決着

「あぁっ!!」


気合い一閃。

横薙ぎに小太刀を振るい、幻想級ファンタズマルの靄を斬り飛ばす。

ここで、俺が入れないような隙間しかあかないようなら退くと決めていたが、ちょうどこちら半面くらいの穴が開く。


「っ!!」


声にならない声をあげ、そのまま懐に飛び込む。

小太刀を引き戻し、先ほどとは逆向きに幻想級を斬りつけ、そのまま横に通り過ぎる。


幻想級を包んでいた靄は、少なくとも50センチメートル程本体から離れていたので俺が触れてしまうことはない。


通り過ぎた先で俺は残身を取る。

なんてことはない。

武道なんてやってないのだから。


残身とは、武芸において技を終えたのちに弛緩しながらも警戒は緩めないといった意味を持つ。

だが、武道に関してなにもしていない俺にそんな器用な真似は出来ない。


よって、すぐに振り返り、キラから習った決して綺麗とは言えない剣を振るう。

精々1か月くらいしか学べていないのだ。

そう簡単に形になるはずもないが、今は幻想級を屠るだけの力があれば、それでいい。


「主! MPが尽きるぞ!」


背中のオーシリアが半ば絶叫しながらそんなことを伝えてくる。

近づけば近づくほどMPは吸収されるので、間近にとどまっているこの状況は最も危ない状況だ。

力が抜けていくのを感じながら、それでも必死に剣を振るう。



俺にとっては更に悪いことに、視界が暗くなってきた。

幻想級の周りの靄が、また閉じようとしているのだ。

一瞬脱出も考えたが、既に俺が通れるような隙間は存在しない。


ガクン。


靄が完全に閉じたと同時に、俺を今までの数倍の虚脱感が襲う。

より、MPが吸収されるようになったようだ。


「主! 主!」


必死に呼びかけるオーシリアの声にこたえる余裕もなく、歯を食いしばり、片膝立ちで剣を振るう。


あ、これ、駄目なやつだ。

一気に体の力が抜け、崩れ落ちる。

幻想級の足元で土下座をしているような状態だ。


何も見えない中、右手の下にある小太刀を持ち上げ、目の前に感じられる幻想級の足にぶっ刺す。






次の瞬間、世界がホワイトアウトした。


暗闇からいきなり放り出された俺はそのあまりの眩しさに目を開けることが出来ない。


「……レさん! ……ブレさん! ……やったんですよ! ……がいだから目を開けてください! ……レさん!!」


もはや近いのか遠いのかわからないが、レインの声がする。

あの靄の中が外から遮断されていたのを考えると、俺はどうにかしたのだろう。


だが、しっかりと声が聞こえない。

俺は口も動かせず、ただ、心の中で思う。


頼む、レイン。

俺の名前を……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る