杖の真価

砂漠って凶悪だよね

あ、ここってあれか。ランガルとドルガバの間にある砂漠か。

にしてもなぜわざわざここに俺を連れてきたのか。

「ヘスティアさん…?」

ここに至り、俺はやっと気づいたのだ。既に俺の周りにヘスティアさんの姿がないことに。

「嘘だろ!?」

本当に聞きたい。なぜわざわざこんなところに連れてきたのか。百歩譲ってすぐにいなくなったのはいいとしよう。神様が自分の世界で一個人に肩入れするのもどうかとは思うし。こっちに戻してくれただけありがたいことだと思うよ。

ただ、なんでここなんだよ!?


2時間後。

俺は遠くに見える道を目指して歩いていた。恐らくは俺が主導していたランガルとドルガバの間に作った街道なんだろうけど、あまりにもできるのが早すぎる。もしくは逆か?俺が第七界あっちで2週間ほど過ごしている間に第六界こっちでは何か月も、若しくは何年も経ってました的な?


「ほんとに遠いな…」

砂漠ってのは本当に歩きにくい。遠くから見るとただのなだらかな丘程度にしか見えないものも細かな砂に足を取られて思ったように進めない。そして暴力的なまでの暑さ。ランガルは控えめに言っても温暖っていう程度の気候だったからこっち側は砂漠でこっち側は森って感じにヘスティアさんが決めてるんだろう。変なとこだけゲームである。

「あれが蜃気楼でできた幻とかだったら終わりだな…」

実際に砂漠を歩いた経験などありはしないのだが、そういう物語はゴロゴロある。必死の思いでたどり着いたオアシスが幻で力尽きるとか、離れた場所が熱でぼやけて見えて水場に見えてそこを目指すけど絶対にたどり着かないとか。


「それ以前の問題だな…」

リオンから水を貰っていたのだが、その水も底をつきそうである。確実に目標には近づいているので道自体は幻ではないと信じたいのだが、そこにたどり着く前には力尽きてる可能性が高い。

「スタミナとかのパラメータはないから原理的に進めなくなることはないんだけど…」

空腹とか水分の枯渇とかはさすがに状態異常に含まれるんじゃないか?度を過ぎたらじわじわとHPが減ってく的な。


「ここまで偶々エネミーには会ってないけど…。会ったらどうしよ…」

こういう時は思考が悪い方へ悪い方へいくものである。それだけ精神が参ってきてるんだろうね。歩きっぱなしだし。

で、こういうときの心配事ってのは当たる傾向にある。


「うおおぉぉ!?」

いきなり地面が落ちた。また魔界かとも思ったが、さすがにそれはないだろうと思いなおす。

少し冷静になって下を見るとえぐいギザギザのハサミを持ったエネミーが待ち構えている。簡単に言えば蟻地獄的なやつである。

「グロい!!」

一瞬で自分があそこまで落ちてしまった姿を想像した俺は思わず叫ぶ。

「ステッド・ファスト!」

自分の下に平面型の空気を固定し、俺も固定される。


「とりあえずはこれで生きてはいられるんだけど…」

如何せん俺にはここから這い上がる手段がない。このままでは干からびるのを待つだけである。

誰か、助けてください。

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