黄昏庭園で待ち合わせ🐾

月野璃子

🐾第1話🐾

「バイバイ、美夜(みや)。また明日‼︎」

「うんっ‼︎ 明日ね」


 公園の前で瑞稀と別れ家に向かう。

 今日の学校帰りも黄昏の中。温かい光に包まれる心地いいひと時。

 今日の晩御飯はなんだろう?

 テスト勉強もがんばってるんだし、ご馳走いっぱい食べたいな。

 ご馳走かぁ……ステーキやローストビーフ。新鮮なお刺身も美味しいし、お寿司もいいな‼︎

 まぁ、私にとっての1番のご馳走は、お母さんの手作りハンバーグなんだけど。


 帰ったら裕太(ゆうた)に絵本を読んであげよう。幼稚園児の裕太は甘えん坊。いっぱい可愛がってあげなくちゃ‼︎


「ニャオン」


 鳴き声を上げて三毛猫が通り過ぎていく。

 野良さんかな?

 食べるもの探してるの?


 学校の行き帰りに思うのは、この町に住む猫ちゃんの多さ。

 通り過ぎる家から聞こえる鳴き声や歩く道で見かける野良さん。

 三毛猫のうしろ姿が見えなくなって、黄昏の中私ひとりだけ。


「ご主人様」


 何処からか聞こえた声。

 鈴のような透明感と可愛らしい響き。近くに小さい子がいるのかな?

 あたりを見回したけど誰もいない。


「ご主人様、ここだニャ」


 足元から声がする。

『ニャ』って猫じゃないんだから……あれれ、猫ちゃん⁉︎


 私の足元にいる小さな黒猫。

 アメジストのような紫色の目が私を見上げている。

 今の聞き間違いかな?

 猫ちゃんが喋るはずはないし、私耳掃除したのいつだっけ?


「ご主人様、黄昏庭園へようこそ」

「黄昏庭園?」


 猫ちゃんが喋りっこない。喋りっこないのに、知らないはずの響きが引っかかる。


 黄昏庭園。


 初めて聞く名前。

 それなのに、知ってる気がするのはどうしてだろう?


「ボクは毎日、ご主人様を見ていたニャ。他の猫を見てて気づかないなんて……駄目駄目なご主人様だニャア」


 猫ちゃんが話すなんてありえない。

 だけどもっとありえないのは、子猫から駄目駄目なんて言われること。

 可愛い子猫に言えないじゃない。駄目猫だなんて。


 あたりを見回した。

 そもそも猫ちゃんが喋るはずはないし、誰かが何処かで喋ってるんじゃない?

 隠れていたずらだなんてそっちのほうが駄目駄目よ‼︎


「誰? 何処にいるの⁉︎」


 私の大声に猫ちゃんが首を傾げる。

 アメジストの目が、パチパチとまばたきを繰り返した。


「ご主人様? 誰に喋ってるんだニャ」

「ふざけてないで出てきなさいよっ。猫ちゃんの真似だなんて」

「誰が誰の真似をしてるんだニャ?」

「だから黒猫ちゃんのっ」

「あはははっ‼︎ 面白いご主人様だニャッ」


 猫ちゃんはひっくり返るように寝転んだ。

 体をよじらせ、腹を抱えて笑うような仕草。もしかして……ほんとに笑ってるのかな?

 まさか……そんなことが。


「猫ちゃんが喋るなんて……嘘よ」

「嘘? ……人間は、常識にとらわれすぎてるニャ」


 寝転んだまま、猫ちゃんは語る。


「ご主人様は知らないのかニャ? 地球にはいくつもの魔法がかかってるんだニャ。ボクが話せることも魔法だニャ」


 可愛い猫ちゃんに魔法って言われても。


「ボクはどんな願いも叶えることが出来るんだニャ」

「願い?」

「そうだニャ。さぁ、ご主人様。ご主人様が叶えたい願いはなんだニャ?」


 そんなこと言われたって。


 黄昏の中、私は不思議な夢を見てる。優しい光が可愛らしい夢を呼んだのかな。


「なんだニャ? ご主人様」


 裕太の願いは恐竜に会うこと。

 好きな恐竜はティラノサウルスと、トリケラトプス。


「猫ちゃんサイズの恐竜。……ティラノサウルスとトリケラトプス」


 思いのまま言ってみた。


「……あれ?」


 現れたものに心がトクンッと跳ねた。


 恐竜が現れた。

 ティラノサウルスとトリケラトプス。

 ティラノサウルスはトリケラトプスを襲おうとしてるのに、猫ちゃんサイズだからなんだか可愛らしい。


「……何これ」


「何って、ご主人様の願いだニャ?」


 猫ちゃんはのんきに大あくび。

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