第50話

 憲法記念日が終わって今日はみどりの日。連休2日目だ今日はサクがログインしたらそのまま山道を行くという予定。今日中に抜けれればいいんだが……。

宿屋ではなく大通りに出て適当なベンチに座って人の流れを見ている。

朝と言う事もあってか流れは緩やかだ。山道に向かう人もあまり見えない。


 そうしてぼうっと眺めていると見覚えのある人が目に入った。

頭髪こそ白くなっているがその背筋はまっすぐで日本刀を携えた老人。

そして最初に見た時は麦わら帽子に動きやすそうな布の服だったのが今日は皮鎧に杖を持った少女。ねるさんとG.Gさんだった。


「お二人ともおはようございます。お久しぶりですコージィです」

「おおコージィ君、久しぶりだねぇ。あれから元気してるかい?」

「コージィさん、おはようございます、何やら大変だったみたいですね。」


僕が声をかけてくれればすぐに止まり、二人とも笑顔で返事を返してくれる


「ええおかげさまで。今日は友人と一緒に山道を登る予定なんです。お二人は?」

「いやなに。孫を王都に連れて行こうかと思ってね」


 おじいさんが言うにはなんでも王都では今、作物が高騰しているようでねるさんが作る作物を売れば更に大きな土地をセルカンドに買えるとの事。

これまでもおじいさんが持てるだけ持って王都に売りに言っていたようだが。一人では所持限界があるので儲けはそこそこだったようだ。そのそこそこの儲けも家の維持費や畑の維持費や経費に消えて残るのは数千Gといった所。


 高騰している今は一度も売っていないのでどうなるかわからないだが、やって悪いという事はないローリスクハイリターンになりうる方策だ。


「Gがあれば。おじいちゃんにもっといい装備や武器を揃えてもらえます。だから頑張って王都に行こうと思ったんです!」

「それはいいね。しかしおじいさん。あなたは王都に行った事が? それも度々行ったり来たりしてるみたいですが。山道を何度も?」

「うむ、私は王都に行った事があるよ。何度もね、さすがにあの山道を何度も登るというのは目的もないのにしないよ。転移魔法と言うのがあってそれを使ってね」


 おじいさんは噂にある転移魔法についてあっさりと答えてくれた。

なんでも王都には魔法屋という場所があり。その店ではオーブと言う物が売っておりそれによって魔法を習得することが出来るとか。


「そのオーブを購入してこっちにおじいさんが持ってくればよかったのでは?」

「そうしたいのはやまやまだが、あれは少し高くてね。一つにつき5万もするんだ。私とねるは畑作りもしてるからあれをまた買うとなると時間がかかるのさ。それならいっそと思ってね」

「ふむふむ、そうだ、ここで会えたのも何かの縁。よろしければ僕らと一緒にどうですか? お二人ともが迷惑でなければですが」

「ほほう、それは魅力的な提案だ、どうするかな、ねる?」

「ふぇ!? め、迷惑にならないでしょうか?」

「大丈夫だと思うよ。友人が何か言うのだったら僕が説得しますから」


 まあ。サクに限って誰かをないがしろにするという行為を行うとは思えないし大丈夫だろう。


「それじゃあ、お願いします! そうだ! おじいちゃん二人にもお野菜を持ってってもらうのはどう?」


 ねるさんがそう提案するとおじいさんはいいアイデアだと言って。僕に野菜を全て渡すと転移魔法でどこかに行ってしまう。多分自宅かな。まあインベントリに入れれば重さは感じないわけだからいいし。儲けの少しでも頂けれるなら悪くはない。


「おまたせー……そっちの子は誰よコージィ?」


 サクがようやく来たらと思えば隣にいたねるさんについて聞いてくるので自己紹介を済ませる、一時的に僕らのチームに入れてもいいかと聞いてみれば、サクは戦力が増えるのはいい事だと言ってくれた。


「待たせたね。そっちの子は前にあった剣士の子だね。早速だけどこの野菜を持ってくれ。それじゃあ後は自分の分を持ってくる」


 サクに自己紹介も無しに野菜を持つようにいってからまた転移する。

サクに転移魔法と野菜の事も話すと。噂が本当だったのかと驚くと同時に野菜がなんで高騰してるのか気になると言うのだった。確かになぜ高騰しているのか。


 普通に考えるなら周辺の畑が凶作だったとかかな……馬車を操る商人に何を積んでいるのか。ついでに王都周辺に農村はあるのかを聞いてみると。積載している荷物は5割が食料品3割は木材、残り2割は嗜好品。食料品の内訳は野菜よりも発酵させた乳製品や保存に適した物が多い印象が見受けられる。まあインベントリでもなければ野菜や生ものは腐りはせずとも品質や鮮度は大きく落ちてしまうだろうからね。


 そういった野菜や生ものは冒険者を雇いインベントリを利用して出荷するのが常のようだ。まだ朝も早い為そういう商人が通ってないがために統計に偏りが出てしまったという事か、少し待てば依頼を受けてもいいかもだが……いやすでにねるさんの野菜を持っているし。このままいくのがいいか。


 そして王都周辺の農村だがあるようだ。しかし最近災害に見舞われて酷い凶作に合ってしまったようだ。災害の内容は大量のバッタの発生、いわゆる蝗害である。

日本でも歴史をたどればその記録は存在する、なおバッタではなくイナゴによるものが多い模様、日本だとバッタが集団生活を行う条件が整いにくいとか。


 まあ、そんな災害があったからこそ野菜が高騰していたのか。……そういやあいつら紙や綿とか植物由来の製品ならなんでも食べるんだよな。遺跡の本が食い荒らされてないか心配だ。そうした調査が終わる頃におじいさんが自分の分の野菜を持って到着する。戻ってきたおじいさんも交えて情報を交換すれば。


「なるほどのぉ。ならばや今こそがチャンスという奴だな」

「はい! ここで頑張ってセルカンドにもっとおっきな畑を作ります!」

「転移魔法のオーブを買う事も忘れないでよね」


 おじいさんとねるさんをチームに加えて、さっそく僕らは山道を進む事にしたのだった。

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