メイドは間違いなく正義

「流石に長すぎるとなんか麻痺してくるな」

「これで克服できたのではないかの?」

「いや、それはない」


10000メートル超えの山を登るロープウェイ。

それはそれは乗ってる時間も長かったのだが、ちょっと感覚がマヒしてるな。

だが、これで慣れたかと言われればそれはまた別の話だ。

次に乗るときはどうせまた怖い。


「で、ここはちゃんと洋風なんだな」


もうこれでもかってくらい偉い人が住んでそうな洋風の館。

城と豪邸の中間って感じだ。


「お邪魔しまーす」

「いや、待て待て待て待て」


サラーっと門の中に入るリオンを慌てて止める。


「?」

「『?』じゃねーよ。ほら、あるだろ。守衛さんに挨拶とかさ」

「大丈夫だよー。入っちゃダメな人はそもそもロープウェイにも乗れないようになってるからー」

「その割にはあっさり乗れた気がするけど」

「あ、違ったねー。乗れないんじゃなくて、乗っても落とされるんだよー」

「落とされる……」


あの大空洞のなかで籠がロープから外れて自由落下させられるという事か……?

想像するだけで恐ろしい。

いや、俺はステッド・ファストがあるからされても最悪籠の相対位置を固定してその場に留まることは出来るという事はわかっている。

わかっているが、そういうことじゃない。

なんかもう、わかるじゃん。

籠という密閉空間に押し込められたまま自由落下させられる絶望感。


「だから、少なくとも私たちはいきなり殺されるなんてことはないよー」

「お、おぅ……」


なぜ言うに事欠いて「殺されることはない」なのか。

逆に怪我ならあるのか。


「はっ!」


俺が言葉に違和感を覚え、周りに意識を向けたその瞬間。

メイドさんが襲い掛かってきた!

その手に出刃包丁を携えて!


「主!」


オーシリアが俺の眼前でステッド・ファストの壁を張り、九死に一生を得る。

今、全然気配がわからなかったぞ!


「相変わらずの隠密術だねー」

「……お褒め頂き光栄ですが、傷一つつけれないようでは私たちもまだまだですね」


俺がメイドさんと断定したのは襲ってきた人たちが第七界こっち特有の褐色の肌に角という特徴はあるものの、由緒正しきメイド服を着ていたからだ。

ただのメイド服ではない。

由緒正しきメイド服である。

流石西洋風の館というべきか。


今でこそメイド服は「萌え」としての印象が強いが、元は華美にならぬようにと考案されたものであり、それにさえ「萌え」を感じる日本人のなんと業の深いことか。

俺?

俺はもちろん大好きですけど!

なにか問題が?


「お客様、大変失礼を致しました」

「あ、うん」


門入っていきなりメイドさんが襲ってくるなんいう珍事そうそうお目にかかれないからな。

うん、良しとしよう。


「旦那様がお待ちです。ご案内いたします」


当然のようについていくリオンの後ろに俺とオーシリアもついて行くが、え?

さっきのはなかったことになってんの?

なんでみんなそんな通常運転なの?

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