第21話 今一度

一応、時刻表を調べよう。

えーと、サンライズ出雲の時間は・・・


「かすみ」

「何、お兄ちゃん?」

「出雲は、22時発車だよ」

「そんなに、あるの?」

「ああ、それまでどうする?」

かすみは、考えて・・・


「じゃあ、それまで東京近郊を回ろうよ」

「ずっと乗るのか?」

「うん、いいでしょ?」

せっかくだ、付き合うか・・・


「わかったよ」

「よかった、ありがろうお兄ちゃん」


東京近郊を回ることになった。


電車の中では、かすみは無口になった。

何もしゃべらない。


もっとはしゃぐと思っていたが・・・


「お兄ちゃん」

「どうした?かすみ」

「空・・・ないんだね・・・」

「えっ」

「何だか・・・高いビルに遮られてる」

「この辺りは、ビジネス街だからね・・・」

「そうなんだ・・・」

そういや、かすみの住んでいる2200年は、高いビルはなかったな・・・


「そういや、かすみの時代にはなかったな、ビル」

「うん、シェルターも宇宙ステーションも2階までしか増やせないよ」

「かすみ?」

「それに、お兄ちゃんと住んでいる所は、まだあったけど、緑が少ないね」

「ああ」

「始まってるんだね・・・」

かすみが、何を言いたいかはわかった。


「私の時代では、もうこれすらもないんだね」

かすみの横顔は、寂しそうだった。


「お兄ちゃん」

「どうした?」

「私の時代はもう、手遅れだけど・・・空を、緑を、取り戻して」

かすみの眼は、真剣だった。


改めて感じたのだろう。

使命を・・・


「あっ、ごめんね、お兄ちゃん。湿っぽい話をして」

「いいって」

「せっかくの旅行だし、その間は楽しませてね、いろいろと・・・」

かすみの言いたい事はわかった・・・


その後は、いつものかすみに戻った。


「お兄ちゃん、これが鉄道なんだね」

「うん」

「一度に大勢の人を運べる、素敵な乗り物だね」

かすみの時代には、必要がないものな・・・


感動してくれるのは、嬉しいし、かすみにとってもいいことだ。


だけど・・・


頼むから、幼稚園児みたいな座り方で、窓の外をみるのは、やめてくれ!

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