第22話

 村の探索を終えて昼の時間から日が落ちて夜になってもガスランタンの灯りを頼りに、ひたすらにビル・カーター氏の日記を読み続けていた。


 わかった事と言えば、まず、推測通り、ビル・カーター氏(以下ビル氏と呼ぶ)は魔法の研究をしていた人物であり、それとは別に個人的にゴーレムと呼ばれる存在を作っていたようだ。日記の一冊目は学生時代から卒業までが描かれていた。

 周りよりもとびぬけて優秀であった彼は孤独の日々を過ごしていたようであり。

真に友人と呼べる存在はおらず、ついぞできることなく卒業。


 2冊目からは学校を卒業してからの事が書かれていた。

どうやら本格的にゴーレムの開発を始めたようだ、家は貴族で裕福だったようでそこの次男坊であるビル氏は親から理解と協力そして資金を得て開発を成功させる。性能は耕作などの単純作業、採掘などの危険な作業場での活躍が見込めるだろうと書かれており、実際に活躍し、その技術とゴーレムは国内に浸透していった。


 そしてこれを機にビル氏は一躍有名人、貴族からいくつもの縁談が持ち込まれたようで、それを面倒だと一蹴する内容も見受けられた。なんでも伯爵位の家の女性からも婚約を打診されたとか。カーター家は男爵位だったようで、そもそもが次男坊たるビル氏には家の家督の相続権は無いのでこの婚約は大出世なのである。なおそれも蹴った模様。ある意味凄いなビル氏。


 そんな彼にも運命の出会いという物があった。あの絵画にあった女性の絵だ。

きっかけは女遊びの一つくらい覚えろと兄に無理やり連れてかれた娼館だとか。そこで適当に指名して話をしたのが彼女、かなりの若々しさで日記が書かれた当時10代半ばではとビル氏は書いていた。彼女がこうして娼館で働く理由は父母に身売りをしてくれと頼まれたから。


 なんでも、昨今の鉱山主は将来的には人件費の削減につながると積極的にゴーレムを雇い入れ、その分、鉱夫にはどんどん仕事がなくなっていった。彼女の父親もその一人で娘を養う事が経済上苦しくなり、娘を売る他なかった。彼は自ら作り出した存在は人々を豊かにすると信じていたが、逆の結果を起こしていたとは思いもよらなかったと日記に綴っていた。


 そしてそれからその女性とは同情からか定期的に会っていた模様、だがその心に徐々に惹かれ道場ではなく本気でアプローチするも身分が違うと一蹴されていたようだ、これは情けない。が、身分違いなど気にしないと言わんばかりに猛烈なアプローチをしたようで、気づけばゴールインした模様。


 女性の家族も別の仕事に就く事が出来たなど、嬉しいことが立て続けに。

2冊目はとても喜ばしいことの連続と言えよう。


 しかし3冊目で大きくビル氏の人生は変わっていく。

最初のうちは奥さんとの幸せな日々についてがびっしり何ページにもわたって書かれていたのでざっくりと読み飛ばした、おっさんののろけとか読む気にならないよそして幸せとは続かないもののようだ、その数日後、日記にはゴーレムを軍用兵器に転用できないかと言う打診を軍の偉い人に言われたとか。


 日記には可能であると書いてあった、だが軍の人には試さなければわからないと返したそうだ。自身の作った存在がまたしても不幸を生むような結果になるのを避けるためにそう返したとか。しかし今度は莫大な金を用意して君を好待遇で雇おうと言われた、数日の期間を貰い悩みに悩んだ、しかし最終的には軍のゴーレムの兵器転用の為の研究員になることを決意した、断る事などできるわけがない、きっと次は今の仕事が出来ないように追い込んでくるだろう(この時期ビル氏はゴーレムの開発ではなく魔導書の作成で生計を立てていたようだ)守りたい人がいる今、それは出来ないと本当に苦渋の決断だったようだ。


 かくして、ビル氏による兵器ゴーレムが開発される、結果は資金が潤沢であった事、ビル氏と同レベルの研究員がいたこと、なによりビル氏という開発者本人がいたことにより大成功、その体は並大抵の攻撃は弾き魔法だろうとびくともしない

 攻撃性能は巨体であるため鈍重で従来の武器を持つことが出来ないという欠点こそあるが、ゴーレム用のメイスやフレイルを作製、所持させれば、人は簡単に羽虫のように蹴散らせてしまうだろうとの事。


