第18話 保険金殺人事件の顛末
by Sakura-shougen
事情聴取等が終わり、サムエルとシンディが、キレインに戻ったのは、それから3日後のことである。
サムエル達が車でキレインへの帰路に着いている間に、白骨遺体の身元は、歯型とDNAから失踪中のヘレンとマリーと断定された。
また、その間に、国家警察は運河の監視カメラに映った不審人物の割り出しに成功していた。
キレイン市内に住む、ローランド・スミスという無職の男であるが、金周りはよく、遊び歩いていることが確認されている。
男は陸軍の特殊部隊にいた事があり、調べてみるとカーマイケルと同じハイスクールの同級生であることが判った。
しかも、ローランドは、車内で発見された毛髪と同じサルディスβ型の血液であることもわかった。
複数の銃器を所持していることが判っており、その内の一つは犯行に用いられた38口径の銃であることが判っている。
国家警察は、この時点でローランドを逮捕するかどうか迷っていた様だが、結局はローランドに今のところ逃亡を企てている様子が無いことからウル湖のクルーザーの引き上げ結果を見て判断することにしたようである。
但し、ローランドが海外旅行にでも出かけるようなことがあれば、空港で直ちに身柄を拘束するように手配だけはしてあるのである。
その上で、クルーザーの引き揚げ作業自体は、犯罪の可能性がある以上、国家警察の予算で行うとして、サムエルが支払った五万レムルは業者を通じて返還してきたのである。
この時点で、サムエルの手から事件は完全に国家警察の手に移っていたと言ってよいだろう。
サムエル達がキレインに戻って3週間後、湖底に沈められていたクルーザーが三年ぶりに浮上した。
そうして、船内には都合4体の遺体が残されていた。
いずれも射殺されていたのだが、白蝋化した遺体は、死後直後の状態を保っていた。
ウル湖は湖底に周辺の雪解け水が沈降するため、湖水温度は夏場でも湖底で0度近くになるのである。
このため、遺体は腐敗せず死蝋化したまま船内に留まっていたのである。
解剖の結果、ヘレンの白骨遺体のそばに有った銃弾と同じものが発見され、弾道検査により、同じ銃から発射されたものと特定された。
その上で、遊興先でローランドの毛髪を極秘裏に入手し、このDNA検査を実施したところ、完全に一致したことから、ローランドを逮捕した。
一方、アパートと複数の立ち回り先を捜索した結果、問題の銃器が通っていたスポーツジムのロッカーから出て来たのである。
ローランドは、銃弾が発見されない限り、拳銃は隠す必要が無いと思っていたらしい。
国家警察の徹底した情報官制により、全ては一切の報道発表なしに進められたのである。
ローランドが逮捕されて二日目、ローランドはカーマイケルから依頼されて三件の殺人を実行したことを自白した。
この自白を受けて、カーマイケルは自宅で逮捕されたのである。
結婚式まで後5日という時点であった。
この逮捕劇は、鳴り物入りでマスコミに全面公開された。
以前からこの事件を追い掛けていたマスコミはこぞってこの事件を報道した。
どのDVもネットニュースも暫くはこの話題一色で染まっていたのである。
カーマイケルは、逮捕されて3日後には自供を始めた。
カーマイケルが最初に殺人を依頼した際、ローランドは自衛のためにその会話を録音し、その音声データを銀行の貸金庫に保管していたのが決め手となっていた。
実のところ、そのほかの物証も、かなりの量がその貸金庫にあったのである。
ローランドがカーマイケルから受け取った現金にはカーマイケルの指紋が残っていたし、カーマイケルからの手紙やeメールもご丁寧に残されていたのである。
カーマイケルは送金によりローランドとのかかわり合いが白日の元に晒されることを恐れ、ローランドには現金を手渡していたのである。
カーマイケルの賭博好きは有名であり、かなりの金額を賭博に費やしていたから、現金を幾ら降ろそうと周囲の目には奇異には映らなかった。
彼は小切手を使って、賭博場のチップに交換し、一部は確かに賭博で使ったが、一部を現金に換金して隠し持っており、それをローランドに秘密の場所で手渡していたのである。
二人が直接会うことはない。
共に同じスポーツジムに通っており、曜日を変えて共通のロッカーを使っていた。
但し、カーマイケルのロッカーと、ローランドのロッカーはそれぞれ別なものを使っている。
共通のロッカーの鍵を互いのロッカーに入れて金の受け渡しや詳細な情報交換などを行っていたのである。
但し、最初の依頼だけは口頭で直接面談して行っており、これがローランドの録音に残っていたのである。
如何に有能な弁護士がついてもカーマイケルの有罪を覆すことは難しかった。
一カ月後、カーマイケルとローランドは懲役990年というこれまでの最長記録を塗り替える判決を受けた。
