魔界奔走

魔界、再び

ふと、自我を取り戻す。

意識を失う数秒前のように、周りは暗闇だ。


もしや、失敗したのかという疑問を振り払う。

あの時、確かにレインの声がした。

俺たちは成し遂げたはずだ。



バチイイン!!


頬を圧倒的な衝撃が襲い、一気に覚醒させられる。


「あ、起きたぁー」


どこかで聞いたことのある呑気な声が聞こえ、あまりのことに目を開けられない俺の頭がなにか柔らかい物の上にのせられる。


あ。


声の主のことを思いだし、このまま目を開けないのもありか? などと考えながらも目を開ける。


そこには、山があった。

2つの、大きな山である。

ただ、俺の視点から見ると、まるで空から生えているかのように真逆だ。


「やっほー、弟君。元気だったー?」


ひょこっと2つの山の間からこちらを見る久しぶりの相手に俺は苦笑いを返す。


ちなみにだが、お察しの通り2つの山は胸であり、俺は膝枕をされているようだ。


「たぶん、リオンと会っている時点で元気とは言いがたいんだよなぁ」

「それもそうだねー」


バンフリオン・エンマ。

時期閻魔大王その人である。



整理しよう。

俺は記憶の直前まで幻想級ファンタズマルと戦っていた。

んで、文字通り叩き起こされて目を開ければそこには第六界まかいの住人であるリオンがいた。


うん、ここまでなら俺は完全に死んでるよな。

間違いないな。


「おぅ、起きたか」


頬の痛みに耐えながら頭を声のした方に向けると、魔王アンリさんが着流し姿で座っていた。

あ、ガチで死んでんじゃん。


「突然こっちに来たかと思ったらそのまま4日も眠りこけやがって。こちとら忙しいってのによぉ」


4日も寝てたのか。

道理でからだが怠いわけだな。


「とりあえず確認させてくれ。俺、死んでる?」


俺以外にこの質問を口にしたことのあるやつがいるだろうか。


「残念ながら、死んではいないな。死んでたら俺がさばかなきゃいけないところだが、その必要もない」


アンリさんの回答に、ひとまず胸を撫で下ろす。

死んではいないのか。

なら、前みたいにこっちに持ってこられただけか?


いや、こっちに来たと言っていたな。

つまり、今回俺がこっちに来るに際して、アンリさんは関与していない。


この世界で

アンリさんの次に影響力があるのはリオンだが……。


一応、双丘の間から顔をのぞかせているリオンの方に目をやるが。

うん、ないな。

「?」っていうこれ以上ない平和な顔をしてやがる。


この状況に親バカアンリさんが口を出してこないのも謎だ。

前なら俺をぶっ殺ルート確定だったのに。


色々と聞きたいことが多すぎるが、とりあえずは。


「なぁ、俺が起きる前に頬に尋常じゃない衝撃がきたんだが、それに関して何か知っていることはないか?」

「あー、それはお姉さんがね? 起きないかなーって叩いてたんだよ。まぁ、それで弟君も起きたことだし、良かったよね!」

「なにが良かったんだよ!?」


やっぱこいつかとは思ったがそんなことある?

4日も寝てる奴を叩けば起きるかなとか考えても実行するか?

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