第81話 新鮮

試合の経過は、敢えて省く。


「お兄ちゃん、屋根がないね」

「ここの球場は、後からつけたからね」

「どうして?」

「当初から、計画はあったようだけどね」

「そうなんだ。でも私は、屋根はないほうがいいな」

「どうして?」

「もったいない」


暗い海の底にいた、かすみにとって、陽の光はありがたいのだろう・・・

月の優しさもだが・・・


「お兄ちゃん、向こう青に染まってるね」

西武の応援席を、指差す。


「何だか、活気にあふれてるね」

「もう、勝利を確信してるんだとろうね・・・」

しかし、最後までわからないのが、試合。


記憶は消されているはずなのに・・・

この胸騒ぎはなんだ?


「あっ、エディ・マーフィーがいる。野球してたの?」

「ああ、ブライアントが・・・」

「ちがうの?」

「確かに風貌は似ているけど・・・よく知ってるね、エディ・マーフィー」

「資料館で見た」

「ブライアントは?」

「野球、興味ない・・・」


かすみにとっては、逆に新鮮なんだろうが、野球以外の事で騒いでいる。


「兄ちゃんたち、お熱いね」

知らない男性が、声をかけてくる。


「恋人かい?」

「兄妹です」

「そうかい。まあ、昨年の雪辱といこうや」

「そうですね」


男性は、去って行った。


「お兄ちゃん、知り合い?」

「僕たちは、タイムスリップしているんだ。知らないよ」

「知らない人に声をかけられも、無視しないとだめだよ」

「ここでは、同じファンは同類なんだ・・・」

「そうなんだ・・・」


人であふれてきた。


「お兄ちゃん」

「何?」

「みんな、ひまなんだね」


それは言わない約束・・・

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