七夕特番 ~願いの叶う日~

「今日は7月7日だな」

「なにかあるんですか?」


思い出したかのように呟いた俺にレインが問いを返す。

まぁ、ほんとにふと思い出しただけなのだが。


「いや、7月7日を七夕って言ってな? お願い事をする風習があったんだよ」

「へぇー、そうなんですか。どういった成り行きで?」

「どうだったかなぁ……」


確か中国の古い風習で織姫にあやかって女性の機織りや裁縫が上手くなるように願ってたってのが発祥だった気がする。

で、どんどん派生して芸事や書道の上達とかにもお願いするようになったとか。

日本ではもはやそんなことは関係なく、お金が欲しいとか俗物的なお願いもあったけどな。

ちなみに「たなばた」って言うのは、日本では棚機たなばたで女性が着物を織って、棚にお供えして神様に豊作などを祈願していたところからきているらしい。


「有名なのは織姫と彦星か」


いきさつを話してあげると、隣で聞いていたプリンセとオーシリアは号泣。


「……1年に1回しか会えないなんてかわいそう」

「もっと会わせてあげることはできんのかの?」

「俺に言われても……」


物語の決定権ないし……。



「確かに悲しいですけど、同時にロマンチックでもありますね」


レインは少し違う捉え方をしたようだ。


「1年間待ちに待ってから、ようやく愛しい人と会える。その期間は待ち遠しく、すごく長く感じるでしょうが、会えた時の嬉しさは相当なものだと思います。リブレさんはどう思います?」

「あ、俺?」


そう言えば考えたことなかったな。

そういうお話があるのかってくらいにしか考えてなかったかもだ。

そんな心情どうこうまで考えたことがなかった。

こういうところに男女の思考の違いが出るのかもな。



「そうだなぁ……。楽しいんじゃないかな」

「へ?」


俺が予想外の答えを言ったようでレインがポカンとする。


「いや、だってこいつらは星なんだぞ? 寿命なんて俺たちの何億倍だよって話になるだろ。ということは彼らの体感では俺たちにとっての1年は精々1週間くらいなんじゃないか?」


もう何億年生きてるのか知らないけど。


「週1でデートするカップルだと仮定すると、次はどんな話をしようかなとかを考えながら自分の仕事をして1週間を過ごすわけだ。かなり楽しそうじゃないか?」


経験がないからわからんが。

レインとはけっこう一緒にいるし。


「なるほど……。そういう見方もできますね」

「……織姫と彦星、さみしくない?」

「あぁ、あいつらはそれで仲良くやってるんだと思うよ」

「……ん」


プリンセの頭を撫でながらなだめると、安心したように尻尾が揺れる。



「そういや、短冊にお願い事を書くんだっけか」


笹はないけど。

昔は宮中行事だったから梶の葉に和歌を書いてたらしいけど庶民はそんなの手に入れられないので笹につるすことになったらしい。


「一応、それっぽいことしとくか?」

「……やりたい」

「わしも! わしもじゃ!」

「……じゃあ、やりましょうか」


意見が一致したところで紙と筆を用意し、各々願い事を書く。



「……できたよ」

「わしもじゃ!」


年少(?)2人組が先に出来上がる。

どれどれ。


『このままたのしくくらせますように プリンセ』

『おいしいご飯をもっとたべたいのじゃ オーシリア』


プリンセの素直さとオーシリアの欲に忠実なのが如実に出てるな。


「……リブレさんは?」

「俺は、これ」

「働きたくない……じゃと?」

「一番クズな事書いてません?」

「なにを!? もっともな願いだろ!」


誰しも働かずに生きれるならそれが一番だろ!


「レインは?」

「秘密です」

「え、俺たちの聞いてたのに……」

「秘密です」



レインは頑なに見せようとしないので、みんなが寝静まった夜にこっそり確認しに外へと向かう。

1つの木にみんなで結んだから場所はわかっている。


「お、これか」


『お父さんとお母さんが天国で仲良く暮らせますように レイン』


泣かせにくる!

自分のことじゃなくて天国の両親のことを想うとか偉すぎだろ!

こんな娘が育ってるんだ。

楽しく暮らしていないはずがないだろうな。


そっと紙を戻して、俺はまた眠るために家に帰るのだった。

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