子供は正直です

「これは……!」


ミニアさんのそばにいつも控えている執事のような初老の男性が声をあげかけ、ミニアさんを見て口をつぐむ。


「いいのですよー。これはわたしも初めて食べましたねー。いえ、正確に言えば、同じようなものは食べたことあるのだけどもねー」

「え、まじ?」


それは寝耳に水だ。

同じようなものがあるのなら、これに話題性がつかなくなってしまうかもしれない。


「夫がお土産と言って持ってきたものに同じようなものがありましたー。確か、味噌ラーメンと言いましたか?」


なるほどな。

ミニアさん限定で食べたことがあったという話か。

それなら問題ないな。


よし。



「はい、こんにちはー! 良かったら食べていきませんかー? 今なら、開店セールでお安くなってますよー! 新しい食事に興味ありませんかー?」

「「「いらっしゃいませー!」」」


遂に出店当日。

ゴロゴロとリオンに屋台を引いてもらいながら声を出してもらい、注目を集める。

その周りでメイドたちがニコニコと笑顔を振りまきながら呼び込みをする。

布陣は完璧である。


この辺りでいいか。


少し離れたところから俺は指示を出し、道の端に屋台を止めてもらう。

注目を浴びるが、なにかわからないということで近くまで寄ってくる人はいない。

そこで、メイドたちがてきぱきと開店準備を始める。


ちなんでおくと、トッピングにはあまり時間をかけなかった。

トッピングにバリエーションを求めるのは、ラーメンがある程度浸透してからまた新しい企画としてした方が良いと判断したからである。

よって、現段階でのっているのはチャーシューと卵とネギのみだ。


「今なら、先着5名様に無料でご賞味いただきたいと思いますー! いかがですかー?」


そしてキャンペーン。

人数を明確にすることを忘れずに。

そこをしっかりしておかないと無理にただで提供させようとしてくる奴が来かねないからな。

見た目だけならひ弱な女性たちが経営している風である。

力づくを厭わない奴が現れてもおかしくない。


実際には下手な男よりは強い人しかいないが。

リオンに至っては最強だが。


「ねぇ、お母さん。あれなぁにー?」

「食べてみますか?」

「……子供にも食べられるものなの?」

「何も問題はございませんよ。よろしければ、お母様が先に食べられてはいかがでしょう」


アンが提供する。

胡散臭げな顔をしながらもにおいを嗅ぎ、大丈夫そうだと判断したお母さんはとりあえず一口食べる。


「あら、これは……」

「ねぇ、お母さん! 私も食べたい!」

「えぇ……、いいわよ」


子供に押されて器を渡すお母さん。


息でふぅふぅと冷ましてから麺をすする女の子。

もうこれだけで癒される光景ではあるが、この後の反応が大切。


「お母さん! これおいしいよー!」


よっし!

路地裏でガッツポーズを決める俺。

子供は正直であり、その反応を疑う者はいない。

作戦は成功だ!

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