取引の匂い
「連れてきました。よろしくお願いします」
メガネ領主自らがお抱えのコックたちを連れてまたやってきた。
次は連れてくるのを部下に任せていいと言っておいたはずなんだけどな。
「ほら、こういうのは敬意って言うじゃないですか。僕も興味ありますし」
ハンバーグの製造工程に興味のある領主って一体。
いや、こっちはハンバーグってことは教えてないから微妙だが。
「じゃあ、メイドたち頼むぞ」
「「「かしこまりました」」」
ここまで1週間ほど練習してきているので、メイドたちは流れるような手つきでハンバーグを作っていく。
ただし、ある程度のクオリティのものだが。
こいつらはクオリティの低いハンバーグをいかに完成したもののように見せるかという点を練習していたのである。
贅沢な練習というべきか、不要すぎる練習というべきか。
とにかく、それが実を結び、手加減などしていないかのように見えるため、コックたちも真剣に聞いている。
というか、わざと微妙に作ることに真剣なため、別に手加減はしていないのか。
ややこしいな。
「「ありがとうございました!! 勉強になりました!!」」
「こちらのレシピの考案はご主人様ですから」
「「ありがとうございました!!」
「え? いや、うん。どうだ? 売れそうか?」
「「必ず売ってみせます!!」」
「そ、そうか。頼むわ」
習い終わった後、猛烈な勢いで感謝を口にするコックたち。
向上心があり、自分が知らない料理を知れたというだけでこれだけの感謝を口にする価値があると思っているのだろう。
メガネ領主のとこの部下は出来た奴ばっかだな。
「で、孤児院の方はどうだ?」
「報告では、特にどこも動きは見せていないようです。やっぱり、釘を刺しておいたのが効いたみたいですね」
「……何したんだ?」
「企業秘密です」
うーん。
にこやかな笑顔である。
こういう奴は大抵、ニコニコしながらえぐいことやってる。
どこかキラに似た雰囲気を感じるな。
「絶対ヤバいことしてんな……」
この笑顔に騙されてはいけない。
絶対にダメだ。
「よし、じゃあ、そっちでも話し合って、いい感じに外食産業を広めてくれ」
「任せてください。料理人たちからの評判も上々ですしね。前向きに検討させていただきますよ」
今回は本当にハンバーグだけ習って帰っていった。
ハンバーグを教えるためだけに領主を自分の家まで呼びつける一般人。
うん。
絶対裏取引してるよな。
実際裏とまではいかずとも取引してるけども。
ハンバーグを教えるという響きがかわいいので大目に見てもらえないだろうか。
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