カーマイケルの資産は、全て没収され、三人の妻達の遺族に配分された。
ローラとシェリーの遺産分として資産の80%が残っており、等分に遺族に配分された。
一方、ヘレンの遺産は裁判所預かりとなっていたが、生活費の一部として僅かながらカーマイケルに配分されていたため、目減りしていた。
それでも95%以上が遺族の手元に戻っていた。
支払われた保険金については、保険会社の裁量で半額が、遺族の手に入った。
一方、ヘレンの保険金については未だ支払われていなかったのであるが、保険会社は遺族に見舞金としてカーマイケルの掛け金を贈与する粋な措置を取ったことも話題になった。
シュレイダー探偵事務所は宣伝などしていないし、一連の事件でも報道に直接名が乗ることはなかったが、一連の難事件を解決した名探偵として、口込みで評判が高まり、依頼は引きも切らない状態である。
例によってサムエルは依頼内容によっては調査依頼を断るなど、仕事を選んで運営しているが、それでも連日遅くまで仕事をすることが多くなった。
「 ねぇ、サム、商売繁盛が良いのか悪いのかわからないけれど、一人でも二人で
も雇わないといずれ二人ともパンクしちゃうわよ。」
シンディが事務所に雇われてから二カ月が過ぎた頃、シンディがそう切り出した。
最近は、シンディも所長と言わずにサムとニックネームで呼ぶようになっているのである。
シンディは、週末にはきちんと休みを取っているが、サムエルは休みの日にも時々事務所に出てきている節がある。
先日は、とうとう事務所に泊まり込んでいたようで、シンディが朝出勤すると無精ひげで前日のネクタイのままの姿で事務所にいるサムエルを見かけたのである。
いくら健康に自信があってもこれでは身体に言い訳が無い。
未だにキスもしていない間柄だが、シンディは自分があれこれと注文をつけないとサムエルの仕事人間振りは止みそうにないと思っていた。
最初の頃はともかく、ここ三週間ほどはサムエルをデートにも誘えない状況である。
そこで古女房宜しく、サムエルに職員を増やすように強く言ったのである。
「 うーん、そうだねぇ。
こう仕事が多くなるとやれることもやれなくなる。
ゴアラ社の方も、たまに相談が来るし・・・。
仕方が無いな。三人ほど雇おうか。
この事務所のスペースでは、遮音室の奥にある書庫を使ったところで5人か6
人で精一杯だろう。
シンディに誰か心当たりはあるかい?」
「 心当たり?
うーん、急に言われても・・・。
あ、でも、大学の後輩に一人面白い子がいる。
自分一人で学内の探偵研究会を作った子。
推理小説が大好きでね。
大学の成績は余り芳しくないみたいだけれど、頭はいい子よ。
愛嬌もあるしね。
確か就職活動で苦戦しているってメールが入っていたけれど、もし、まだ就職
が決まっていなかったら話をしてみるけれど、・・・。
女性でもいいの?」
「 あぁ、構わないよ。
事務の仕事も多いし、女性でなければできない仕事もある。
シンディ一人じゃ、心配な場合もあるしね。
給料は余りだせないけれどね。」
「 サムの余り出せないと言うのは当てにならないわね。
私は確か月々手取りで2250レムルぐらいって話だったけれど、今月のお給料
は手取りで3500レムルを超えていたわ。
私の年齢でそんなにお給料を貰えるところって一流企業でも無いわよ。」
「 あぁ、ここのところ残業が多いからなぁ。
それだけで1000レムルぐらいは楽に超えているだろう。」
「 そうかしらね。
でも働いた分、貰えるなら文句は言いません。
貰い過ぎているんじゃないかと逆に心配するくらいなんだから。」
「 仮にその子を勧誘するにしても、君と同じ条件だと言うことをきちんと伝えて
くれよ。
たまたま残業が多い3500レムルなんて額は間違っても言わないようにね。
それと、大学の後輩と言うと、ひょっとして、まだ在学中じゃないのかい?」
「 ええ、大学4年よ。
でも一応の単位はほとんど取り終わって、後は経済学の単位が少し残っている
だけって聞いているわ。
だから、ほとんど卒業の目途は付いている筈よ。」
「 なるほど、では、その子に伝えて欲しい。
正式に雇うとしたら、きちんと大学を卒業することが条件ってね。
例え一単位でも落とせば卒業はできない。
多分残り半年ぐらいの時間は有るのだろうけれど、ちゃんと単位が取れて、卒
業見込みが付いたら当座はアルバイトで雇って上げるってね。
アルバイト料は、そう・・・。
日給で80レムルだね。
1日7時間未満の就業時間で、週に最大でも40時間を超えないこと。
通勤手当は出すけれど、社会保険は無理だなぁ。
その代わり、保険会社に交渉して医療保険費用は事務所持ちにしよう。
卒業証書を貰ったら正式採用にするよ。」
「 わかった。
じゃぁ、メールで連絡を取って見るわ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます