。



 バチン!



 思いっきりぶん殴った。



「……。貴方は優しい。多分その銃は貴方の意思でその時を取り戻すはずだ。それで撃ち込めば私は大怪我をしていたはず」


「そういうのはもう卒業したの。で、ちゃんと説明してくれる? あとごはん。腹減った」


「すぐに用意させます」


 柿崎はそう言うと、後から入ってきた職員たちに「くれぐれも粗相のないように」と付け加えて外に出ていった。



 ☆



「裏切り? 浮気ってことかしら?」


「それも含めて、ですね。曾祖母はずっと疑っていました」


 この穴蔵のような地下に、どうしてこんな豪華な部屋があるのかはさておいて。涼子はそこへ饗されると、用意されていた料理を片っ端からかき込んでいった。


 いつもは体型に気をつけて少ない量で満足しているのだが、今回ばかりはそんな事はおかまいなしだ。山程の高級料理を一人で平らげた涼子に驚きながらも、柿崎は静かにそう打ち明け始めた。


「柿崎家は女当主の家でして。曾祖母は大変に厳格な人でした。私が成人になる頃に亡くなってしまいましたが」


「で、その人があの煤けたおじさんが駆け落ちしたってずーっと疑ってたんだ」


「ええ。あの時代は愛人など普通の世界でしたし、現に曽祖父にはお妾さんもいたようです。しかし、それにも関わらずいきなり行方不明になってしまったんです。何の前触れもなく」


「戦争で死んだとか疑わなかったのかしら」


「曽祖父が居なくなった時は戦争はありませんでしたからね。軍の高官として様々なVIPと会食している最中、急に居なくなったそうです」


「もしかしてそこに、あの『冒険の書』があったとか?」


「そのとおりです。と言っても、それを知るには私がこの職場に入ってからですけれどもね」


 柿崎は涼子の向かいに座ると、一枚の写真を涼子の前に置いた。それは、幼い頃の柿崎なのだろうか。厳しくも優しい顔の老婆と一緒に写真に映っていた。


「厳しそうな人」


「とても厳しかった。でも、私は曾祖母のことが大好きでした。女だてら堂々としていて。でも時々、悲しそうな顔をするんですよ」


「おじさん――夫が居なくなったことに?」


「ですが――心のどこかに、信じていた部分があったようです。女癖が悪いことは最後まで気に入らなかったようですが」


 そう言われて、涼子はあのおじさんのことを思い出す。女癖が悪そうには思えなかった。とても気が良くて、ちょっと煤けていたけれどもどこかしら知的で。この銃を託してくれるほどに、優しい。


 この銃を手放すということは、真に諦めたということに他ならないはずだ。でもそれが、涼子に希望を託してくれたというのならば――これ以上に嬉しいことはない。


「涼子さん、曽祖父はどんな方でした?」


「すごく気のいい人だった。優しそうだし。女癖が悪いとは思えないけれども」


「そうですか。やはり、信じていてよかった」


「ねえ柿崎さん。それだけを知りたくて私を選んだの?」


「はい」


「想像でしかないんだけどさ。私を選ぶのもかなり危ない橋渡ったんじゃない? というかさ、さっき言ってた除染? 浄化? 作業だっけ? それ自体も危ない話だったんじゃないの?」


「その通りですが、そのリスクを負って良かったと思います」


「ただ、祖父母さんの名誉が傷つことが無かった、それだけ?」


「それだけです」


「貴方には一銭も利益がないのに?」


「お金だけ言えば、そうですね」


「あっはっはは。イカれてるわ、貴方」


 涼子は苦しいと言いながら腹を抱えて笑った。何かもっと、陰謀めいたものがあったと思ったのだが何もなかった。ただただ柿崎は、祖父母の誤解を解きたいその一心で行動に出たという。


「余人に理解されようなんて思っていませんよ。これは私の――柿崎家のけじめのようなものだったんです」


「落とし所が重要ってことなのかしら?」


「その通り。もし私が逃亡者の末裔なら、私もそうなってしまうだろうって」


「そこまで行くとオカルトだけど」


「信じたくもありませんか? 現に涼子さん、貴方はオカルトな体験をしてきた。そして私の見立て通りに生還を果たしたんですよ」


「そこなのよね。もっかい聞くけど、なんで私?」


「私もまた、特別禁出文化財を所持している――と言ったら驚きますかね」


「え?」


 そう言って柿崎は胸元から一つの万年筆を取り出した。持ち手が木材で、あとは銅でできている見るからに高級そうなものだった。


「これは除染済み――といっても、B種という人畜無害な特禁文化財。名を『キューピット』と言います。柿崎家の家宝の一つですよ。一度消失してましたけど」


 そういうと柿崎は涼子にそれを差し出した。「触っていいの?」と目で聞くと、柿崎は同じように「どうぞ」と頷いた。


 経年劣化の美しい万年筆だった。ただ、キャップを開けても閉めても何も起こらない。本当に何の変哲もない、ただの万年筆に見えた。


「高そう」


「普通はそうですよね。でもこれはね、持ち手の求める人の名を書くんですよ」


 柿崎は涼子から『キューピット』を受け取ると、胸元のメモ帳にそれを握ったまま手を止める。


 やがて。


 ゆっくりではあるが、柿崎の手が動き始めた。そして最初の一文字が書かれると、あとは柿崎が離しても文字を書き続けた。


 それはマジックのようであった。だが、涼子はあんな世界を体験してきたのでそれが本当だということを簡単に受け入れることができた。


 一応、テグスだの何だのがないか上の空間に手を入れてみたがやはり何もなし。そうやってひとりでに動く万年筆は、名前を書き終えると疲れたように横たわった。


 メモ帳に書かれた文字は美しく――そして目を丸くして驚くことになる。




『墨田涼子』




「あ、あたし!?」


「そう。書き手が一番必要だと思う人材を念じると、その名を書くのが『キューピット』。かつて『冒険の書』と交換されたという、曽祖父の遺品。私はこれに頼って貴方を見つけたんですよ」


 何だか信じられないようで、信じるしか無かった。


 どこかで聞いた言葉――世界は自分が考えているよりも広いというのが涼子の頭に響いている。超常的なものは、テレビ局が作ったまやかしだと思っていたが、本当はあるのだとまざまざと見せつけられてしまった。


「あのおじさん、何の仕事してたの!?」


「軍の高官ですが、人事権限を持っていた人間だったようです。現に曽祖父がいたころはとても優秀な人材が揃っていたようですよ」


「なんか、怖いね。世の中にこんなのいっぱいあるんでしょう?」


「ありますね。だから文化庁にこのような場所があるんですよ。除染作業も必要ですし、時々世界を壊しかねないものもある」


「あの『冒険の書』のように?」


「そう。でも貴方はこの『キューピット』の予言どおりの事を成し遂げた。いいえ、私は貴方のその強い生き方がとても尊敬している」


 そう言うと柿崎はすっと立ち上がり、深々と頭を下げた。


「涼子さん。貴方という人材は素晴らしいものだ。是非ともこの文化庁特別禁出文化財保護課の特別調査員としてお力添えいただけませんでしょうか」


「え!?」


「非礼は重々承知です。ですが、涼子さん。貴方の強さは、家に縛られた私にとってとても眩しく、そして強く見える。そして貴方は、日本で最年少の特S種除染作業を完遂させた唯一の人物だ」


「ちょ、ちょちょと! 待ってよ! それに私、殺人未遂犯だよ!?」


「それなら、もう解決しております」


 柿崎が頭を上げて、何かのリモコンを取り出す。下がってきたのはスクリーンで、しばらくするとテレビのニュースが投影されていた。




『教育実習生殺人未遂事件に大きな波紋があります。先日裁判所にて地域住民が横断幕を貼り、少女Aについて再審しろと座り込みをしました。その主張は一貫して「少女Aはそんな事をする子ではない、絶対にハメられた」と昼夜問わず叫び続けています』




『教育実習生殺人未遂事件に新展開です。被害者とみられる竹下颯馬(二十二)ですが、過去に強姦未遂などを起こしていたことがわかりました』




『教育実習生殺人未遂事件が急展開です。事件当時その場に居合わせた証人が裁判で虚偽の証言をしたと今朝方警察へ出頭、自主しました。また、竹下颯馬さんの父であり、県市議会議員の竹下孝蔵氏が金を手渡し、虚偽証言を強要したとの事です』




