第76話

「蛾だね、なんか白色の針撒いてるけど、あれって、もしかして」


 蛾は妖精の村の上空に来ると、羽ばたくと白色の柔らかい毛のような針を振り撒いてきた。落下速度もかなり早いな、喰らったらどうなるかは……まぁ、多分あれだよね。周りを見れば、妖精たちが慌てて家の中に逃げ込んだりしている。

やっぱりそういった類のものなんだな、とりあえず、多少は防御しますか。


「ティファナさん、僕のマントの中へ、サクこれってやっぱり?」

「は、はい!」


 ティファナさんをマントの下に隠しつつ、針を被りながらサクに尋ねる。

サクがさっきまで撫でていた妖精を針からかばいつつ説明してくれる。

その正体は案の定といったところ、猛毒を誘発させる毒針毛、実際ステータスに毒状態の状態異常の表記が出ている、回復魔法を使用して解毒してしのいでいれば

満足したのか巨大蛾はそそくさと去っていく。


「あれが、貴方たちが困っている正体か……確かにやばいな」

「はい、それと勇者様、毒を受けてしまいましたが、大丈夫ですか?」

「これくらいなら回復できるわよね、コージィ」


お安い御用だとサクと僕の受けたダメージを回復させていく。


「で、サクはあれ倒せなかったから応援として僕を呼んだと」

「ええ、最初は一人で挑んでみたんだけど空飛んでるから近接は無理、弓矢で遠距離攻撃したけど途中から行動変わって風ではじき返される、更に猛毒の針毛をまき散らすもんだから、そのまま毒を貰って回復できずにやられたわ、そこで風魔法の使い手コージィの出番、こっちも風で対抗できないかなって」

「そううまくいくものかなぁ、でもまぁ、やってみる価値はあるか、アイツ何処に逃げてったのかな?」

「それでしたら、ご神木だと思います、あの巨大蛾はご神木の周りを縄張りにしてるんです、我々の存在も邪魔だからこうして毒で殺そうと、今までは妖精の妙薬や回復魔法が使える子が毒を癒してきましたが妙薬は作るための肝心の素材のご神木の蜜を巨大蛾が邪魔で取れなくなり。回復魔法の子もMPに限界がありますので大人数は癒せません、このままでは全滅してしまいます、お願いです、どうか、どうか、私達をお助けください、勇者様」


 ティファナはその小さな体を折り曲げ、僕らに精一杯のお願いをする。

目の前にクエストが出るタイトルは【妖精の勇者、巨大蛾を撃破せよ】ね……勇者

ってのは柄じゃないな。


「任せなさい! 今度こそ華麗にぶっ飛ばしてみせるわよ」

「勇者ってのは柄じゃないけど困ってる人いや妖精か、それをほっておくほど非情にはなれないね、微力を尽くさせていただきます」


 サクと僕がそう答えれば、ティファナさんは何度も頭を下げてありがとうございますと感謝を述べる、そりゃもうしつこいほど、さて割と時間ギリギリなんだよね。

後1時間でクリア出来るかな? ま、やってみるか。

僕らはさっそく森へと巨大蛾を追うべくご神木の方へ向かう事に。


「で、どのくらいの距離かな?」

「走れば数分でつくかしらね、ウィンドダッシュ貰える」

「はいよー、というか、その肩に乗ってる妖精何?」


 サクにウィンドダッシュをかけながら、サクの肩に捕まっている妖精について尋ねてみる。彼女はさっきまでサクが撫でていた妖精だな……


「勝手についてきちゃったのね、どうしようかしら……」

「今から戻るのはなぁ、時間けっこう押してるよ」

「そっか、じゃぁついてきなさい一緒に仲間を助けましょ」


 というわけで、小さな仲間を伴って巨大蛾の巣くうご神木の元へ走ることに。

ご神木の元へ辿り着けば、そこに巨大蛾は樹にへばりついていた。

さっきは頭上を飛ぶばかりで観察できなかったが、その姿は地球で言うドクガに近かった黄金色の羽根には確か毒針毛があるんだよな、あんな巨大ならいくらでも飛ばせるって寸法か、やってられないなぁ。