 そのゴーレムが戦場に投入され国は全戦全勝、周りの国から怖れられ、大きく盤図を広げることに至った、これにより、ビル氏は更に一躍有名に一人殺せば殺人、100人殺せば英雄とはよく言ったものだ。


 だが、ビル氏は日記にこう綴っていた

自分は人を殺す『道具』ではなく人を守る『相棒』そして心通わせれる『友達』

が欲しかった、作りたかった、あんなのは俺のゴーレムなんかじゃないと

 そんな折、奥さんに日々やつれていく姿を見るのは絶えない、国を出て行かないかと言われる、二人でなら今の身分も地位も何もいりませんと説得されたようだ。

つくづく自分は良き嫁を貰ったとそして国を出ていく事にしたと3冊目は終わる。


 そして4冊目この村に居を構えるようになったところからだ。

自然豊かな村でビル氏は魔法使いとしてゴーレム使いとして。妻と穏やかに暮らしていると始まる、そして所謂おめでたについても書かれていた。

 村の人に個人的に作ったゴーレムを貸し与え、農業、道具の運搬や肉体労働を肩代わりする使い方をしていた、村には老人も多く日々感謝されていたとの事。

子供たちもゴーレムをまるで友達か何かの様に接していたとの事。


 ゴーレムはあれから改良に改良を加え小型化に成功、しかも防御性能も兵器ゴーレムと損傷のない物だとか、おそらくあの絵画に描かれているのがそれだろう。 

 森へ虫捕りをするなども趣味にしていたらしく日記にはあの虫を捕まえたやどこそこにはあの虫がいたなどあった、妻にはまるで子供の様だと笑われてたようだ、実際子供に交じって虫捕りをしていたという記述も見つかった、ビル氏はこの村にきて初めて『友達』と言える存在が出来たのではなかろうか。そして4冊目はそんな穏やかな日々が綴られて終わる


 ようやく最後の一冊だ、日が暮れ既に夜、ガスランタンを頼りに読み続ける。

最初は穏やかなものだった、自分の子供がすくすくと成長していく様が綴られていた。そして、ある日の事ゴーレムにクレヨンで顔を書かれた等あった、あの落書きのような顔の絵は子供の者だったのか通りでへたっぴな顔だったわけで、しかもそれを魔法で固定化させたとか、魔法の無駄遣いじゃありませんかね?ビル氏

 しかし、そうした日々もおそらくだが、そろそろ終わる、このゲームの世界設定的に。その予感は的中し、次のページには大地震が起きた事が綴られている。 

 村の数件のみは強化魔法をかけて無事に済んだが、無事じゃないのもあり、大怪我を負ってしまった者も多数、死者さえも出たとか。


 ビル氏は奥さんと子供をすぐに実家へと魔法で送り届けることにした。

自身はあの村に残ると言い張った、あの村には自分とゴーレムが必要だと。

奥さんも残るといいだしたようだが、村の今の状況と子供がいる事などで諭し実家にいたほうが、きっと安全であるだろうと説得する。


 そして何とか実家に帰ってもらう事を了承してもらい魔法で転送し、自身は村の立て直しを行うことに。しかしそれは上手くいかなかった、魔物の大発生により村にも魔物が襲い掛かってきたようだ。ビル氏とゴーレムは魔物の対応に追われ、思うとおりに村の立て直しは進まない、やがて、食糧不足、病気の蔓延、諍いによる衝突。そうして村の人はどんどん少なくなっていってしまう。


 ビル氏は最後まで頑張ったが、最後には村は魔物により滅んでしまう。

国に戻れば、更にひどく、魔物とゴーレムの戦いで国中が戦場になっていた。

 奥さんと子供は見つかるも肉親と共に墓の下。残されたのは自分とゴーレムのみ、自分だけ生き残って何になるのだと、染みがついたページには綴られていた、その後も独り残された村で静かに余生を送り続け、老人になるころ自らの死を悟り、最後は愛するものの横で死ぬとするかと締めくくられていた。


 愛するものの隣………おそらくは滅んでしまった国にいったのだろうな。

5冊目はこれで終わり、ビル・カーターの人生に僕はただただ黙祷する。

人々の為に自らをも犠牲にしてきたこの偉大なる魔法使いが安らかに眠ることを

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