第33話  初めてのお正月

もうじき、年が明けようとしている。

年が明ければ、本格的な指導まで、わずかとなるが・・・


「かすみは、正月はどうするの?」

「こっちで、過ごすよ。私はまだ、帰れないもん」

「そっか・・・」

かすみは、あまり寂しそうではなかった。

むしろ、期待に満ちた表情をしていた。


本来なら、首を突っ込むべきではないだろう。

でも、僕は訊いておきたかった。


かすみの時代の、お正月を・・・


「私の時代の、お正月?」

「うん」

かすみは、嫌がると思ったが、快く話してくれた。


「まず、除夜の鐘?これはもう、なくなってるわ。当然、初詣とやらもないよ」

「そっか・・・」

「神社やお寺もなるけど、形だけだから・・・」

記念碑みたいなものか・・・


「おせちもあるけど、この時代とは食べるものが違うんじゃないかな」

「まあ、かすみの時代には、もう無い物もあるしね」

「うん、でもお雑煮はあるよ。餅はあるから」

餅の形は地方によって違うが、訊くのをやめた。


僕の家は丸餅だが、かすみが僕の子孫なら、多分同じだろう。


「年賀状とかは、ないの?」

かすみに訊いてみた。

「ああ、手紙ね。この時代もそうだけど、完全にメールになってるよ」

そっか・・・


「でも、知り合いに挨拶には、行ってるよ」

年始まいりか・・・


「でも、昭和50年代ごろの町並みだったけど・・・」

「あっ、覚えていてくれたんだ。私のシェルターはね」

「他にもあるの?」

「うん、昭和30年代とかもあるけど、形だけだから」

他にもあるんだな。


「でも、アンバランスだね」

「それも、数少ない、あの時代のいいところなんだけどね」

かすみは笑っているが、気を使ってくれているのだろう。


「お正月の挨拶は?」

「社交辞令だけど、この時代と変わらないよ。これは、変わらないんじゃないかな」


しばらくすると、除夜の鐘が聞えてきた。

「お兄ちゃん、これが除夜の鐘なんだね」

「うん」


「では」

「では」


「明けましておめでとうございます」










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