104日目 決別
「やっと、終わりましたかね」
レインはこれまで延々と続いてきた他のエルフとの戦いに終止符が打たれたことを実感する。
これまでどれだけ追い返されても頭悪くも再度挑みかかってきていたエルフだが、今回は流石に懲りるだろうということである。
なにせ、働くことが可能な成人男性の約半数が失われたのだ。
恨みつらみ、復讐などが頭をよぎらないことはないだろうが、それよりもレインに対する恐怖が植え付けられたことだろう。
「……よく、頑張ったね」
「べ、別に、わたしはなにも……」
プリンセがベッドに座っていたレインの頭を抱え込む。
「……だいじょうぶ、だれも、いないよ」
「うぅ……。くっ、うぅ……!」
声を押し殺すようにして泣き始めるレイン。
今回のことは、レインとエルフの決定的な決別を意味する。
以前は一方的に排除されていたが、それはレインにとっては既に過去のことである。
しかし、一度エルフの下に戻った時に同じ種族同士でのつながりというものを感じてしまっていたのだ。
遅かれ早かれ決別はするしかなかったのかもしれないが、リブレ含め、周りの人はレインがいつでもエルフの下に戻ることが出来るようにとレイン本人をエルフが嫌う事のないようにしていたのだ。
言葉にはしていなくとも、レインは賢い。
途中からは気付いていたのだ。
あまりにもリブレが嫌われすぎているという事があったので、妥当かもしれないが。
「うぅ……」
「……落ち着いた?」
「少しですが……」
「……、じゃあ、お風呂でも入って、もっと落ち着こうか」
ワシャワシャワシャワシャ。
「プリンセちゃん、洗うの上手くなりましたね」
「……リブレさんに、一度迷惑をかけてるからね」
力の制御の練習としては人を洗うというのはけっこういい練習になったのだ。
散髪の時に感じたことがあるだろう。
髪を洗う時に「痛くありませんかー?」など聞かれたりすることがあるだろう。
あれは本当にちょうどいい強さだったことはあるだろうか。
リブレの頭皮という尊い犠牲の下、プリンセは力加減の練習として頭を洗い続けてきたのだ。
ちなみに、リブレにかけた迷惑は自己申告通りの一度ではない。
「ふぅ……」
「……気持ちいいねぇ」
2人にとって、あの程度の戦闘は多少疲れる程度で、きついとなったりするものではない。
だが、今回はレインの精神面の慰労を兼ねているので普段よりもゆっくりとした入浴になる。
「……リブレさんに、会いたいですねぇ……」
「……そうだねぇ……」
こういう時にふと想い人が浮かぶ。
頭を撫でて欲しい。
抱きしめて欲しい。
欲を言うなら、キスしたい。
だが、そんなことは些細なことである。
2人に共通するのは、もう一度リブレに笑いかけて欲しい。
その一心である。
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