『最新のニュースです。竹下颯馬容疑者が逮捕になりました。裁判では一方的に刺されたと主張していましたが、少女Aの首元に強く締めた痣があり、鑑定の結果首を絞めた跡と断定。指紋も検出されました。少女Aは現在県内の病院に搬送されており、強い精神ストレス下により――』




「うっそ。颯馬逮捕されたんだ」


「ああいう顔に見えて、人を玩具にするような人間だったようです。準強姦もあと二件あります。中には淫行すらも」


 吐き気を催しそうだった。


 つまり、そういう欲にはお腹いっぱいで、涼子に対しては「可哀想な子を支える自分」というものに酔うための存在としか見ていなかったようだ。


「貴方の社会復帰も全面的にバックアップいたしましょう。お母様も憔悴しきっていましたが、大丈夫。柿崎家の名にかけて、一流のメンタルケア心理士を用意いたします」


「美味すぎる話はちょっと疑っちゃうんですけど」


「違います。正当な報酬です。そのうえで、貴方をスカウトしたい。特別乙種調査員として――」




「その話、嘘偽りはないのだな?」




 突然、涼子にとっては聞き慣れた声。柿崎にとっては全く聞き覚えのない声が、このVIPルームに響いた。


 そして、けたたましいほどのアラーム。


『緊急事態発生! 緊急事態発生! 特禁文化財〇三八号が 繰り返す、特禁文化財〇三八号が


「え、アレもう除染されたんじゃないの?」


「ば、馬鹿な。完全に反応が無かったはず――」




「それはそうさ。もうお前らが言う『冒険の書』じゃあないんだ。小生は『涼子の物語』なのだからな」




 不意に、バサリと本が落ちてきた。


 それはあの『冒険の書』だが、次の瞬間真っ黒な黒猫へとその存在を変化させる。


「まさか――!?」


「やあ涼子。小生だ」


「ナビ助!」


 どやどやとやってきたのは武装した警備兵達。皆、日本では見られないような散弾銃やライフルを所持して今にも猫へとその銃口を向けようとしている。


 だが、すぐに柿崎が静止に入った。柿崎もまた、人の機微に敏い人間だ。何が起こったのか最初はよく解らなかったが、なんとなくしゃべる猫について察しがついた。


「もう! なんで!」


「願ったのだ。涼子と共にありたいと。そうしたらこのザマさ」


 涼子がはじめて涙を流した。黒猫を抱えて、愛おしそうにそれを抱く。


 カチリ、と。今度は机の上に何かが落ちてきた。


 それもまた、『冒険の書』と一緒に部屋にしまったはずの九四式自動拳銃。柿崎が覗き込むと、銃身の場所に見慣れた文字で『墨田涼子』の名が刻まれている。


 アラームが鳴り響き、今だ喧騒が響くこの地下室で。


 一人の少女と一匹の黒猫の新たな物語が、幕を開けた。




 ☆




「お母さん!」


「涼子!」


「心配かけてごめんなさい」


「ああ涼子! 涼子! 良かった。怪我は無い!? 大丈夫!? く、首を閉められたって――」


「大丈夫だよ。あ、あのねお母さん」


「何? どうしたの?」


「あのね、もう多分、これから幸せになれると思うんだ」


「涼子――」


「だからお母さん。もう自分を責めないで。人と比べないで。不幸だとは思わないで。私は幸せだから」


「私は――貴方に酷いことをいつもいつも……」


「もう良いんだって。明日は良い日にしようよ。一緒にさ。あとさ、猫飼っていい? というか、こいつはもう私に懐いちゃっているんだけれども――」



 ☆



「あ、魔女さんだ」


 あれから数年。涼子は大学へと進学した。


 涼子の事件は未曾有の大騒動となり、知らない人間も雪崩式に巻き込むものになっていた。釈放されたあと、商店街の面々や学校の友人達。そして母親に抱きかかえられる姿は日本中が涙したと言われている。


