第16話 ウル湖の調査
by Sakura-shougen
翌日は、比較的大型のモーターボートを借りて、ウル湖の中央付近までクルージングである。
サムエルは、キレインを出る際に貸倉庫に立ち寄り、一抱えもある大きな箱をランクルに搭載していたのだが、それをモーターボートに移し替え、何やら船尾から浮きの付いたロープ状の物を曳航して航走した。
運転席の前面にノートパソコンを置いているのだが、それには湖底の様子が模様のようなグラフィックで映し出されている。
湖の中央付近を低速で何度も行ったり来たりしながら数時間、昼食はボートの上で用意していた弁当を食べる羽目になった。
午後3時ぐらいになって漸く、サムエルは目当ての物を探し当てたようである。
画面ではでこぼこしているだけでよくわからないのだが、サムエルが幾つかのキーを叩くと、色付きで船のような形状が明瞭に浮かび上がった。
「 どうやら、見つけたようだ。形状と大きさから言って、消息不明になったクル
ーザーに間違いない。
シンディ、現在位置が緯度経度で表示されているから、それをプリントアウト
してくれるかな。」
モーターボートにはカーナビと同じような装置があり、自船の位置が画面上に表示されている。
その表示画面の右隅に、緯度経度で位置が表示されているのだ。
シンディが「印刷」のボタンを押すだけで、小さなロール紙に位置座標が印字された。
サムエルは、なおも念のためにシンディが持参しているメモ帳にその位置を記録させた。
そうして船尾に曳航していた浮き付のケーブルを船内に収容して、帰途に付いたのである。
その日は、ホテルにもう一泊した。
翌日は、ウル湖と隣接するハブアル湖と連絡する運河の管理事務所に出向き、当日運河を出入した船を調べたのである。
運河は狭く大型船は通行できないが、小型貨物船ならば通行できる。
シンディはサムエルの指示で事件の当日と翌日の間に絞って、一旦ウル湖に入り、再度出て行った船を調べた。
二日の間に出入りした船は4隻、その内2隻は小型貨物船、1隻はタグボート、もう一隻がモーターボートであった。
ここでは通行料を聴取するために船名と通過時刻が記録されている。
なおかつ、防犯カメラで撮影も行われていた。
渋る管理事務所職員に100レムルのチップを渡して、このモーターボートの画像を探してもらったのである。
30分ほどかけて、職員は記録を探し当てた。
サムエルはその記録を借り受け、ホテルでシンディと共に画像分析を行った。
モーターボートに乗っていたのは一人の男だけである。
余り鮮明ではないものの、男の顔が何とか判別できる映像を探し当てた。
「 この男がカーマイケル?」
「 いや違うよ。
カーマイケルには当時完璧なアリバイがある。
多分こいつは殺しを請け負った男だろう。
体型から見るとかなり体力がある男だね。
動きから察するに相当に訓練されている。
あるいは軍人あがりかもしれない。
画像を電子ファイルにしておくよ。
後で必要になるかもしれない。」
ウル湖での調査は一応終えた。
本当は男のその後の行方を探ってもいいのだが、3年前のことを覚えている人は先ず居ないだろう。
まして、男がやってきたと思われるハブアル湖はウル湖の5倍ほども湖水面積があり、沿岸部をしらみつぶしに調査するとなれば何日かかるかわからないのである。
モーターボートもハブアル湖から持ってきたとは限らない。
ハブアル湖からは他の三つの湖と直接水路でつながっており、こちらには関門は無いので、仮に他の湖からやって来ているならばその動きを掴むことも難しいだろう。
モーターボートには免許も不要であるから、貸しボートなども偽名で貸出されれば追跡は不可能である。
少なくとも他に方法が無い限り、少人数の探偵がモーターボートを手掛かりに捜索するのは効率が悪すぎるのである。
翌日、サムエルとシンディは、ウル湖周辺では一番大きな港町、スランドルに向かった。
ここには、造船所があるのだが、そこの造船所と、更に専門の水上工事業者を訪れた。
サムエルは、120セミロンの深度がある湖底からクルーザーの引き上げを造船所と水上工事業者に依頼したのである。
経費は最低でもおよそ10万レムル掛かると言われたが、その3倍まで支払う用意があるので、やって欲しいと依頼した。
120リムの深度では通常のアクアラングによる潜水作業はできない。
飽和潜水と言う特殊な技法で潜水作業を行うのである。
その準備に4日、すんなり行っても引き揚げ作業に二日は掛かるだろうと業者は答えた。
但し、今はダイバーが別の作業に掛かっているので実際に作業にかかれるのは早くて2週間後になるだろうとも言われた。
従って、結果が判明するのは速くても3週間後になる。
サムエルは手付金として5万レムルを小切手で支払った。
残りの支払いは作業終了後になる。
サムエルはくれぐれも内密に作業を進めるようお願いした。
現地の警察に作業届けを出すのは止むを得ないし、サムエルの名前を明かしても構わないが、少なくともマスコミに知られないよう注意をして欲しいと念押しした。
それらの手配りをしてから二人はウル湖を後にした。
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