幻想級迎撃

隠し事が苦手なタイプ

俺たちはそのまま外に寝っ転がって朝を迎えたわけだが、夜明けを拝んでロマンチックに、というわけにはいかなかった。

なぜかって?

単純に太陽が出てくる向きじゃなかったから。

この世界の方位は知らないけども、太陽っぽいやつは毎朝同じ方向から昇って同じ方向に落ちる。

それがアルニィ家の玄関側だったということだ。

締まらんなぁ。


レインとは一応、その、付き合ってるとかいうのは伏せといていつも通りでいようってことになった。

こういうのは遅かれ早かればれるものだが、まぁすぐにっていうのもなんだからな。

ただでさえ人間とエルフの間には溝があるんだから。

そういう話だったのだが……。


「レイン、ご機嫌だな……」

「そうですか? 僕はいつも通りですよー」


レインの一人称は僕でいいんじゃないかということになった。

その方が慣れてるし。


「いやー、俺は視えてるから仕方ないとしてもなぁ……」


ニヤニヤの一端が口の端に現れてる。

口角が下がりきってないというか、ちょっと上がっているというか。

俺も浮ついていないかというともちろん浮ついているのだが、外に出さないと決めたことは割と守れる方だから、まぁなんとかなるだろう。



「おはよう……。二人とも早いね……」

「お、おはようプリンセ。よく眠れたか?」

「んー……。なんかの音で一回起きた気がするけど……。敵意感じなかったからそのまま寝ちゃった……」


十中八九レインの叫びだな。

流石に起きるか。


「あ、レインさんが朝ごはん作ってる……」

「手伝ってくれる?」

「うん……!」


エルフとケモ耳の美少女がエプロンつけて料理してるのいいなぁ……。

あれ?

オーシリア美少女もどきはどこいった?



まだ寝てるんだろうな。

起こしに行ってやるか。

俺が席を立って階段を登ろうとしたちょうどその時。


「? レインさん、何かいいことあった?」

「え!? な、なんでですか?」

「んーと、嬉しそうだったから?」


雰囲気だけでばれてる……。

レインは隠し事が出来ないタイプなのかな……。

こりゃ露呈するのはだいぶ早そうだ。


「起きろー!」

「起きてる! 起きてるのじゃ! じゃから布団を剥がそうとするでない!」


1人でベッドでスヤスヤと寝ていたオーシリアを起こす。

ご丁寧にも真ん中まで移動してしっかり枕も使ってやがった。


「それはそうと主。あのエルフと婚約したようじゃな」

「婚約!?」


そんな重いの!?


「そりゃそうじゃろ。別れるのを前提で付き合う奴がおるか」


うーん、その意見には本当に賛成なんだけどな。

日本はいつか別れるだろうなって思いながら付き合うのが常な国だからな。

特に俺の年だと。

改めて言葉にされるとまあまあ重い。

うーん。

後悔は微塵もないけど、なんかなぁ……。


「それでじゃ。主もあやつと一緒に幻想級ファンタズマルに挑むのじゃろ?」

「お前昨日の丸々聞いてたの?」

「主がわしから離れていってるのを気にかけないはずがなかろうよ。そもそもあんなに大きな声を出しておったからの。プリンセはまたすぐ寝たようじゃが」


昨日俺なんか恥ずかしいこと言ってたかなぁ……。


「ほっ!」


心配になる俺をよそにオーシリアはベッドから降りてドアへと向かう。


「それならそれでやることは多いのじゃ。あまり時間はないぞ」

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