人の噂は光の速さで

プリンセとオーシリアを連れて歩いて城へ向かう。


「しかし解せん……」


ハンネのあの薬のおかげで今動けているのは確かなのだが、果たして本当にそれでいいのかと理性が訴えかけてくる。

よく考えずともわかることだ。適当に調合したやつにろくな効能があるわけがない。

不安だなぁ……。



「あれ? あれはリブレ様じゃないか?」


街を歩いていると、俺とレインが食料調達によく来ていた青果店の店主に気づかれた。

1人が気づくとそこからみるみるうちに情報は広がっていき、すぐに人だかりができてしまった。


「リブレ様、お帰りなさい!」

「リブレ様、どこに行ってらしたんですか?」

「なんでいきなりいなくなっちゃったんですか?」


俺自身は3,4週間前にランガルに帰ってきてはいたんだが。

夜に行動していたり、エルフの街に行っていたり、ダンジョンに潜っていたりしたから俺が戻っていたのは認知されていなかったらしい。



「プリンセ様もいらっしゃるぞ!」

「お二人は仲がよろしいことで有名だからな!」


有名なの? それはやばい。


「しかし、もう1人の幼女はどなただ?」

「お二人と一緒におられるんだぞ。ただものではないだろうよ」


杖だしな。


「レイン様やプリンセ様といい、もしやそっちの趣味がおありなのか?」

「滅多なこと言うんじゃねえよ!」


あ、沈黙を守っていたが思わずツッコんでしまった。



前は街道整備とかしてた関係で人にも慣れてきていたが、その矢先に魔界に落ちた。

それ以降ほとんど人にあっておらず、ダンジョンにいる間なんて1人だった。

オーシリアが出てきたのも最後の数日分くらいだ。

つまり、何が言いたいかというと、こんな大勢に囲まれるという状況が耐えられない。


「リブレさん、大丈夫……?」

「残念ながら、だ、大丈夫じゃない……」


もう視線に耐えられない。


「主、主……。わしももう辛いぞ……。なにせこれほどの人に囲まれたのは初めてじゃ……」


オーシリアもだいぶ参っているようだ。

俺の服の裾を掴んでくっついている。

ほんと、芸能人とかはいつでもこういう中にいるんだろ? よく生きてられるな。



よし、こういうときにやることは1つだろう。


「逃げるか」

「よしきた、なのじゃ」


意見が一致していたらしく、オーシリアがすぐに上空に空気の階段を作って逃げる。

周りの人は唖然としているが、固まっている間に逃げてしまおう。

ちなみにこの階段は俺とオーシリアには見えるが、プリンセには見えないので俺が抱えている。


「重くない?」

「いや、全く。ありがとう」

「? お礼言うのわたしじゃないの?」


おっと、心の声が漏れてしまったようだ。



まぁ、そんなことしている余裕はないが。


「オーシリア、どっか隠れられる場所探してくれ」

「? 人目につかなければいいのじゃな?」

「あぁ、頼む」


オーシリアの先導で高い建物の上に降りる。

下にばれていないことを確認してプリンセをおろすと、俺は膝をつく。

そして、そのまま吐いてしまった。


「主!?」

「リブレさん!?」


くそ、やっちまった……。

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