 それから勉強して、母親は万全のメンタルケアを施され。柿崎個人の援助と共に、彼女と彼女の母親はゆるやかにではあるが幸せを取り戻していった。


 大学では案の定人気者だった。成績優秀で、一年生なのに民俗学研究室に招き入れられている。美人でミステリアスで、常に黒猫を従えているからかあだ名は「魔女」と呼ばれていた。


 涼子にとってはその呼び名はけっこう気に入っていたりする。猫を従えて歩くのはたしかにそれだし、変な男が不気味がって言い寄ってこないのもまたいい。男については、涼子は涼子で自分で探したいと思っているから好都合だった。


 ただこんなに奇妙な組み合わせなのに女友達については苦労しない。それどころか何となしに惚れっけのある子がまとわりついてくるのが不思議なところだ。


「涼子が男だったなら、そうとうのたらしになっていただろうな」


 ナビ助が横を歩きながらそういった。他の人にとっては、猫に話しかけられているなど夢にも思わないはずだ。故にナビ助はけっこうな頻度で話しかけてきたりする。バレたらどうしようとは思っているのだが、人間とは案外、超常的なことについて信じようとはしないようだ。今の所、猫に話しかけている=かわいいで済んでいるので楽なものだ。


「たらしって何よ」


「文字通りの意味さ。涼子、君はどうやら女性にとてもモテるようだ。小生が探りを入れたところ、二人くらいは真面目な恋愛感情を向けているようだぞ?」


「アンタまた猫かぶったの?」


「猫とは楽だぞ。涼子のお陰で、このキャンパス内にいる黒猫はみんな魔女の猫だといって優しくしてくれる。頭でもこすりつけたり、手を優しく舐めればイチコロだ」


「アンタのほうがたらしじゃない。猫カフェに売り飛ばしてやろうか」


「本物の猫は苦手だ。あいつら猫同士に対してはいきなり口調が変わる。まるでキャバ嬢のようだぞ?」


「うわ聞きたくなかった。もう猫触れない」


「小生がいるだろう。存分に撫でると良いぞ。あと猫用の缶詰はとてもいい。毎日食していたい」


「ほんとご飯覚えてから食費馬鹿にならないよ。この金食い猫」


「いいだろう別に。涼子だって稼いでいるのだから」


「そりゃ、そうだけど……」


 不意に、涼子のスマホが振動する。


 画面を見てみると、研究室の教授からだった。




『至急』




 ラインの文面にはそれだけだった。


 だが、それが割符だった。


「涼子、出動なのか?」


 ナビ助が振り向かないでそういった。


「そーみたい。今度はどこ行くのかな。温泉があるところがいいな」


「旅行じゃあないんだぞ」


「知ってますよーだ。それじゃ、今日も除染作業を頑張るとしますか。そもそも単位になるしね」


 涼子はそう言うと、顔をパンパンと叩いて気合を入れる。この後に学部共通の授業があったのだが、友人に「出席よろしく」とラインで伝え、研究室へと急いだ。


 この国立大学にある谷島民俗学研究室は、実は国の機関である事は殆ど知られていない。


「墨田調査員、遅くなりました」


「おっそーい涼子ちゃん! もうみんな揃ってるよ!」


 ドアを開けると個性豊かな面々が顔を揃えていた。誰も彼もが一癖も二癖もありそうだが、今の所なんとか仲良くやっていけている。


 この研究室は、何を隠そう文化庁特別禁出文化財保護課の息のかかる別働隊事務所。


 墨田涼子はその調査員。


 その身に特禁文化財を宿し、遍く特禁文化財を保護、保管そして除染する秘密裏のエージェント。




 特別乙種調査員、墨田涼子。




「さて! 今日もバリバリ除染やりましょう!」




(了)































































 うふふ。


 そうだよ。小生だ。


 これで物語は一旦の幕が降りるが――小生は本であるからして。ちゃんと書くべきところはしっかり書くべきだなと思ってな。


 まあ、次の登場人物たちの紹介を最後にしたいと思う。


 そうやってまた見返すと、違った物語が見えるかもしれないから、な?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます