第32話 ワイゼル料理(1)
by Sakura-shougen
サムエルの車が走り出して、来た道を戻り始めた。
インターチェンジでハイウェイに乗るためである。
「 あの男達がやっていた事って何?」
「 シンディが知っておく必要はないんだけれど、・・。
客が来ると必ず盗聴と盗撮をしているし、その映像をマニアのサイトに流して
いるんだ。
他に客がいない時には、ああして仲間と一緒になって部屋に押し入り、お楽し
み中のカップルを脅し上げ、金を取ったり、女を輪姦したりしている。
被害者はその様子をカメラに撮影されて、警察に言えばネットに公表すると言
われ、おとなしく泣き寝入りするしかない。
今までに10数人の被害があったようだ。」
「 まぁ、酷い。
警察は手を出さないの?」
「 警察も馬鹿じゃないから薄々は感づいているけれど、被害者からの申し出がな
ければこの手の事件の捜査は難しい。
地元の住民は、噂で知っているから、あのモーテルには近寄らない。
来るのは旅行客か、遠く離れた町からやって来る不倫客がいるぐらいだ。」
「 サム、そんなことを知っていて、あのモーテルに入ったの?」
「 おいおい、言いだしたのは君だよ。
それにそういう悪いことをしているとわかったのは鍵を貰う時にあの管理人の
意識を探ったからだ。」
「 それにしたって・・。
その時言ってくれれば、別のところに移動できたのに。」
「 まともなホテルならともかく、こうしたモーテルは犯罪の温床だからね。
シンディにはできるだけ近寄らないことをお勧めするよ。」
車は、ハイウェイに入り、東へ向かう25号線に乗った。
時刻は正午を僅かに過ぎた時間である。
「 シンディは、お昼に何か食べたいものはあるかい?」
「 うーん、何でもいいけれど、できればファーストフードじゃなくって、ちゃん
とした料理が食べたいな。」
「 ちゃんとした料理か・・・。
じゃ、この先のクラモス郊外にお洒落なワイゼル料理のレストランが有るよう
だけれど行ってみるかい。」
「 ワイゼル料理?
そう言えば暫く食べていないわ。
うん、其処にしましょう。」
「 わかった。
まだ1時間弱掛かるけれど、お腹の方は大丈夫かい。」
「 ええ、大して動いたわけじゃないし、まだ大丈夫よ。」
車の外は相変わらず曇りであるが、雨は降っていない。
「 サム、私が貴方の能力を信じたとして、その後、何かがあるの?」
「 ああ、そうだね。
君にも潜在的に超能力があるから、できればそれを開花させたいと思ってい
る。」
「 あら、別にそんなものなくたって困らないじゃない。」
「 そうだね。普通の人には無くても困らない。
でも、僕の妻になる可能性のある人なら、しっかりと使えるようになっていて
欲しいと思う。
逆に言えば、僕が結婚するとしたら、その女性は超能力を使える人じゃなけれ
ば困るんだ。」
急に現実的な結婚の話が飛び出して来て、シンディは慌てた。
「 でも、どうして?
貴方の妻になる女性が超能力者でなければならないなんて・・・。
一体誰が決めたの?」
「 誰も、・・・。
法律や掟にしても何も無いよ。
第一、 他人がそんなことを決められるわけがない。
僕がそうしなければならないと思っているんだ。
僕が探偵と言う仕事を続ける以上、結婚しても妻子を置いて外に出かけなけれ
ばならない。
その時家庭を守るのは妻しかいないはずだろう。
残念ながら、こう言う仕事をしていれば、知らず知らずに他人の恨みを買うこ
とになる。
そうしてその恨みを持つ人物は往々にして世間から悪者として知られている者
になるだろう。
逆恨みでも何でも、襲ってくるなら守らねばならない。
その守る力の無い女性を妻にすれば、僕は、妻か子供かいずれかを不幸にして
しまうだろう。
だから、シンディ、君にはその力を持っていて欲しいと思っている。」
「 じゃぁ、私がその力を持っていなければ、候補からは落ちるの?」
「 その通りではあるんだが、君は超能力を持っているので少なくとも候補から外
れることはないよ。
どの程度の力を持っているかは今の段階ではわからないけれどね。」
「 だって、そんなこと・・・・
どうしてわかるの?
サムが私の意識を読めないって言っても、単に一時的なものかもしれないじゃ
ない。」
「 面白いことを言うね。
特定の人物に対する一時的な能力欠陥か。
ふーん、そんなことが有り得るのかどうかいろいろ調べるのも面白いかも。
まぁ、それはともかく、シンディ。
君の身体の周囲には非情に淡い光のようなものがまとわりついて居るんだけれ
ど知っているかい?」
「 いいえ、何の話かわからない。」
「 うーん、何と言えば良いか・・・。
生きている物には、その生命力の存在を示す霊気のようなものがその周りに発
散されているんだ。
それをオーラというんだけれど。
オーラは身体のバロメーターにもなる。
病気になると概ね暗い色になるし、場合によって病巣がオーラによってわかる
場合もある。
それに人の感情にも左右されるね。
喜怒哀楽それぞれ同じ人物のオーラでありながら異なる色合いを見せるんだ。
そうしてもう一つ、決定的な違いはその人物が持つ能力の高さによるオーラの
大きさだ。
概ね傑出した人物のオーラは大きいのだけれど、超能力を持つ人のオーラは非
常に大きく明るい。
だから、シンディが仮に百万の民衆の中に居ても僕にはシンディの位置がすぐ
にわかる。
暗闇の中の灯台のように明るいからね。
間違えようが無いんだ。」
「 それって、最初から知っていたの?」
「 うん、前からキレインの市内にいることは知っていたけれど、誰なのかは知ら
なかった。
ゴアラの会社で初めて逢った時に君だと知った。」
「 じゃぁ、その時から関心を持っていた?」
「 凄い美人だなとは思っていたよ。
それにオーラの色合いも綺麗だったしね。」
サムエルから『凄い美人』という評価を得た所為で、シンディはとても嬉しくなって、自然に笑みが出てしまった。を
「 ありがとう。
でも、何で、その時に粉掛けしなかったの?」
「 ウン?
粉掛けってなぁに?」
「 あれ、男の子は言わないのかなぁ。
女の子をデートに誘ったりして、関心を惹くことを粉掛けって言うの。」
「 それはできないよ。
あのときはあくまで仕事で行っていたんだから、公私は混同しちゃいけないだ
ろう。」
「 それって、随分、固いわねぇ。
そんなことしていたら捕まえられるものも逃げちゃうんじゃない?」
「 犬猫の発情期じゃないんだから、落ち着いていていいのじゃない。
結ばれるものなら、どんなことがあっても結ばれる。
逆に縁が無ければどんなことをしても結ばれない。
僕は運命論者ではないけれど、少なくとも男女の間にはそんなことがあるんだ
ろうと思っているよ。」
車はハイウェイを降りて田舎道に入って行った。
小高い丘の上に、瀟洒な白い建物があった。
確かに写真で見るようなワイゼル風の粋な建物である。
お店の名前はクランマガン、サムエル曰くワイゼルの有名な山の名前だそうだ。
受付には褐色肌で目のくりっとした若い女性がいた。
おそらくは20代後半であろう。
「 あの、予約をしていないですけれど、二人分の食事をお願いできますか?」
「 料理をお出しするのに少々時間がかかりますけれど、それでも宜しいでしょう
か?」
受付の女性の話す言葉には少し訛りがあった。
或いはワイゼルの生まれかもしれない。
「 はい、構いません。
僕達、キレインから来たんです。」
「 えっ、キレインからですか?
それは、また、随分と遠いところからありがとうございます。
シェフもきっと喜ぶと思います。
では、どうぞ、こちらへ。」
女性は店内を案内して、席へ案内してくれた。
店内は8割方席が埋まっているが、昼食の時間は終わり掛けであり、もうデザートに掛かっている組もいる。
半数が若いカップルであるが、残り半数は年配の方が多いようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます