第78話

 昨日の激闘の後の土曜日、少しだけ遅く起きて日課のジョギングを済まして。

ログインそして王都に転移していつもの店に行けば既に二人とも集まっていた。


「おう、妖精の勇者殿、昨日はお疲れさん」


 ソーヤーが出合い頭にそう挨拶をする、事の経緯はサクに全部聞いたとの事。

僕は勇者って柄じゃないからその呼ばれ方は好きじゃないのだが。


「さてと、コージィも来たし、昨日の結末の話をさせてもらうわよ」


 どうやら最後まで話すのは僕が来るまで待っていてくれたようで。

その言葉と昨日手に入れたアイテムを説明してくれる。

最初に出て来たのは木の棒であった長さは1m弱といった所か。


「これ、あんたは見たことあるけど、あのご神木の一部よ、軽くて丈夫なうえに

よくしなるもんだから弓の素材に妖精たちの許可貰って一本拝借したわ、どんどんいくわよ、次はこれ」


次に出て来たのは瓶に入った液体であった、蓋を開けるとほのかに甘い香りがする。


「こっちは妖精があの森にある樹液を集めて作ったシロップ、名付けるならフェアリーシロップかしらね、料理によし、薬に混ぜるもよし、といってもこの一瓶集めるだけでも彼らには大変な作業だから数は無くてこの一瓶だけ」


 なんでも、どんな傷も病も吹き消し去り疲労も吹き飛ぶ妖精の妙薬の素材の一つらしい、作れればいいんだけど、作成方法は秘密らしいから無理だろう。

シロップの量は妖精達のあの体躯じゃ大量に樹液を集めてシロップを作るなんて真似は出来ないから妥当だな。


「それと最後だけど……この子ついてきちゃったのよね、ティファナもぜひ連れていってあげてって言うから契約したわ、ピクシーのカレンよ、はい、挨拶」

「お! それが妖精なのか、ちっちぇーなー、でスペックは?」


 サクのポケットからサクに特別懐いていた一匹が出てくる、小さく会釈をする。

名前も付けて相当可愛がってるな、そしてソーヤーが訪ねたスペックだが、体が小さい為、筋力や生命の成長がストップするというひどいデメリットスキル【小柄】を持つ。ただ魅力のステータスに大きな補正がつくそうなので、魅力に関しては断トツの高さを誇っている。更にほかのステータスについても悪くない、スキルには治癒魔法もあるので、回復もお手の物といった所だ。


「ま、こんなところね、妖精郷はティファナのあそこだけじゃなくて、別の場所にもあるって言ってたわ、同じように困っていたら助けてくれると嬉しいですって」

「お、いいじゃんいいじゃん、そんときゃ俺も連れてけよ、妖精の勇者様」

「そうだね、また微力を尽くすのも悪くない、思わぬお宝も出てくればなおよしだそれじゃ、次はソーヤーの番だけど、昨日は何をしていたんだい?」

「応! 俺は俺なりの資金集めと素材集めさ、ほれ」


 そういうと、ソーヤーは袋といくつかの箱をテーブルの上にぶちまけていく。

袋の中には大量のG、箱は全て鍵がついている、もしかしてこれって。


「ここまで集めるのは大変だったぜ、見つかった時は何度死ぬかと思ったか」

「あんた、もしかして、これ……なにやってんのよ!」

「強奪スキルか……」

「ご名答、大盗賊ソーヤー様って呼んでくれていいぜ、ちなみに強奪じゃなくて

盗難スキルね、強奪なんてスマートじゃないやり方はノーセンキューだぜ」


 なんでも街中では一切攻撃などは出来ないがそれ以外の相手などに干渉するスキルの使用は可能。街の外であれば武器や魔法で直接攻撃も自由と来たものだ、さすがに自分より圧倒的に弱いプレイヤーや特定のプレイヤーをしつこく狙うといったことは暗黙の了解でご法度だが。さてソーヤーは街中だろうと相手に干渉できるスキル盗難と言う者を取得してるらしい、器用さと敏捷で盗みを働くまさに盗賊と言うわけだ。効果としてはランダムに相手の持つGやアイテムを奪えるという代物。

