激昂

「悪いがエイグさん。これは遊びでもなければ訓練でもないんだ」

「そんなことはわかっているわ! でも……!」

「その発想がでる時点でダメなんだよ!!」


俺は自分で思っていたより余裕がなかったのか大声を出してしまう。

今回の潜入は二つ名ダブル持ちの中でも実力はトップであろうキラと、曲がりなりにも上位二つ名ハイ・ダブルを持っている俺もいるから参考にならないこともないんだろうけどな。

しかし、エイグにはキラといたいという下心、{恋慕}が見て隠れしている。

学びたいという言葉も嘘ではないんだろうが、それがある時点で俺にはどうも真剣ではないように思えてならないのだ。


「今回は文字通り命懸けなんだよ! これから成長したいやつなんて面倒を見る余裕はない! しかも幻想級ファンタズマルなんていう他の問題も差し迫ってる! なれるかどうかもわからない二つ名なんかよりも目の前の問題にどう対処するかを考えるべきだろ!? それに……!」

「主、そこまでじゃ」


オーシリアがその小さな手で俺の目をふさぐ。


「少し落ち着くのじゃ。ここで騒いでも何も好転せんじゃろ? さっき自分でも言っておったではないか。常に上を目指すのは、主も否定せんし、むしろ好きな方じゃろ? 必要なことだけを伝えればそれで十分ではないか」

「……悪い。少し冷静じゃなかった」

「よい、よい、常に冷静な人間などおるものか。そういうときのためにわしがおるのじゃからな。存分に頼るがよいぞ」

「あぁ、頼むわ」



俺はエイグに向き直る。


「悪かった。言いすぎたな」


俺の大声にびっくりして丸くなってしまっていたプリンセの頭を撫でながらエイグに頭を下げる。


「ただ、エイグさんを今回連れて行くのは難しいし、エイグさんには他にやることがあると思うんだ。いくらキラといえどもカバーできないこともあるだろうし。そこに理解してくれると助かる」

「わかったわ。私も配慮が足りなかったわ。ごめんなさい」


俺の剣幕が凄かったのだろう。

強気なエイグもしおらしくなってしまっている。

しかし、俺はこれが間違っていたとは思わない。

なんせ俺にとっては国王のお願いなんかよりよっぽど重要なレインの捜索をしなければならない。

俺自身に余裕がないのだ。



「では、潜入はキラとリブレで行くということでよいかの?」

「そうだな」

「では、2人にはあとで潜入用の軽装備を与えようと思うのじゃが?」

「陛下、僕は遠慮させていただきます。普段から着ているものの方が間違いがありませんので」

「うむ、リブレはどうじゃ?」

「俺は貰っておきたいな。今のままじゃ心許ない」

「あいわかったぞ、では後で渡すとしよう。では、お主たちにやってもらうことの具体的な話に入るとするかの」

「そうだな。是非聞いておきたい」


一応やることがあった方が方針も固まるし、聞いておかなければ作戦の立てようもないからな。

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