第46話
彰夫は跳ね起きた。
「テルミ…お前いつから…」
「いったい誰にプロポーズしてるのよ?」
「…久しぶりだね…」
「なにが久しぶりだねよ。人に膝枕させて、いい気になってんじゃないわよ」
興奮して言っているうちに、テルミの黒い瞳に大粒の涙が溢れ出した。
「お前泣いてるのか?」
「黙れ、ばかやろー。彰夫は何も解っていない」
テルミは、立ち上がると家に向って足早に歩きだした。
歩きながらも、人目もはばからず泣きじゃくる。なすすべもなく、彰夫は2メートルほど後ろをついて歩くしかなかった。
マンションに着くと、テルミはそのまま自分の寝室に閉じこもってしまった。彰夫は彼女の寝室のドア越しに話しかけもしたが、中からの応答が無い。お酒でも飲まないかと誘ったが、ドアは開かなかった。
彼女の寝室のドアのそばで腰を掛けて、辛抱強くテルミか好美が出て来るのを待っていたが、しばらくすると彰夫は床の上で眠ってしまった。
彰夫は窓から差し込む日の出の眩しい光で眼を覚ました。
テルミが入って行った部屋のドアが開いていた。覗きこむと中に好美やテルミの姿はなかった。部屋を一通り見回ったが、彰夫ひとりでは誰も居ない。携帯に電話をしても、電源が切られている。
ふたりは彰夫の前から忽然と姿を消したのだった。
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