ただ、気配察知系のスキルが高い奴には通用しないとの事。


 さらに、開錠スキル、隠密スキル、隠蔽スキル、変装スキル等を駆使して空き巣もしたとか、まじで泥棒じゃないか、よくやるなぁ


「俺はシステムに則ってスキルを有効に活用、行使したにすぎない、文句があるなら気配察知系スキルを上げろって話だ、むしろこれでも格上を狙って盗難したくらいだぜ、空き巣だってスモールクラン狙いだけどそれでも割と警備がそこそこ厳重な有名どころ狙ったんだぜ、結果は3勝2敗で勝ち越しだ」


 盗みの方法だとか狙った場所なんかを語りながら目の前の箱の開錠作業に取り掛かるソーヤー、折角なので僕もいくらか手伝う事にする、でてくるのは大半がGといった感じ。ただ中には素材や武器、魔導書も入っていたりとバリエーション豊富だ。


「お、魔導書じゃんしかも解読済み、コージィ、炎と水って覚えてる?」

「覚えてないな、貰えるなら覚えるよ、お、これって投げナイフかしかもたっぷりあるな、おまけに麻痺属性持ちの武器だね」

「多分、商人プレイヤーの盗品だな、俺使っていい? それと、ほい魔導書」

「さんきゅー、じゃこっちパスするな」

「あいよ、お、これいい爪だな、武器の素材によさげ」

「いやぁ、ここまで種類が豊富だと笑いがこみ上げてくるねぇ」

「嬉々として盗品の品定めをするあんたらに私はドン引きよ、盗みは盗みよ、正当性なんて、あるわけがない、私はその盗品から出たものは受け取らないわよ」


 と、サクが怪訝な顔をするのをしり目に二人で仲良く盗品をわけっこ。

なーに、盗ったもんはしょうがない、ありがたく使わせていただこう。


「ふぅ、やっと、ここまで開錠し終わったな、後三つ、これらは空き巣で入った

スモールクランの代物、右から《セクシーサーティーン》《ブルースドラゴン》そんでもって、あの新進気鋭の紅蓮傭兵団の宝箱だ」  


 おいちょっと待て、聞き捨てならない場所から盗んできてないか。

ここにきて、僕のヤバいレーダーが警鐘を鳴らす。


「鍵は。あー、結構きついな…………よし、まずはセクシーサーティーン、おお! キャバ嬢が来てそうなドレスやコスプレ衣装、セクシーの名に恥じない代物だぜ。

まあGにならねぇしいらんが、次のブルースドラゴンの方は、ひゃっほぉ50万も入ってるじゃん、素材も入ってるな鱗か何の鱗だろ、さーて最後は紅蓮傭兵団の宝箱、重たいから期待してるのよね、さーて、御開帳! …………石と手紙?」


 宝箱を開けていけば、様々なアイテムが出てくる、衣装だったりお金だったり。

そして最後にあけた傭兵団の箱には目いっぱいに敷き詰められた石ころと

一通の手紙が入っていた。


「えっと、何々、阿保が見る豚の尻だとさ、んだこりゃ」

「お宝見たら反応して盗み出すあんたみたいな馬鹿には丁度いい煽りね」

「ああ、そうだな、よもや我がクランのお宝を盗もうとするとは驚いたよ」

「まったくだねぇ、なんでまたあんなやばいとこ……ろ……に、っげぇ!?」

「おいおい、げぇ!? はないだろう」


 ソーヤーが手紙を取り読み上げていると、僕の後ろから声がする。

思わず振り返れば、そこには僕が怖れるあの人が立っていた。

長く伸ばした赤い髪に赤い鎧、瞳も同じく燃えるような真紅。

そう、紅蓮傭兵団のリーダー、ファング、僕の姉であった。

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