第58話

 トーマさんの畑でトマトを買ってから少し進むと、大きな畑に出くわした。

凄いな……これ、全部サツマイモ? 一人じゃ管理しきれないんじゃなかろうか。

えっと、薩摩野郎さんだったかな、どこにいるかなぁ。


「なんで、あたしにうれないのかしら、あれほど大規模な畑よ、有り余ってるのではないかしら、答えなさいな」

「なんべんおんなじこといわせんだ? 俺の畑の野菜はあんたらには売らん、クランだが何だか知らないが、強いからって偉ぶれるわけじゃねーからな」


 言い争う男性と女性とその取り巻きが目に入った。

文句を言う女性の姿は煌びやかな甲冑を見に纏い、腰に携えた剣も柄だけでも相当な品と思える装備をしていた。お嬢様とか姫騎士って感じだ。周りの男たちも甲冑鎧を見に纏い姫騎士を守る従者に見える。そういうRPなのだろうな。


 対する男の方はトーマさんの言ったずんぐりむっくりした熊のような大男だ。

先ほどまで作業をしていたのかその服装は薄着であった。かなりの筋肉を持ち目の前の騎士たちにも負けそうもない力を持っていそうだ。


「おのれ強情な男よ、絢姫様に野菜を売ることが出来るなんてそうない機会だというのに、それを無下にしおって、本来なら泣いて差し出すべきぞ!」

「構わないわ、でもいい、先も言ったけど私たちのクランは『もりもり商会』や『黄昏教団』と同じで『ミドルクラン』よ、それに立てつくのよ、覚悟してなさいよ」

「っは! 構いやしねぇよ、俺には俺の流儀ってのがあんだ、そら帰りな」


 女性の捨て台詞にかかってこいと言わんばかりに威嚇した後、二人の会話はそれきりで、女性の方は大男から離れ僕の方に歩いてくる。


「聞いてたのかしら? 盗み聞きは感心しないわね」


 姫騎士さんは僕に話しかけてくる、嫌だなぁ僕はもうトラブルは起こしたくないんだけど。


「ああ、これは失礼しました」

「…………みすぼらしい格好ね、貴方初心者?」

「いえ、王都進出は果たしました、どうにもコイツをつけてないと落ち着かなくて、今までの激闘や奮闘も思い出せますしね、愛着のあるお気に入りです」

「ふん、そんな発想は貧乏人の発想よ、良い装備をしてこそよ、そんなんじゃ王都じゃやっていけないでしょうね、ま、せいぜい頑張りなさいな」

「ええ、それじゃぁ」


 失礼な事も言われたがトラブルを起こさないためにも静かにその場を収める。

絢姫って呼ばれてたよな……アレが『絢姫を守り隊』か、ミドルクランって言ってたな、中間程度の実力、規模があるクランって意味かな?


 まぁ、今はどうでもいいか、しかし売ってくれないか……いや、トーマさんが

紹介してくれたんだ。紹介した人がいるなら、売ってくれるかもしれない。

芋類は4000Gで売れたんだ、是非とも買っていきたい。


「す、すみませーん、薩摩野郎さんで間違いないですか?」

「あ”あ”ん、どちらさんよ?」


近くで見ると巨体と更に少々威圧感の強い顔に気圧されてしまう……


「トーマさんにサツマイモを作ってる人がいると聞いてお伺いしたんです」

「おお! トーマの知り合いか! 悪いなちょっと性質の悪いお客が来たもんでな、気分悪い返しをしちまった、とりあえず、座れよ、お芋イップス食うか?」


 最初の凄味が一転して笑顔に変わり、椅子をすすめ、おやつを用意してくれた。

きっと、ここの畑で出来た芋だろう、こいつは美味しいな。パリパリとした触感にほのかな甘みと軽く振られた塩のアクセントがベストマッチしてる。


「で? 何しに来たんだい? 兄ちゃんは」

「あ、すみません、まずは自己紹介を僕はコージィと言います、お芋チップスとても美味しかったです」

「おう、そりゃ、ありがとさん、で、用事は?」

「ええ、野菜を買い付けに来たのですが……すみません、先ほどの言い争いを聞いてしまいました、何やら理由があって、野菜を売らないのですね。」

「ああ、そういうわけじゃねーぞ、俺はあいつらがふんぞり帰ってるのが気にくわんかっただけだ、自分が上って決め込んで、野菜をこれこれこういう値段で譲れ、わかったか! って言い方が気にくわなかったのさ」

「なるほど、それでは、交渉次第では野菜をお譲り頂けると?」

「ま、考えてはやらんことも無いぜ」


 薩摩野郎さんはにやりと口端を上げて笑う、さて、どうしたものか、手持ちは残り7万か………


「箱にしてサツマイモはどれだけ用意できます?」

「ああ、今の在庫は…………100は超えてるな」

「それは凄いですね、これほどの大規模農場を一人で?」

「……まあな、割と何とかなるもんだよ」


 すこし溜めたな、これは何か仕掛けがあってもおかしくないな……


「これはご自身でも販売してたり?」

「してるぜ、といっても、畑をほったらかしに出来ないから、オークションっていって、プレイヤー限定の販売しかしてねーけどな。」


 ああ、メニュー画面にあったな、オークションを開くとアイテムを出品出来る機能出品された品はどのプレイヤーでも閲覧可能。購入はそのアイテムを指定するだけ、たまに掘り出し物とかもあるらしい、売る側も基本ほったらかしでも大丈夫で、売れたときなどはメニューを見ればわかるといった寸法だ。


「そうでしたか、僕は薩摩野郎さんのお野菜を王都で売ろうと思うんですよ、王都での売却はきっとオークションよりもお金が手に入ります、断言できます」

「へぇ、それはどうしてだい?」

「僕らの間の秘密にしていただければ。双方に莫大な利益を保証します」

「聞いてやろうじゃあないか……」

「ええ、それでは」


今、王都で起きている、野菜の高騰の話を薩摩さんにする。


「……と、言った具合で、おそらく既に外のクランも行動を始めているので、稼げる額はそこと劣りますが、行動を速めれば早めるほど、儲けが出るはずですよ」

「なーるほど、だからあの、姫騎士と取り巻きも買い付けに来たってのか」

「そうでしょうね、そして薩摩野郎さんの野菜を売る為人手がいりませんか?」

「僕はこの前、この方法を他のプレイヤーとやりましてね、その際に運搬スキルを取得して成長させております、更に言えば、僕の契約魔物は高い運搬スキルを持ちます。迅速な売却をお約束しますよ」

「よーし、乘った! 取り分は5割でどうだ!」

「それだけ頂ければ結構、今すぐできますか?」

「いんや、ちょっと待ってろ、そんな情報をくれたんならこっちも一つ面白いのを見せてやるよ」


 薩摩野郎さんは畑に歩き出すと。一体の魔物を召喚した。

中型の犬くらいはありそうなアリだったちょっと顔が怖い顎とか簡単に僕をかみちぎりそうだ、そんな蟻は僕や薩摩太郎さんの足元で触覚をしきりに動かし始める、するとどうだろう、サツマイモが一気に引っこ抜かれていきひとりでにそのアリと薩摩野郎さんの前に集まっていく、だが、よくよくそれを見れば正体がわかった。


「ちいさい……アリ?」

「そうだ、こいつはマザーアントのアニーっていってな、王都の先にある湿地帯で見つけた魔物だ、そんでこいつは【蟻操作】って特殊スキルを持つ、これが、非戦闘時に限り近くのアリに命令を与えるってスキルなんだ、まぁ、こいつ自身は生命が低いし、魔法も物理も弱点で戦闘にはとことん向いてないんだけどな、こういう使い方ならとても役立つ」

「なるほど、アリを操ることで、これほどの大規模農場が出来ると」

「つってもアリだと複雑な作業は出来ないからな、やせた土地でなおかつ、生育にそこまで手間のかからねえ、サツマイモ以外は出来ないんだがな、今あるのを収穫できればもう50くらいは箱が増えるだろうな、コージィ、どんくらい運べるよ?」

「えっと……50はいけますね、あ、でも今はトーマさんから買い付けたトマトもあるので30ですね、しかしこれでは運送業者だなぁ」

「はっはっは、言えてるな、なら俺が50、お前は30運ぶか、そんで、二回目に俺とお前で35ずつで運べば終わりそうだな」

「じゃあ、その手筈で行きましょうか」

相談を終了してさっそく、サツマイモを頂き配送していく。

サツマイモを売って集まった額は60万、昨日のねるさんとおじいさんで稼いだ額が一気に超えるのだった、これに僕はトマトも売ったが、質がいいとかでそこそこのお値段で売れた7万である。


「じゃあ、これがお前の取り分だ、良い情報提供サンキューな」

「ええ、ありがとうございます、また何かありましたら連絡しますね」

「おう、そんじゃあな」


 僕は薩摩野郎さんともフレンド登録を済ませる。転売が終わるころには日が暮れてしまっていた、サクに連絡しようと思ったが、既にログアウト済み、報告はまた、昼が終わった後にでもするとしよう。王都転売凄いな……


【儲け】

初期所持金:10万G

トマトの買い付け-3万G

サツマイモ転売の取り分5割:30万

トマト転売:7万G

収益:44万












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