「どうしてこの森に来たんだろ、何が目的なんだろうか」

「そういう分析はどうでもいいわ、さっそくここから不意打ちで仕掛けましょ」


 サクが弓に矢をつがえて構える、僕も杖を取り出し、巨大蛾へ向ける。

一斉に矢と魔法を射込めばファーストアタックは成功、巨大蛾は身じろぎをして羽を羽ばたかせて飛び上がる。羽ばたきにより風が起きると同時に謎の白色の針毛が舞い散る、距離があるため、こちらまでは針毛は届かないが、すぐに巨大蛾は僕らを捉え突進を仕掛けてくる。横っ飛びで回避するものの飛び散る猛毒の針毛は被ってしまうが為に毒状態になってしまう。解毒魔法をかけて処理をする。


 サクは攻撃をよけながら弓矢で巨大蛾へ確実にダメージを与えていく。

ここまでは順調だった、相手が突進してきたら横に避けて毒は僕が回復。

その隙にサクが弓矢で攻撃する、しかし数回それを繰り返すと、巨大蛾は行動

パターンを変えた、僕らから距離を置き羽を羽ばたかせて強風と共に毒の粉をまき散らす、これがサクの言っていた弓矢をはじく風か。

サクはいちかばちかと矢を放つも風に阻まれ失速し当たる前に落ちてしまう。


「ここで僕の魔法の本格的な出番か、ウィンド!」


 風魔法の初歩の初歩、効果は単純で風を起こす魔法。ただ、この魔法は出力によって、その強弱を変えることが出来る。強くしてもダメージとかは出ないゆえ使う機会は少ない、そんな魔法をとにかくMPを注いで強風にする。その強風は徐々に巨大蛾の風を押し返していく、この調子でいけば追い風に出来るかな、その目論見は成功し風は追い風となる、巨大蛾は懸命に羽を羽ばたかせ押し返そうとするも、ウィンドの魔法を解かない限りは追い風のままだろう。


 が、この追い風は予期せぬ被害も与えた、突進でまき散らした針毛が再び巻き上がり、僕らを刺してしまう。解毒魔法を使おうにも風魔法を解けば巨大蛾に攻撃できない。でも、このままだと猛毒で死ぬ……アレを使うしかないか。


 隣ではサクが猛毒状態になりながらも追い風を味方に攻撃を続けている。

そのサクへ秘作アイテムを投げ渡す。この前作ったアレである。


「なに、この兎の糞みたいの、今、攻撃に忙しいんだけど!」

「兎の糞って言わない! 猛毒で死にたくないなら、吐かずにかみ砕いて呑め!」

そういってから僕も同じものを取り出し、かみ砕く、うん、ゲロまずだな

「ったく、一体何なのよ……うぇー!!! まっず、ゲロまず!? 何よこれ!」

 

案の定、口から吐き出す、まあ、そうなるよな。


「解毒の丸薬、解毒作用あるものありったけを調薬で混ぜたもの、効果は保証するが、ただ苦みと酸味が同時に襲い掛かるのでその味までは保証できない」

「良薬口に苦しとはよく言うけど、これは酷すぎるわ、あーでも毒で死にそう、うう……ええい! 根性見せるのよ、サク!」


 目を瞑り、丸薬をかみ砕き呑み込む、その目には涙が浮かんでいた、うん本当にごめん、でもこれしかないんだ、サクの毒は解かれる、ちなみに妖精の方はサクの鎧の中に隠れているのか、ノーダメージである、羨ましいものだ。

何はともあれ、サクが攻撃を続ければ、巨大蛾は更に行動パターンを変える。

羽ばたきをやめて、上空へと逃げ出してしまうのだった。

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