120日目 平穏

「かわいい! かわいいですよ、プリンセちゃん!」

「うぅ……」


恥ずかしがっているプリンセちゃんもまたかわいいです!


ギュッ。


スカートのすそを握りしめる。


「……似合わないよ……」

「何を言っているんですか! これ以上ない可愛さです!」

「そうですよ、お客様! 今まで着ていなかったのがもったいなすぎます!」


店員さんの太鼓判も貰っています。

それほどまでにかわいい。

普段もスカートですが、ちょっと長めの落ち着いた感じです。

それを短くしてさらに女の子っぽく。

いつもはちょっとフリルがついたりもしていますが、それをなくして敢えてのシンプルさ。

プリンセちゃん自体の可愛さを前面に押し出す感じです。


「レイン様もお綺麗です!」

「ふふ、ありがとう」


どちらかと言えば庶民的な衣装のプリンセちゃんに対し、私はちょっと貴族よりですかね。

しとやかな令嬢風というか、決して華美ではないフリルと長袖。

シックというらしいですが、よくわかりません。


「じゃあ、お願いしますね」

「はい。じゃあ、いきましょうか、プリンセちゃん」

「うぅ……」


ただでさえ短いスカートを握りしめるのでずり上がってえらいことになっています。


「それは、ダメですよ!」

「だってぇー……」


ヨワヨワなプリンセちゃんも可愛いですが、往来でプリンセちゃんのパンツをお披露目するのはまかり通りません!

紳士の方々の目が怖いですからね!


リブレさんもプリンセちゃんに対する下世話な目は最大級に警戒していましたから。

本人曰く、故郷では幼い子に対するそういう行為は視線だけで捕まったりしていたそうです。

確かに、無垢な子に向けるものではありませんね。


「さ、お買い物を楽しみましょう。リブレさんも折角一緒にいるんですから」


広告効果はすさまじく、レインたちが少し通りを歩いただけでお客さんが店の方へ殺到していった。

決して安い買い物でもないのでためらうところではあるのだが、今回はプリンセの効果が非常にでかかったようで、女の子の家族連れが多かった。

我が子に可愛い恰好をしてもらいたいというのは親の願いなのだろう。


「ほら、プリンセちゃんのおかげでいっぱいお客さんが行ってますよ。リブレさんも可愛いと思いますよね?」

「うぅ……」


ちょっとリブレの方を見てから落ち着くプリンセ。


「でも、こんなのじゃ、戦えないよ……」

「戦うのを前提にしちゃだめですよ! 私だってこの恰好では戦えませんよ」


ひらひらして動きづらいことこの上ないです。

そもそも、車いすのリブレさんがいるんですから、相当に難儀な戦いになるはずですからね。


「ただ、今はそんなこと考えなくていいんですから」


平穏とは、なんとも素晴らしい。

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