某棒の怠慢

 今のところうちは俺個人の技量によるところが大きい。

 そもそも、俺しか知らない食べ物を売りにしてやっているのでそれはそうなのだが、恐らく俺がヘスティアさんの世界に戻ってからの方が長いのに、新商品も無しでは俺がまたここに来る際にこの会社が残っているかどうかは怪しいだろう。


 それをどうにか俺がこっちに来ても残っているくらいにはしたい。

 ここまで引き受けてきた孤児たちを放り出すのも無責任だし、アン・ドゥ・トロワ達には家を守ってもらわなきゃならないからな。

 主人に仕えることが喜びのメイドたちこいつらに留守番を任せるんだから、こいつらが多少贅沢をしても余裕で生きられるような収入源は確保しておくべきだろう。


「まずは、宅配サービスを確立させよう」


 思い付きだが、かなり的を射ていると考えている。

 結局、外に出ずにダラダラしていたい日だって誰にでもあるのだ。


「宅配要員の選抜はお前らに一任する」

「「「かしこまりました」」」

「街の治安の方はどうだ?」

「かなり良くなった方だと思うよー。基本的にはルールがないから好き勝手してる人が多いだけだからねー」


 リオンは魔王になる過程として、今はこの街の統治を任されている。

 そんなところまで法が整備されているのかと呆れてしまうほどの日本に比べ、魔界では至極真っ当なことですら法に明記されていなかった。

 孤児院に対する過剰な干渉などもそれにあたる。

 普通に考えて、孤児院の女の子を誘拐して手を出そうとした挙句、その子を人質として土地をせしめようとしたなんて誰がどう考えてもアウトだろう。


「なら、子供たちに頼んでも大丈夫かな。一応、初めの方は見張りをつけてもいいだろうから、頼むぞ」


 宅配サービスは「届ける」という一過程が加わっただけで、人員も余剰人員を用いれば問題はない。

 配送料として多少値段はあげるにしろ、徒歩での配送になるので交通費はかからない。

 競合会社もいないから一定期間は値段を変動させて様子を見れるだろうからな。

 そのあたりも柔軟にいこう。


「で、俺は多少時間かけて色々と思い出そうと思う。ある程度レシピと言えるような形にはするから、試作は頼む」


 無駄に貯めた知識から料理に関する事項を思い出して、新商品になり得るものを作っておこう。

 ただ、出せるレベルになったらすぐに出すのではなく、俺がいなくなった後でも段階的に新商品を展開できるようにしておくという話だ。

 だから、万が一にも外部に漏れるようなことがあってはならない。


「レシピは、お前ら3人にだけ伝える。試作部屋も近々用意するから、そこを利用してやってみてくれ」


 今のところ、考えられるのはこのくらいか?



「で、お前は何をしてる」

「!? 痛い痛いっ! やめるのじゃ! 謝るからやめるのじゃー!」


 ぐうたらしていた某杖オーシリアの頬をつねってストレス発散。

 なんだこいつは所有物の癖にここまで偉そうなのか。

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