第68話
林間学校の一日目が終わり、夜が明けた朝。
「おはようございます起きてください」
「うう~、眠い、寝かせてくれ」
これである、だとは思ってたが、さて。
「まだラジオ体操には早いって、内山早起き過ぎない?」
ふむ、携帯の時計を見ると、まだ7時であった、確かにばりっばり早起きである。
他のクラスメイトも眠らせてくれと言わんばかりに布団を被ってしまう。
「確かに早かったみたいだね、まあ目も覚めちゃったし、僕は一足先に顔洗ってくる皆も遅れないように起きて来なよ」
「うい~っす、おや……ぐぅ」
田中君、寝つきが早いな、まあいい、静かに扉を開けて部屋を出てみる。
といっても、郊外の宿泊施設のそれも朝早い時間。何があるわけでもない。
遠くに鳥の鳴き声がする他は静かな敷地内を歩き洗面所へ、顔だけさっさと洗う。
完全に目を覚ましたはいいが、まだ1時間もある。いつもならばランニングにでも出ようかなと思うが、さすがに学校行事中にはやるべきではないだろう。
適当なベンチに腰掛け空を眺めてみる、晴天、雨はなさそうかな?
「うん? おお、内山じゃないか! 朝早いんだな、おはよう!」
ベンチに腰かけていれば、ジャージ姿の猿顔の男が寄ってくる。
まあ我らが担任、遠藤先生であるわけだが、先生も朝の早い事で。
「あ、おはようございます、どうも、早起きが日課なものでして」
「関心関心、随分暇そうだな、何もないからかな」
「友達が起きてたら、無いなりに何かしてましたが、皆して朝は弱いようで」
「まだ時間じゃないから寝るのはいいが、ちゃんと起きてくるかねぇ」
それは、保証できないな、多分田中君は遅刻すると予想。
「しかし遠藤先生も随分、早めの起床みたいですが、何かあるので?」
「ああ、先生も朝は早い方でな、ほら、三文の徳というじゃないか」
「6円分の徳を積むか、その分多く寝るかは意見が割れますがね」
「面白い考えだなぁそれは、だが6円も積もれば山だぞ」
「そう捉える方もいるのですね」
「先生と内山は二人揃って、6円がどうとか何をいってるの? チョコの話?」
ベンチに座って、話し込んでいるところに、女の子が声をかけてくる。
昨日の夜に分かれた後きりだった、小泉さんがそこにはいた。
「やぁ、小泉さん、早起きだね、徳を積むか眠りを積むかの問答さ」
それにチョコの話であれば5円ではないかな、小泉さん。
「もっとわけわかんなくなった」
まあ、中身もへったくれもない会話だ、訳が分からないのも仕方なし。
「小泉も朝が早いんだな、それとも何かあったか?」
「いえ何もありません大丈夫です、ただの早起きです」
「そうか、何かあったらいつでもいいなさい、朝のミーティングもあるから
先生は戻るぞ、二人も時間までには広場に集合するんだぞー」
そう言い残して、遠藤先生はベンチから立ち上がり、のしのしと先生たちの泊っているバンガローへと戻っていく。
「僕らも戻る? 田中君を起こさないとたぶん彼の事だから遅刻しそうだし」
「私はちょっと居づらいのよね、冴島さんとかと一緒だからさ、部屋」
「小泉さんは物言いがストレートなのと、リアクションが素っ気なさすぎるんだよ、もっと、人当たりをよくだね」
「そういう気づかいとか嫌いなのよ、人の顔を伺ったりとか、私には無理」
「ま、それが出来たら、あの時に争いになったりしてないですよねー」
案外と気の短い小泉さんはゲーム内で一つ諍いを起こしていたりする。
「あんただって、アレに対して挑発してたんだから、人の事言える?」
そして、それに見事に巻き込み巻き込まれ解決して今の関係があるのである。
「あの時は確かにそうだね軽率だったと思う。でもそれとこれとは別で昨日野村さんはかなり機嫌悪くしてたよ、少しでいいから気を使ってあげなよ」
「あんたまでそういうこと言うの? 向こうから話しかけなきゃいいのよ。
昨日だって、わざわざ、何で私のいる時に話しかけるか……」
「人間関係って難儀なものだねぇ、さて……時間にはまだ早いな」
後30分か、もう起きてるのはいるかな?
「なら、二人でちょっと散歩でもしましょ。歩いて話してたらすぐでしょ」
「賛成、とりあえず、広場までのんびり歩いていこうか」
僕は小泉さんを伴って、まだ時間には早いが、ラジオ体操をするであろう広場まで歩くことにするのだった。
広場に向かう途中、何人かは既にバンガローから出てきており、寝ぼけ眼をこすりながら、顔を洗ったり、タオルで拭いていたりしていた。
「おっはー、桜ちゃん、おやおや? 男女が二人で逢引ですかな?」
そんな人の一人に既に起きていて、僕らの共通の友人の一人。渡辺さんが僕らへ
声をかけてくる、ふむ、確かに人から見たら、そうかもしれないね。
「それはどうだろうね? ご想像にお任せするよ渡辺さん」
わざと想像に任せるとはぐらかしてみる。さて隣の相棒はどう反応するか?
「馬鹿言わないでくれない? ただ早起きが重なっただけよ」
「はいはい、っま、そんな感じ、暇を持て余した者同士、ぶらついてたのさ」
ま、小泉さんが相手ならこうなるのは分かっていたさ。面白く無いねぇ。
「なーんだ、ちょっと面白くないなー」
「面白いか面白くないかで語るのはやめて、渡辺さん」
「はーい、ごめんなさい、でも内山君ってモテるからね、もしその気になったらソッコーで狙わないと誰かに獲られちゃうよー」
「どうも、見た通りではモテモテな感じはしないけどね」
「それは内山君が抜けてるだけだね、頭いいのにたまに抜けてるよね」
「そうね、ここ一番では切れ者だけど、普段は間抜けね」
「失敬な、僕は間抜けではない、とんまだ」
「それどっちも同じ意味じゃない!」
「おおう鋭いツッコミ、あ、そろそろラジオ体操の時間だよ、広場へGOだ」
時計を確認すれば、10分前、そろそろ広場に移動するべきだ。
到着すれば、すでに人は集まっており、ラジオ体操が始まる。
案の定、田中君は遅刻して、遠藤先生に怒られるのであった。
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