第三者の言葉は格別です

「まず、大前提としてこの世界に外食産業が浸透していない。これをどうにかする必要がある」

「同感です」


こっちには出資金もなにもない。

アイデアだけでどれだけ勝負できるか。


「外食の強みは、自分で作らなくてもよくなり、それでいてクオリティの高い食事が出来ることだ。適当な料理なら家で作った方がいいということになるからな」

「なるほど。手間を省いたうえで美味しいものが食べられるなら文句ないですね」

「だから、外食は便利だという意識を植え付けたい。しかし、それにはうち一店舗だけじゃ足りない」

「その他の部分を、僕たちがやれば、ということですね」


顎に手を当て、少々考えるメガネ領主。


「しかし、僕たちにもノウハウはありません。下手に手を出しても、失敗して損失が出るだけですからね」

「あぁ、無理にとは言わない。だが、よく考えてくれ。今まで誰もやっていないのがおかしいくらい有用なシステムじゃないか?」


特に、主婦層。

今日は作るの面倒だなという日に無理をしなくてもいいというのは精神的にもかなりいいだろう。


ここでもう一押し。


「もし、協力してくれるなら、俺が知ってる料理を一つ提供する。もちろん、この世界にはまだないだろうな」

「なるほど……」


今、領主の頭の中では新たなことに手を出すリスクと、俺の言葉が本当だった時に受けられる利益との天秤が揺れているだろう。

具体的な料理をちゃんと説明すれば、この提案が通る可能性は高くなる。

だが、それは俺が望まない方向である可能性も出てくる。

簡単に言えば、料理の作り方だけ知られて、向こうで勝手にやられるという事だな。


最悪、別にそれでも構わないのだが、俺たちが利益を得られる可能性がある限り、その線は大事にしていきたい。



「よし、わかりました。協力することにしましょう」

「いいのか? 下の奴らと話し合ったりしないで」


領主にっこり。


「僕に意見できる人なんていませんよ?」


おぉ……。

これが強者の余裕というやつか……。


「じゃあ、詳細をつめるか。俺が要求するのは、俺が教える料理に対するその情報の価値の代金だな。その料理の売り上げの1割だな。店自体の利益には手を出さない」


言わば、著作権だな。

俺にこれ以上事業を展開する余裕はないので他の人に任せるのは仕方ないのだが、それでも俺だけがもっていると思われる情報を外に出すのはもったいないことだからな。


「でも、僕には料理の良し悪しなんてわかりませんよ?」

「だから、お前のとこの料理担当を連れてきて欲しい。そいつに見せれば、その料理がないこともわかるし、売れるかどうかの判断もしやすくなるだろう」

「なるほどです。では、後日また伺うことにします」


パタパタとお盆を持ったリオンがキッチンから出てきた。

お茶がのってるな。


「あれー? もう帰るのー?」

「そうですね。他にも用事はありますので……。バンフリオンさんも若奥様のようでよくお似合いですよ」

「えー? そうー? うれしいなぁー」


いや、リオン。

お前それ言われたいがためにお茶汲んできただろ。

いつもしないの知ってるぞ。

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