164日目 朴念仁

「ここなど良いのではないか?」


 アミラが指し示すのは大通りから1本中に入った通り。


「大通りの喧騒には巻き込まれず、しかし観光には近いだろう。それに、出来たのが比較的最近だからな。変なしがらみもあるまい」


 古くからあるものというのは旅館などに関わらず、伝統を重んじるものである。

 それが全て悪い方向に転ぶという事はないが、覇権争いなどがあるらしい。

 新興勢力であるこの旅館はまだそういったことに関係はないようだ。


「設備はどうです?」

「十分満足できると思う。それこそ、このくらいの場所に建てるにはそれなりの資本力がいるからな。できたものもかなりの完成度だったはずだ」


「そういえばなんですけど、プリンセちゃんが言ってたのって」

「……アミラさんのことだね」

「なぜ、アミラさんに聞こうと?」


 チラッとアミラを見てプリンセが言う。


「前にキラさんと一緒に行こうと画策……」

「わああぁぁ!! なんで知ってるんだ!?」


 いつも冷静沈着、ともすれば冷たいイメージを抱かれそうなアミラが顔を真っ赤にしてプリンセの口を塞ぐ。

 でも、それ、口滑らせてません?


「『なんで知ってるんだ』ということは……」


 キラさんと一緒に旅館とか、かなり勇者ですね。


「ちなみに、誘いはしたんですか?」

「……できるわけがないだろう」


 真っ赤なまま俯くアミラ。


「確かに、キラさんに言っても何にもならない説はありそうですけどね」


 リブレさんとは違った意味での朴念仁です。

 どちらかと言えば、朴念仁としてはキラさんの方が凄いかもですね。

 ファンクラブもありますし。

 そんなことになっているのに本人は自覚無しですし。


「まぁ、それでも、言ってみることには価値はあるんじゃないですか?」

「し、しかしだな、それで嫌われてしまったり……」

「あー、いやいや。キラさんがそんなことすると思います?」

「いや、思いはしないが……」


 アミラさんは恐らくプラスの方向でキラさんはそんなことしないと捉えているのでしょうが、ちょっと違う気もします。

 慣れていて、樹にもかけないというのが私の予想です。

 逆に言えば、何かアクションを起こすことによってキラさんとの間に何かぎくしゃくするのなら、脈はありなのではないかと考えられるでしょう。


「ま、それは今は置いておきましょう。ハンネさんもここでいいですか?」

「そうさね、あたしは隣の部屋を使わせてもらうよ。どうせ、3人で泊まるんだろう?」

「そのつもりです」


 プリンセちゃんと私は、お互いにリブレさんのお世話を譲るつもりはありませんから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る