第45話

 「はいよー! グラバー! 大地を踏みしめ風を切れ!」


 時間も早朝のこの時間に僕はグラバーを乗り回していた。

今日は少々ジョギングを早めに終わらせて。この風を切る感覚を楽しむことにしていたのだ。グラバーは僕の意のままに動いてくれる。時折出てくるゴブリンもその鉤爪はいともたやすくゴブリンを引き裂き倒してしまう。

そうやってグラバーと朝駆けを楽しんでいると通話が入る。サクからだ。


「コージィ。テントに私もういるんだけど。どこにいるの?」

「おっと今からそっちに戻るよ。少し待ってて」


グラバーに指示を出しテントの方へと走らせ合流を果たす。


「あれ? 馬具なんてどこで調達してきたのよ」


 開口一番グラバーについた鞍や手綱といったものを見て何処で手に入れたかを尋ねられるので。昨日の夜にログインの出来事を全て話すのであった。


「おかげで僕は素寒貧。早急にGを稼ぎたい所だよ」

「ふうん。とにかく行きましょ。テント片付けてね」

「りょーかい」


 いそいそとテントを片付けていく。グラバーはその様子をつぶらな瞳で不思議そうに見ている。そういえば契約した魔物は食事などはどうだったっけ?

えっと……乗っている間ヘルプ機能で探してみるか。


 そんな感じにテントの片付けも終わったので旅を再開。ここからは僕はグラバーことウォレスラプトル。サクは馬に乗っての旅だ。歩きよりも断然早いし疲れないだろう。戦闘が少々不安だ。サクの片手剣は馬上から敵を狙うには少々短い。

馬上でも使える武器を用立てる必要があるだろう。馬を使い続けるならばだが。


「馬を走らせればどのくらいでつくかしらね」

「今日の昼休憩終わってからの日には到着させるよ。おっと敵が来たね。グラバー蹴散らせ! ついでに武器も強奪しろ!」


 襲い掛かってくるのはゴブリンの群れ。まあこの程度ならグラバーの突撃でどうとでもなる。さらにグラバーは鉤爪でゴブリンの武器を奪っては放り投げてしまう。


「強いわねーそいつ。っと危ないわねぇ」


 サクも馬による突撃と剣を巧みに操り武器を失ったゴブリンを切り捨てていく。

スキル強奪の発動である。強奪のスキルが敵の持つ一番高いスキルに勝っていた場合に武器を奪うというスキル。ゴブリンは練習相手に丁度いいだろう。


「いよっと。いい子だグラバー」


 首筋のあたりを優しくなでれば。こちらに顔を振り向いてくる。なかなか利口だし愛嬌もある。今後も仲良くしてやりたいものだ。


「しかし。コージィの魔物はパワーファイターばっかりね。契約状態だとあまり意味をなさないんじゃない?」

「それはあるかもね。でもまぁ自分の気に入った奴と一緒に旅をするのが一番さ」

「ゴーレムとそのラプトルで2体。他にどんなのがいるかは知らないけど魔物選びは慎重にしとくべきよ。後で後悔しないようにね」

「だね。次はなるべく知性のステータスに補正が入るのがいいね。もしくは魔法を覚えてる魔物とか。まあ気に入った魔物が出ない限りは。二体で頑張ってみるよ」


 魔物と契約が出来る数には上限は無い。だがいくつかの制約は存在する。

ひとつめは『使役できる魔物は1体のみ』と言う事。今の僕の場合はグラバーを使役状態にしているため。この場でカーレッジを呼んでも使役することは出来ない。


 何体も使役出来たら一人で複数の魔物を用意して一人で戦えてしまうというのが一つの理由である。より詳しく言えば。それを容認すれば折角のチームやクランを組む旨味が減るどころか。一人で狩りをするのが効率がいいからだとか。


 ふたつめ『契約状態に出来るのは3体まで』基本的に契約状態にしておけるのは一人のプレイヤーにつき3体のみだ。その3体のスキルと一番高いステータスの恩恵を得ることができる。何体とも契約を結べるならばその辺の剣を持つゴブリンと契約しまくればたちまち前衛としては完成させることができてしまうだろう。


 では。契約しきれなかった魔物はどうなるかと言うと。保留状態となる。

保留状態はいつでも解除することが出来て。その魔物と即座に契約が可能だ。

そして代わりに現在契約している魔物が保留状態になる。再度の契約の変更も可能であるために。状況に応じて契約する魔物を変える戦い方などを考えるのもアリだ

ちなみに先ほど懸念していた食事事情については。契約状態や保留状態だと魔物は食事がいらない。しかし使役状態では食事がいるので注意しなければならない。


「う~ん……お。あいつにするか。グラバー伏せてくれ」


 辺りを見渡すと一角に馬の群れが見える。今日の夕飯はあれにしよう。

杖の先を馬に向けると。馬の群れの二頭に対して風の槍を放つ。それは吸い込まれるように見事に命中し馬二頭を絶命させてしまう。サクとしては馬に乗っているがため複雑な表情をしていた。


「今日の晩御飯は桜鍋だね」

「あんた。人が馬乗ってるのに躊躇とか容赦がないわね……」

「いやぁ。グラバーが腹減ってるもんで。っさ。そっちの馬肉は食べて良いぞ」


 グラバーに自分たちが食べる分以外のドロップ(倒した敵がアイテムを落とすことをこういうんだって)した肉に美味しそうに齧りついていた。

出て来たのは馬の皮に馬の肉。皮の方は何かに使えないものか。


「コージィ。まだ日は暮れてないわ。もう少し進みましょうよ」


 ドロップアイテムの確認とグラバーの食事が終わった頃を見計らいサクが声をかけてくる。まだ太陽は真上か。ならもう少し進んでおくとしようかな……

















 

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